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第13話 こころのかたち

「もしかして君は記憶が…?」 「わからない…私のプログラムに記されているのは『R』という名と、あの怪物と戦えという指令だけだ。私はそれに従いもう何百年も奴と戦っている…その理由も、なにも分からないまま」 低い駆動音を響かせながらRが光る瞳を私たちに向ける。 「君たちは…?」 「僕たちはある人を探して旅をしているんだ」 そう答えたラセスタの顔が一瞬曇る。 トラブルが続いて先に進めていないこの旅の状況を、ラセスタはどう思っているんだろう。 「この星には飛行船の修理に立ち寄ったんだけど、思ったより手ごわくて」 すぐに笑顔に戻り、努めて明るく続けるラセスタの指先ーーー着陸した飛行船をRの目が映した。 目の前のロボットは私たちと話すことで少し落ち着きを取り戻したらしく、思わぬ言葉を口にした。 「……助けてもらった礼も兼ねて私が直そう」 しかしそう言って立ち上がったRの身体から火花が散り、彼はがくんと膝をついた。 「Rさん⁉︎」 支えようとするラセスタを制し、Rが無機質気味に言葉を紡ぐ。 「問題ない。燃料がある限り、私は自己修復が可能だ。この破損箇所もいずれ直るだろう」 そう言って再び立ち上がる。 「任せてくれ」 振り返らずに淡々と告げられたRの言葉は、なぜか少し柔らかく聞こえた。 星巡る人 第13話 こころのかたち 「教えてくれ。 あの翼の怪物はなんなんだ」 R星に夜が来た。 より一層激しさを増す砂嵐が、修理を終えたばかりの飛行船を揺らす。 「あ、それ僕も気になるな」 Rの切り出した話題にラセスタも食いついた。 「うーん」 トランは頭をぽりぽり掻きながら、どこかぎこちなく話し出した。 「君が戦っていたのは星獣。星の意思が形になったものなんだ」 「星の意思…?」 トランが頷いて続ける。 「星に宿る強い心が形になって姿を現すーーーって言われてるけど…正直、俺も見たのは初めてだよ」 ーーー星のこころか…。 Rを横目でちらりと盗み見る。 彼はどうしてそれと戦っていたんだろう。 「トラン、感謝する。私が戦うものが何なのかが分かった…それだけで十分だ」 「これからも戦い続けるの?」 ラセスタが尋ねると、Rは迷いなく答えた。 「私はプログラムに与えられた命令を遂行するだけだ」 砂嵐が止み、不気味なほどの静けさが星を包んだ。 トランは付近を調査しに向かい、私は飛行船の中を歩き回りながらぼんやりと考え事をしていた。 飛行船の修理は終わったんだし、もうこの星に用事はない……はずなんだけど。 Rのこと、星獣のこと…考えるほど後味が悪くて、どうしても気になってしまう。 ふと、開け放たれた扉の外にRの背中が見えた。空を見上げ外で屹立している。 その後ろにはラセスタもいたーーーなにやら話しているようだ。 なんだか盗み聞きするみたいで少し後ろめたいけどーーー思わず扉の影に隠れ様子を伺ってしまう。 この位置だと、二人の会話がよく聞こえた。 「………ラセスタ。心とはなんだ?」 「え?うーん…」 突然の質問に戸惑いながらも、真剣に考え込んでいることが後ろからでも見て取れる。 短い沈黙ののち、ラセスタは話し始めた。 「…心っていうのは目に見えなくて、でも間違いなくあるもので…」 「生物の心臓や脳にあるのか?」 ラセスタが首を横に振る。 「ちがうよ。どこにあるなんてうまくは言えないけど…心っていうのはさ、誰かを大切に思ったり、守りたいって願う気持ちのことなんじゃないかな」 「大切に思う気持ち…?」 「うん、だからきっとこの星にもあるんだよ…そういう気持ちがさ」 「……」 「Rさんにもね」 誰かを大切に思う気持ちーーーか。 ラセスタらしい優しい考え方に、私は自分の心がすこしほぐれるのを感じた。 「…ラセスタ、君は誰かを探していると言っていたな。良かったら、私にも聞かせてくれないか」 ラセスタがxx星での出来事を語り、それをRが真剣に聴いている。 「…ラセスタはマホロのことを大切に思っているんだな」 ラセスタが微笑んで大きく頷く。 「うん、大切な家族だからね」 「誰かを…家族を思う気持ち…か。私にも、守りたいものがあったのかもしれないな」 ふと、そのとき。 空気を震わせる高い声が静寂を切り裂いた。 見上げると、遠く空の彼方から星獣がこちらに向けて飛んできているのが見えた。 と、同時に眩しい光が空から舞い降り、飛行船の横にトランが現れる。 「みんな!大変だ、この星は……!」 トランが言いかけたとき、突然の激しい地震とともに彼方の地面が弾けたーーーように見えた。 大地を突き破る無数の影が空に飛び上がり、星獣に襲いかかる。 口から炎を噴き応戦する星獣と、何千もの影。 あれはーーー。 「ホシクイだ…!」 心の声がそのまま口を突いていた。 ホシクイ。 宇宙有害生物の一種で、大群で星に寄生し全てを食い尽くすその習性から 『死の群れ』とも呼ばれ宇宙各所で恐れられている。 教科書にも図鑑にも必ずと言っていいほど載っているほど有名な危険生物だけど、本物を見たのはこれが初めてだ。 昆虫を思わせる硬そうな体表がぬらぬらと黒光りし、細く鋭い何本もの脚と体の割に巨大な口が星獣の身体を抉る。 苦しそうな叫びを上げ、その巨体が地面に落ちていく……激しい振動とともに、星獣は倒れてしまった。 「Rさん!」 ラセスタの声にはっと我に帰ると、Rが背中からのジェット噴射で星獣たちのいる方向へ飛び去っていくところだった。 「ふたりとも、無茶はしないようにね!」 そう言い残し、トランもまた猛スピードで向かっていく。 「行こう!」 私たちは飛行船に駆け込み、戦場と化した夜の空へ飛び上がった。 昼間を思わせるほどの光が暗闇を照らし、星獣の炎がホシクイを燃え上がらせる。 立ち込める黒煙をかいくぐり、無数の影が際限なく星獣を襲う一方で、その間を縫って飛ぶRから放たれたレーザー光線が、ホシクイと星獣の両方を無差別に切り裂く。 あまりにも激しい三つ巴の戦いがくりひろられているなか、少し離れたところでトランがホシクイの大群に囲まれ、必死で戦っていた。 コスモネットによれば、ホシクイはより純度の高いエネルギーを主食にしているらしい。 それはつまり高エネルギー生命体にとっては天敵のような存在であるということであり、ホシクイにとってトランはまさに格好の餌というわけだ。 前方を見やれば、いまや星獣に群がる数とほとんど変わらないホシクイがトランに群がり、襲いかかっているところだった。 「ラセスタ、しっかりつかまっててね!」 私はレバーをひき、目の前に迫る大群をギリギリのところでかわした。 素早く旋回し、狙いをつける。 「フラッシュプリズム・コンバーター、発っ射ぁ!」 凄まじい威力の光の束が炸裂し、ホシクイの大群が消し飛ぶ。 ーーーが、安心したのもつかの間、またも地面から無数の増援が飛び立ち、私の視界を覆い尽くす。 キリがない。 後方を確認すると、トランが身体を高速で回転させ、ホシクイをまとめて振り払ったところだった。 視線を戻してちらりと燃料計を見る。 …この燃料ではフラッシュプリズム・コンバーターはあと二発が限界だろう…でも、出し惜しみしていても仕方ない。 私が大群に向け再び標準を合わせたそのとき、ラセスタが叫んだ。 「Rさん!!」 眼下に広がる砂漠に、ホシクイの攻撃を受けて吹き飛ばされるRの姿が見えた。 「エメラ、降りよう!」 返事をするまでもなかった。 私はホシクイを避けつつ高度を下げ、すこし乱暴に緊急着陸した。 私たちが駆け寄ると、Rがこちらにわずかに首を向けた。 ーーーひどい有様だった。 左腕は無惨にちぎれ飛び、腹部に開いた風穴からエネルギーが輝く粒子となって漏れ出している。 飛び散る火花と弱々しく明滅する目が、三つ巴の激闘をありありと物語っていた。 「ふたりとも!」 トランが猛スピードで私たちの前に降り立ち、ドーム状のバリアで辺りを包む。 いつのまにか私たちの目の前に迫っていたホシクイがそれに阻まれて悔しそうに鳴き声をあげた。 「なにしてるんだ、早く飛行船にーーー」 「でもRさんが!」 トランの体には無数の傷があり、その顔には玉粒の汗が浮かび上がっているーーーもうかなりの力を使っている上に、ホシクイにエネルギーを奪われているのだろう。限界が近いのは私の目にも明らかだった。 コスモネットで得た高エネルギー生命体の情報を思い出し、私は不安と絶望がじりじりと心に溢れてくるのを感じた。 無限に湧き出るホシクイ。 倒れたR。 限界が近いトラン。 今までなんども命の危険を乗り越えてきたけど、今度こそ本当に絶体絶命だ。 バリアに大群がたかり、半透明のドームが黒く染められる。 そのわずかな隙間から、星獣も苦しみもがいているのが見えた。 トランがついにがくりと膝をつき、バリアが危なげに揺らぐ。 黒い大群が奇声をあげ、我先にと飛びかかるーーー。 ーーーそのとき、悲鳴にも似た、それでいてどこか悲しく美しい声が、空気を切り裂いて響き渡った。 固く閉じた目を恐る恐る開くと、私たちのすぐ目の前でまるで時間が止まったかのようにホシクイたちは停止していた。 ホシクイだけじゃない。砂嵐も飛行船のエンジンも……私たち以外の全ての時間が止まっている。 「ねえ、これを見て!」 停止した空間のなか、慌てたようなラセスタの声。 慌てて振り向くと、彼の首に掛けられた石からまばゆい光が溢れ出していた。 「星のかけらが……!」 瞬間、溢れ出す暖かい光が私たちを包み込んでーーー。 ーーー辺り一面、光に包まれた真っ白な空間に、いつの間にか私たちは立ち尽くしていた。 いったい何が起きたのだろう。 あまりに唐突な出来事に自分の理解が追いつかない。 トランが汗を拭いゆっくりと立ち上がる。 そして軽く微笑みながら、ラセスタにむけて手を伸ばした。 その指が、そっと星のかけらに触れる。 キーンと、高く澄んだ音が辺りに響いた。 その音色が静かな余韻となって心に染み渡る。 不意に足元で横たわるRの目に光が灯った。 「トラン…?」 なにをしたのだろう、私が尋ねようとしたその時、どこからともなく声が聞こえてきた。 ーーー驚いた。お前たちもまた、星の声を聴ける者だったとはな 「誰…?」 ーーーわたしは、この星そのもの。 この姿の見えない声……これが、この星の声だというのだろうか。 私の混乱をよそに、声は語り始めた。 ーーー遠い、むかしの話だ。豊かな命に恵まれたこの星の人間に、ただひとりだけ私の声を聴くことができる者がいた。 その者はこの星の王であり、またわたしの唯一の友人ともいえる存在であった。 白一色の風景に、かつてのR星の景色が浮かび上がった。 いまの砂嵐吹き荒れる砂漠からは想像できない、緑豊かな美しい風景が目の前に広がっている。 ーーーしかし平和なこの星に、ある時突然破滅が訪れた。……高エネルギー生命体よ、お前は見たのだな。 トランが静かに頷く。 周囲の美しい風景が一瞬にして黒くうごめく影に蝕まれていく。 「この星そのものが、もうあいつらの巣になってるんだ…」 ーーー奴らによって、全てか滅びた。 生物は死に絶え、文明は朽ち果て、そしてこの星は、あの黒い捕食者のみが生きる世界となった。 その危機を前にして、わたしはあまりにも無力だった。それが耐え難いほど苦痛だった。 このまま放置すればおそらく、この星を起点として他の星へも被害が広がるであろう。 そうなる前に、わたしは友人に願いを託し、最後の力で星獣を生み出したのだ。 「…そこから先は、わたしが話そう」 壊滅的に破損していたはずのRがよろめきながら立ち上がった。 二の腕から下のない左腕が力なく揺れる。 「不思議な話だが、その光のおかげで全てを思い出すことができた。私はーーー」 白い背景にひとりの人間の姿が浮かび上がる。 それは語りに出てきたこの星のかつての王ーーー 星の声を聴くことのできる者だった。 「人間であった時の私は、滅びゆくこの星の声をただ聴くことしかできなかった」 Rの姿に、星の王の姿が重なる。 「友人の最期の願いに応えるため、我々は滅びゆく世界の中、一機の戦闘用ロボットのメモリに私の記憶と感情をプログラムした」 白い背景が、再び黒く染まる。 ホシクイと星獣とRが三つ巴の戦いを繰り広げていた。 「星の意思を倒せば、この星の命も終わらせることができるのだという。私はそれを私自身の手で叶えてやりたかった。しかし巣を壊されることを察したホシクイがそれを防ぐべく大群で現れたことにより、長く激しい戦いが始まったのだ」 ホシクイの大群に群がられ火花を散らすR。 ーーーあの者たちはおそらくこの星を生かさず殺さず、自分たちの巣としてこの先も利用し続けるのであろう。 これは今の光景だろうか。 停止した世界で、全身をホシクイの大群に覆われ倒れた星獣の姿が映し出された。 ーーーわたしの力はもはやあと僅か。星獣が動けなくなった時、この星は抵抗のすべを失い完全に奴らのものとなる…おそらくこれが最後のチャンスだろう。 「ああ、わかってる。待たせてすまなかった」 Rが静かに頷く。 私はその意味を察したーーー察してしまった。 唇を噛みしめ俯くトランもまた、その意味を理解したのだろう。 ラセスタが大きな目をより大きく見開く。 「ちょっと待ってよ!どういうこと?Rさんもこの星も……そんなのだめだよ!」 「ラセスタ」 トランが牽制する。 「それがこの星の望みなんだよ」 「わかんない!わかんないよ!そんなのひどすぎる…Rさんはそれでいいの?」 目の前のロボットがゆっくりと振り向き、静かに、しかし決然とした様子で答えた。 「オリジナルの私はすでに遥か昔に死んでいる。いまの私は使命を与えられたロボットでしかないのだ」 「でも!君にだって心がある!僕たちと同じでちゃんと生きているのに、最初からこの星と…死ぬしかないなんて…」 言葉が尻すぼみに消えていく。 うつむいたラセスタの目から大粒の涙がこぼれた。 「……ラセスタ。私の使命は確かにプログラムされたものではあるが、それは私とこの星を繋ぐ大切な約束だったのだ」 穏やかなRの声が白一色の空間に響く。 「君が教えてくれたんだ。これが、家族を大切に思う気持ちなのだと」 そしてロボットは私たちに背を向けた。 「この空間が消えれば再び時は動き出す。ホシクイたちは間髪入れずに襲いかかってくるだろう。私が最後の一撃を入れる前に君たちは飛行船に乗って逃げるんだ。エメラ、トラン、君たちなら大丈夫だろう」 トランが静かに頷く。 「Rさん…」 何かを言いかけたラセスタをRが制した。 「ラセスタ、私の守りたいものを、守らせてくれないか。頼む」 少しの間、ラセスタは光る瞳を見つめていた。 そして何かを決断するように、迷うように…ゆっくりと頷いた。 ーーーありがとう、星を巡る旅人たちよ。 再びまばゆい光が私たちを包み込んでいく…その中で、私は確かにRが微笑むのを見た。 がくん、とうしろに引っ張られる感覚が、私の意識を光の中から呼び戻した。 慌てて目を開くと、トランが私とラセスタを抱え飛行船へ向けて猛スピードで走っているところだった。 トランの左側に抱えられたラセスタはまだ気を失っているようだ。 「もう時間がないんだ、俺がエネルギーを補給するから、全速力でこの星から離脱するよ!」 いつになく慌てたその様子が、緊迫した状況を物語っている。 飛行船のハッチがひらき、私たちはそっと下された。 トランが目を閉じ、深呼吸する。 一瞬あとにその身体がかたちを失い、光のオーロラとなって飛行船を包んだ。 私は急いでコックピットへ駆け込み、レバーを引いてエンジンを始動させる。 浮かび上がる飛行船の前方、ついさっきまで私たちがいたところに真っ赤に光る一体のロボットの姿が見えた。 そのあまりの熱量の前に、ホシクイでさえ襲いかかるのを躊躇っているようだった。熱源から一定の距離を置いて警戒するように鳴き声を上げている。 星獣が最後の力を振り絞って立ち上がり、その大きな翼を広げる。 力強く、どこか切ない声が響いた。 それは殺してくれと、願いを込めた祈りの声だった。 そのときふと、Rがこちらを見た。 私と目があう。 永遠にも似た一瞬の後、彼は自らの熱で溶けゆく身体で力強く頷いた。 それだけで、充分だった。 素早く方向転換し、赤く染まる夜の空へ飛び立つ。 「エメラ、見て!」 いつの間にか目を覚ましていたラセスタが前方を指差して叫ぶ。 雲を突き抜けた先、星のまたたく夜空を塗りつぶす勢いでホシクイがーーーそれも今まで戦っていた数なんて比にもならないくらいの大群がーーー姿を現したのだ。 奴らは私たちには目もくれず、遠ざかる地面で赤く光るその中心に向かって突撃していく。 飛行船のスピーカーから、トランの声が響く。 「ダメだ、このままじゃ間に合わない! 奥の手を使うから、二人とも衝撃に備えて!」 同時に、地上に変化が起きた。 周りの黒を照らすほどの光が一閃し、尾をひく赤い炎がまるで巨大な赤い槍のように星獣の胸を貫いた。 甲高い咆哮が響く。 でもそれは今までの悲鳴のようなものではなく、どこか満足したかのような、そんな声でーーー。 眩いひかりが、空までとどき、最後の抵抗とばかりに逃げようとするホシクイたちをかき消していく。 この星を夜を塗り潰して拡大していく光の中へ、私たちもまた呑み込まれていった。 ーーー光の中、横たわる星獣の嘴をひとりの若い男が愛おしげに撫でていた。 星獣は目を閉じて満足げに喉を鳴らしている。 男は長いマントを翻し、なにかを語りかけているようだった。 霞みがかった意識の中でよく聞こえなかったが、最後の一言だけは私の耳にも届いた。 「ーーー行こう、R」 はっと目を覚ましとびおきる。 目の前には真っ黒な宇宙が広がっていた。 ーーー助かった…? そう思ってすこしほっとしたが、同時にRの事、星獣のことを思い出して悲しみが押し寄せた。 飛行船内に目を向けると、ラセスタがコックピットのすぐ後ろで倒れていた。 まだ気を失っているようだったがーーーその目から一筋の涙がこぼれたのを私は見た。 ラセスタに毛布をかけ、宇宙船の外へと再度目を移すと、すこし離れたところにトランの背中が見えた。 漆黒の宇宙に浮かぶ赤や青のラインが入った銀色の身体が、その肩が、小刻みに震えているように見えたのは、私の錯覚だろうか。 私たちはそのままなにも言わず、ただじっと、かつてガス星雲だった虚空を見つめていた。
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