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Chapter 2

 麓まであと半分というところまで来た。  コッヘルで湯を沸かし、コーヒーを飲みながら一息ついている時、は突然現れた。  タチアナが緊迫した声で、 「ねぇ、あれ」  と言い、モミの木の木陰を指さした。  純白の体毛。  呼吸に合わせて明滅する赤紫色の瞳。  あれは―― 「毒爪狼(ベノム・ウォルフ)」  と、ホークがうめくように言った。  二年前に全滅したはずだ。  まだ生き残りがいたのか。  毒爪狼(ベノム・ウォルフ)はその横面に西日を浴びながら、 「アオォ――――ン」  と一声、高く鳴いた。  周囲で、応じる声があった。  群れ。  狩られる。  逃げないと。  瞬時に危機を共有した僕たちは、一言も発さず、カップを投げ捨てて、同時にボードに飛び乗った。  全力で雪を蹴る。  傾斜がゆるいのがもどかしい。 「タチアナ、前行け!」  と、ホークが鋭く言った。  タチアナは実行することで返事にかえた。  女だからじゃない。  一番速いからだ。  恐る恐る振り返ると、 「……!」  いる。  不吉な赤い瞳の集団。 「来てるぞ!」  と、僕は思わず叫んだ。  二人は返事をしなかった。  転倒でもしたら終わり。  慎重に、飛ばす。  精神を集中して風を引き裂いていく。  再び振り返った。  距離は変わらない。 「……」  いや、少し縮まったか?  散るべきか、もしかして?  三手に分かれれば、二人は……  いや、却下だ。  それじゃタチアナが標的になる可能性がある。 「あっ!」  と、前のタチアナが叫んだ。  倒木!  ちょうど進路を塞ぐように。 「飛ぶぞ!」  と、ホーク。 「無理!」  と、タチアナ。 「いけるだろ!」 「無理だってば!」  と言いながら、タチアナは急ブレーキをかけた。  やむを得ず僕たちもそれに倣った。  近くで見ると大きい。  それでも、飛び越えられただろう――タチアナだけなら。  たぶん僕とホークは技術的に無理だった。  悔いているヒマはない。 「おい!」  と、ホークが倒木の根元のほうを示した。  視界が開けている。  どうやら急斜面。  本道からは外れるけど速度は出る。  僕たちは迷わずボードを手に取り、そちらへ向かった。  けれど。  この数秒で距離を詰められた。  もう追いつかれる。  僕は、 「先行け!」  と言いながら、左腕の簡易自動弓(ライトボウガン)に矢をつがえた。  持ってきてよかった――矢は三本しかないけど。  先頭の三匹だけでもこれで仕留める。  狙うは目と目の間。  落ち着け。  ゆっくりと息を吐いて、放つ。  中央の一匹がもんどりうって倒れた。  よし、次!  矢を、つがえる。  焦るな。  さっきより近いから当てやすい。  信じて、放つ。  当たった!  けど、三匹目がもう近い。  間に合うか?  いや、間に合わせる。  矢を…… 「!?」  なんでだ、うまく入らない!  あ。  と、声を出す間もなく、毒爪狼(ベノム・ウォルフ)の敏捷そうな体はもう目の前まで来ている。  判断力がマヒして、音も聴こえなくなった。  その時、 「ぐっ!」  横から衝撃が来て、僕は雪の上に転がされた。  ホークが?  いや、ホークは目の前にいて、腕に装着したブレイクボードの(エッジ)毒爪狼(ベノム・ウォルフ)の脇腹に突き立てている。  僕を突き飛ばしたのはタチアナだった。  返り血を浴びながらホークが、 「行くぞ!」  と叫んだ時、世界に音が戻ってきた。
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