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1-1-9-3 【桜瀬七波】 始まりの声 3

フレイバーン「クソガキ……! ビビりすぎで頭おかしくなっちまったかよ……!」  目の前で銃を突き付けてあたしを脅しつけるフレイバーン。  こいつはあたしを殺す事に躊躇う理由なんかない――こいつがもしもゲフリーさんの言う通り、宇宙人だとしたら。  こいつはあたしを殺してこの星から消えたとしたって、何のお咎めもないんだろう。だからこの星の人間を一人殺したって二人殺したって、平気な顔をしていられる。  宇宙の警察のモラルってのがどうなってるかは知らないけど、そんな人殺しを軽い事故程度にしか見てない奴なら、あたしから情報を聞き出して、殺しちゃえば後腐れなんて何もないはずなんだ。  情報を聞き出せば、それでおしまい。  でも。  そんな中、今、あたしは不思議と自分を感じられる。  恐怖で怯えて、自分の事しか考えられないような状態じゃなくて。  自分が今、どんな姿をフレイバーンに晒しているかを、外側から見ている感じがして。  そしてその姿に、あたし自身、満足してる。  うん、すーっとしてる。  (ィィィ……!)  そう、怖くなかった。  振り返ってみれば、自分でも驚くほどに。  涙を零したのは、怖いからじゃない――ただ『あたしが瞬きをしてない』からだ。  頭の奥で。心の奥で。  (ィィィ……!)  何かが。  (ィィィ……!)  あたしに語り掛ける。  (ィィィィィィィィィ……!)  この程度の恐怖、『恐怖の内に入らない』と。  こうなったら、死ぬのは仕方がない。  でも、……!  ……。  ……『あの時』って……? フレイバーン「もう一回だけ聞いてやる……」  ……わっかんないや。  そっか、多分、怖くないのは『それ』が理由か。  なおさら分かんないね、それじゃ……。  じゃあ、どうしよっか?  どうやって死んだらいいのかな?  そう考える自分がある種、異常であり、それに気付けて、何となくおかしくなってまた笑いだしそうになる。 フレイバーン「ゲフリーレンはどこだ」 七波「ゲフリーさん……?」  ……。  ……。  ……ああ、そうだ。   ◆ ゲフリーレン『お前の目の前に広がる道』 ゲフリーレン『……どこへ歩みを向けるべきか迷ったら、何に捕らわれる事もなく、世界に向けて大声を発してみてもいい』 ゲフリーレン『それに意味がなくても。それに理由がなくても』 ゲフリーレン『そうすればもしかしたら――』 ゲフリーレン『それを耳にした未来のお前が、手招きをしてくれるかもしれない』   ◆ 七波(うん、ゲフリーさん……)  生きられないなら。  どうせ殺されるなら……! 七波(……あたし、ゲフリーさんのこと、ちょっとだけ信じるよ……!)  誰かの言葉に命を賭けて死んでいったって結果は変わらないじゃないか! 七波「……ここからだよ」 フレイバーン「……あ?」  聞け……未来のあたし……! 七波「ここで殺されそうになったって、この場で殺されたって……!」  届いたら、存在していたら――未来から手を伸ばせ……!! 七波「あたしは『あたし』を始める事を、諦めたりするもんかぁっ!!!」 フレイバーン「……そうかよ……答える気がねェならっ……!」  銃を構え直すフレイバーン。  そんなフレイバーンを、あたしは下から睨み据える……! フレイバーン「っ……!?」  僅かに怯んだ色。  そうだよ……あんたはさっきの男を殺したんじゃない……!  ゲフリーさんを追いかける途中、『結果的に死なせただけ』なんだ……!  確かにあたしを殺す事は、こいつにとって何の問題もないかもしれない。  でも、こいつはあたしを殺さない。ただ単に勇気がないだけか、それともゲフリーさんへの手掛かりと本気で思ってるのか――あたしはゲフリーさんがどこに行ったかなんて知らないのに。  ぐずぐずしてる間にゲフリーさんはどんどん逃げていくはず。  なのに、最後には殺すにしても、ゴム弾だかで脅す事ぐらいでこの状況をどうにかしようとしてる。  あたしを殺すことに、実は躊躇してる……!  だから、あたしは――! 七波「ゲフリーさん、フレイバーンはここだぁぁぁっ!!!」  あたしが『あたしの望むあたし』になることを始めるために……ゲフリーさんを助ける!! フレイバーン「なっ……おい、コラぁっ!!」  ゲフリーさんっ……行けっ……! ここから…… 七波「ここから逃げっ……!!」 ??「呼んだか」 フレイバーン「……何っ!?」 七波「っ!?」  フレイバーンの背後に人影……!  フレイバーンが右回転で振り返る……!  でも、そちらから向けようとしていた銃をその人は――ゲフリーさんは左手で止めた……!  そして、その反対の手で……!  ――バシィィっ!!!  フレイバーンのマスクのバイザーを思いっきり引っ叩いていた。 フレイバーン「くぁっ!? て……てめっ……」  重量のありそうな甲冑姿のフレイバーンはその平手打ちには全然動じなかったが、その直後、動揺し始める。 フレイバーン「なっ!? 何しやがったっ……!?」  そしてその一瞬の隙に、ゲフリーさんが身をかがめて……! ゲフリーレン「……ぬんっ……!」  文字通り、浮足立っていた片足を大きく手で払う……!  体勢の安定していなかったフレイバーンは、その手による足払いで大きく後ろに倒れた。  ゲフリーさんが、すぐにあたしに駆け寄ってきて。 ゲフリーレン「……ナナミ、無事だな」 七波「ゲフリー……さん……!」  死への緊張から解かれた心の緩みがあたしを一瞬だけ乙女にしてしまう。 七波「ゲフリーさぁんっ!!」  不覚にも、あたしは思わずゲフリーさんに抱き着いてしまっていた。ぎゅぅぅっっ、と。  ……いやマジ不覚。 ゲフリーレン「よし、立て」 七波「ぁ……で、でも足が……」 ゲフリーレン「その足は緊張で痺れているだけだ。折れてはいない、せいぜいが打撲だ、生きたければ引き摺ってでも走れ!」 七波「……んくっ……!!」  その全っ然優しくない物言いに一瞬腹を立てかけたが、それでいつものあたしが戻ってくる……!  立ち上がって、フレイバーンを尻目に、爪先の溶けてるゲフリーさんと同じように、足を引き摺って走り出す……! フレイバーン「クソがぁぁぁっ!! ゲフリーレン、テメェっ!!!」  ドンッ! バシャァッ!! 七波「ひゃっ!?」  溶解銃から放たれた弾薬。  溶解液があたしのすぐ近くの地面で弾け、生まれた風圧があたしの足を撫でるも、幸いにして液体その物は飛沫の一滴もかからない。 ゲフリーレン「絶対に当たらん、走れっ!」  ゲフリーさんのその言葉には何の根拠もないとは思いつつ、湧き出した勇気を支えに、とにかく持てる全力で走るあたし。  未来のあたしって、どんなあたしか――今は全然思い描けない。  でもこうして助かったって事は、もしかして……  そのあたしに……声が届いたのかな――
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