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1-1-9-2 【桜瀬七波】 始まりの声 2

??「……ナナちゃん、ウチね」 七波「うん」 ??「なんや、『挿絵お願いできひん?』いうメール貰ってもーてん」 七波「……。……え、ホントに!?」  夕暮れ時の学校の廊下で。  古都は京都出身の友達、青川(あおかわ)咲子(さきこ)が、はにかみながらあたしに教えてくれた。 ??「ほら、ブルオデのイラスト、イラシブで描いてたやんか。なんかブルオデの本が出るんやけど、その編集さんがウチの絵を見てくれはってて……それで、何枚かコーナーイラストお願いできませんかー、いうてくれて」  『ブルオデ』ってのは、『ブルーライン・オデッセイ』っていう今世間で人気のスマホアプリ。  ファンタジー作品で、キャラの絵とか、そのキャラを絡めたストーリーが大人気。ゲームも飽きさせないイベントの作りがすっごく受けてる。  半年ぐらい前から咲子と一緒にプレイを始めたんだけど、咲子は更にハマりにハマって、イラストをバンバン描いて、イラスト投稿サイト、『イラシブ』に投稿してた。  あたしも咲子のイラストはホント綺麗で大好き。  あたしのスマホの待ち受けにもしてるボーカロイド・葦原ミズホのイラストは、実は咲子のイラストをダウンロードしたものだった。 七波「凄いじゃん、咲子っ! さすがだよ、この子はぁぁ……! よっし、これは祝杯ですな! お兄ちゃんもびっくりすると思うし、ウチに来てよ!」 咲子「あはは、せやね。あ、けど……ごめん、ナナちゃん、実はこの後、その打ち合わせー言うのする事になってて……」 七波「おお……! なんだか咲子、先生みたいじゃん! ……あれ? この後って、これからすぐ?」 咲子「せやねん、18時に出版社やって」 七波「そっかー、わかったー! うん、気を付けていってこいや、咲子ぉぉっ!!」  咲子は笑顔で手を振って、あたしの前を去っていった。  やったな、咲子……大好きな事を仕事に出来たらいいね、なんて言い合ったこともあったけど、まさかこんな早くにその機会が訪れるなんてね――ホントに良かったよ、うんうん。  はぁ……。  ……。  ……。  ……一人残り。  ……夕暮れ時の、視界に入るもの全てがオレンジ色を成し始めたそんな時間に。  友達が、別の世界に旅立ったような気がした。  ポケットに手を入れて。  中のスマホを取り出して電源をオン。  パスワードを打ち込んだ後の、スマホの画面に浮かぶアプリのアイコンをじっと見つめる。  ……好きなものに向かっていた、友達。  咲子と、同じものを見ていた、半年余り。  同じような無課金スタイルで、同じようなレベルで進んで、時々ゲットしたキャラに差は出たけど、一緒に楽しんだ時間は変わらなかった。  でも、その半年は、あたしと咲子にとって、同じ時間じゃなかった。  好きなものを楽しく、好きなように描き続けるという努力をしていた咲子は、  気が付けば世間に認められるようなイラストレーターという肩書を持った高校生になっていた。  あたしは、なんだ?  あたしは、同じ時間で一体、何になった?  ……。  ……何にもならなかった。  ゲームという娯楽の受け手として、ただ時間を消費し続けた。  もしも、その間で。  あたしに何かがあったら、あたしは何かになれただろうか?  ……。  分からない。  それは分からない。  だけど、今、あたしのそばにはそれを成しえる可能性を見せてくれた存在がいた。  咲子。  カッコいいよ。自慢の友達。  好きなものが、好きな事がちゃんとある咲子が羨ましかった。  だから、こんな事を考え始めていたんだと思う。  どっかに行っちゃうのかな? 咲子はあたしの知らない世界に行っちゃうのかな……?  もちろん、その背中を押すのはやぶさかじゃない。  だけど、  ……だけど。  ……。  気が付いた時には。  あたしは半年を積み重ねた、アプリを消していた。  ――この半年の、無価値な自分の時間を否定したくて。  でも逆に。  あたしはそれで、この半年という時間をただ無意味に捨てたような気分になった。……あったりまえだ、そんな行為に救いなんかあるわけがない。  でもキャラをガチャでゲットして、キャラを丹精込めて育てて、イベントボスを何体も倒しまくったその時間は、たったそれだけの指の動きで簡単に水の泡になった。  何にも晴れない胸。  誰にも張れない見栄。  カッコつけたつもりがカッコ悪くて仕方がない。  あたしの悩みの着地点が見えなくて。  どう考えれば落ち着けるのか分からなくて。  もやもやしたから。  すーっとしにきた。  そしてまた、夜の街をぼんやりと眺めて、ずっと悩んでた……。 七波(……でも)  でも。  少しだけ見えた気がする。  何になるべきなのか。  あたしはどうなるべきなのか。  その答えは、この場で無様につんのめる前に自分に言い聞かせてきたこと。  この先に繋げるために、  『せめて今のあたしは、あたしでいる』って……!
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