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1-1-7-1 【桜瀬七波】 受肉 1

 あの通用口を出るだけの事で、どれだけ緊張したか知れない。  何せあのフレイバーンとか言うのの足音が聞こえないという事は、あいつがどこにいるか分からないって事なんだもん。  もしもあいつが足音を消す歩き方でもしてて、あたしが通用口から表通りに顔を出した時に、あいつがこちらを見ていたらその場でアウトだった。 ゲフリーレン「奴のバイザーに使用されているノクトビジョンシステムは、奴の任務の特性上、かなり高感度に作られていると考え得る。奴の視界の片隅にでも写れば、即座に発見される」 七波「……そういうハナシ、これから顔出そうとしてる人間に、直前でしないでくんないかな」 ゲフリーレン「……案の定無計画だったか。確かにそれならお前の場合、勢いで進めさせた方が良かったかもしれないと俺も考えるべきだった」 七波「……いちいち『イラッ☆彡』とさせるよね! くっそー、鏡でもあれば顔を出さなくても向こう側が分かるというのに!」  そんな何かのアニメだったかで齧ったネタが頭に浮かぶも、残念ながらあたしのちっさな鏡はほっぽり出してきたカバンの中。  ゲフリーさんがまた耳をいじりながらいらん事言うから、胸はどんどん高鳴るばっかりで。  警戒して試行錯誤した挙句、スマホのカメラを覗かせて表通りを確認する――とかやってみた割には、画面に映し出される表通りは、暗くてフレイバーンがいるかどうかは分からず仕舞。  結局、深呼吸して呼吸を整えて、恐る恐る表通りを覗くことになったワケだけど、それは完全に杞憂で、あたしの視界には誰もおらず。……そこまでの涙ぐましい試行錯誤は、面白いぐらいに木っ端みじんこに砕け散った。  静かに表通りに出る、道の角まで歩みを進める。  フレイバーンのあのやけに辺りに響き渡る硬質な足音は、今はない。  あたしをあれだけ怯えさせてくれた、言ってみりゃ『忌まわしい』足音だけど、皮肉なことに、今は逆にあの足音でフレイバーンの位置がある程度でも掴めないのは怖すぎる。 ゲフリーレン「スニーキングの手段をスーツのシステムから検索したか、或いは単純に足音に気を使って動いてるか」 七波「もっと単純に、周りにいないって選択肢を作っていいですか!」 ゲフリーレン「お前らしい楽観視だが、奴にとって緊急を要しているこの状況では確かにその考えの方が有力だろう。だが警戒を怠っていい理由にはならない。注意しろ」 七波「ぅわーかーってまーすぅー!」 ゲフリーレン「……あまり顎を突き出し過ぎると誰だか分からない顔になるが不本意ではないのか?」 七波「うっさいわ!」  変顔は癖だっつの。  まぁ、お兄ちゃんにも『汚い』と言われて久しい顔ではあるけれど。  そんなやり取りを続けながらも表通りから顔を出してみる物の、フレイバーンの姿はやっぱり周囲にない。 七波「……やっぱり、メインストリートとは反対の方に探しに行ってると思うんだけど」 ゲフリーレン「お前が逃げて来た方と、反対の方向か?」 七波「そ」  状況を整理しよう。  くそ、なろうだと、ここで挿絵が入って上から見た図を展開してたんだけど、ヒロプラには挿絵機能がまだないらしい。場所の説明は嫌いなんだが、ないものは仕方がないから説明しよう。  頑張れヒロプラ!  えーと、Tの字をイメージしてほしい。これが今あたしのいる付近を上から見た図の、一番簡単な説明ね。  縦の線があたしたちが今いる細い道。ビルの間の道だ。  横の線が、ここへと入ってくる前にあたしが走ってた表通りの少し広い道。  あたしの現在位置は、その線の交わる辺り。細道から表通りに出ようとしてる。  なお、上から見た時、T字の横線である表通りの、さらに上に位置する場所は絶壁になってて落っこちる。高さ10mぐらいのコンクリの絶壁なので、飛び降りる事は考えたくない。  もちろん、そうならないようにフェンスで仕切りはあるから、簡単には落ちたりしないけどね。  さっきあたしが男に襲われた展望台はこのフェンスを伝っていくとたどり着けるけど……あんまり行きたいとは思わないな……でもカバンは取りにいかないとなー……。  ……とまぁ、場所説明はこんなトコかな? カバンは生きてたら考える。  で、ここから表通りに出ると、上から見た時、右がメインストリート、左が更にオフィスビル街の奥手に入っていくことになるけど……ここ、そんなに奥まで行けたっけ? 地図で何となく見たことがあった気がするけど……うーん……フレイバーンはどこまで行ったんだろう? ゲフリーレン「どちらにせよ警戒レベルを下げて進むわけにはいかない。今はその心構えだけ忘れなければいいはずだ」 七波「……そだね」 ゲフリーレン「先ほどの話は頭に入っているか」  通用口を出る前に、ゲフリーさんと逃亡の手段や、起きる可能性のありそうな事なんかを話した。タラレバの話ばっかりだったけど、何も考えずに飛び出すよりかは大分心に余裕が生まれたはず。  ポケットにはその逃亡に役立ちそうなものを、通路の奥の、溶け残ったゴミの残骸からいくつか入れてある。 七波「……大丈夫」  多分……ね。でも、今は絶対に問題ない事なんか一つもない。  何はともあれ、深呼吸。  そして――  飛び出す……!
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