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1-2-11-1 【桜瀬七波】 Call of White Note 1

 ……見るよねー、夢。  そりゃあんな気絶のし方したら、そこから夢を見ないとか展開としてないわーと思う。  もうね、脈絡なく物語の伏線張るのにこんなに適したシチュエーションとかないワケですよ。ワケ分かんなくてもいいもん。夢だもん。夢ってそういうモンだもん。  例えば唐突に。  シーンはこんな四角い真っ白な部屋の中。  しかも、なぜかあたしはその部屋の真ん中で椅子に座って、身動き一つできないありさま。……夢じゃなかったらさっきの気絶からどう繋がるってんだ、コレ。  まぁ……いつも通りの事なんだけどね……。  そしてさらに理不尽な事に、あたしはこの椅子から動けない。だから、思索に耽るのが関の山、と。  いや、でも、人の夢ってホントにいろんな形があるなって思う。  起きる直前に寝言で夢の中とおんなじ言葉を張り上げて起きる人とか、結構な確率で予知夢とか見たりする人とか。  そういえば中学の時のクラスメイトに、『夢で朝起きる直前にエンドロールが流れる夢をいつも見る』っていう子がいて、しかも夜中に途中で目が覚めても、もう一度寝たら、同じ晩なら覚める前の夢を継続して見るって言うから、寝てる間の頭の中、完璧にDVDの映画だよ。話聞いてて、夢って不思議だなーって思った瞬間だったかなー。  不思議な夢と言えば、学校の授業中とかに机に突っ伏して寝てて。  で、そこから体が動くわけでもないのに、夢の中で急な坂道を一気に下ったり、もっと分かり易くどっかから落っこちたりすると、一瞬ホントに浮遊感が生まれて、体が前に倒れそうになって、『ガタン!』とかバカでかい音を立てて目が覚めたりする事、あるよね? ……あるよね?  夢は夢の中に世界があって、そこで独自の物理法則を持ってたりするんじゃないかと感じた。  アレだ、『インセプション』のキックとかコレのせいで納得する。まぁ、アレはどっちかっていうと外の衝撃で目が覚めるんだろうけど、落ちる感覚って絶対に目を覚ましちゃうみたいなんだよね。  お昼過ぎの授業中、先生が寝てるあたしを引っ叩きに来て、その直前、あたしが『ガタン!』をやって逆に先生をビビらせるという事をやってのけ、半ギレになった先生から廊下に立たされるという、のび太みたいなシチュエーションに至る栄誉を頂いたのはあたしです。……咲子が顔を背けて、肩震わせてたよ。  夢って、結局今でもそのメカニズムとかあんまり解明されてないんだってね。心理学とかの分析も結局……なんだっけ、とーけー学? だかに基づいた推論に過ぎないとか、ウチのお客さんが言ってたなぁ。  あと、寝言に返事しちゃいけないとか言うよね。夢の世界と現実が入り混じって起きてこれなくなるとか。起きて来ても心は夢の中に行っちゃったままになるとか。  ウチのお兄ちゃんが結構な寝言魔(そんな言葉あるかどうか知らないけど)で、いつだったかあたしがお店で勉強してる時に、お兄ちゃんがカウンターの中で居眠りしてて。突然むくりって起きたと思ったら『七波ちゃん、晩ご飯、刺身とステーキでいいかな!?』って元気よく真顔で聞いてくるから『お、おう』って答えたら、『分かったよ!』って言って、そのまま再び居眠りに戻った。  起きたと思ったら完全に寝てたっていう。  ……ってか、なんだ刺身とステーキの取り合わせって。どんな夢見てんだ。  ちなみにその日の晩ご飯はシチューでした。ステーキもお刺身も食べられませんでした。チックショウ、シチューおいしかった。  そんなワケで、寝言に返事しても、ちゃんとお兄ちゃん起きてきました。俗説は俗説でした。……返事しちゃいけないって言われたって、あんな勢いで聞かれたら返事しない訳にいかないっつの。  まぁ、そんなワケで千差万別、十人十色、多種多様な『夢』なワケだけど、多分、多くの人にとって共通の、一つだけ間違ってない事がある。  見る夢は選べない。  夢がコントロールできて、人が寝てる間にいつでも楽しい夢を見られるとしたら、世の中ってもうちょっと平和かもしれないって思うのはあたしだけだろうか? 結局寝入ってしまったら、人は何一つ自分の思い通りにはならないワケで。  初夢に一富士二鷹三茄子とかアレ無理だから。七福神の絵を枕の下に入れたら見れるとか無いから。どうしてアレ広まったんだ……どこのダレだよ宣伝元は……。  しかもアレには続きがあって、末広がりの『四扇』、煙が上に上がる――運気の上がる『五煙草』、毛が無い――怪我無いの『六座頭』って設定しすぎだろ! ……全部一晩で見られたら、運を使い切って翌日死ぬんじゃないかと思われる。  まぁいいや。  えっと、なんだっけ。  ……あぁそっか。  夢って時折ホントに辛いこと、あるよね。  悪夢だけじゃなくて。  幸せな夢も、起きればそれは『儚く』消える。願望が叶ったと思っても文字通り夢幻のごとくなり。by敦盛。  本当に本当に願ってた事が叶って喜んでたのに、ふとした瞬間に露と消えるなんて残酷にもほどがあるだろう。  とにもかくにも。  良くても悪くても。  自分のことなのに、夢という形で、どこからか来たイメージを突き付けられる。夢って本当に暴力だと思う時すらある。  だからせめて。  夢は忘れてしまえればいい。  そうすれば目が覚めても、苦しむことはない。そう、それがせめてもの救い。  四角い白い部屋が、煙草の火を押し付けられて焦げていく紙のように、滲みながら赤黒く変わっていく。  いくつも。  いくつも。  大きく。  大きく。  忘れてしまえればいい。  あたしみたいに。  身じろぎ一つできず。  血の海に沈む夢を、突き付けられ続けるのなら。
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