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第12話 ひとりぼっちの戦場

びぴっと軽い音を立て、コスモネットの画面に見たことのない文字が表示される。 ーーーforbiddenーーー 「あれ、なんだこれ…」 その日、私はコスモネットを開いていた。 ーーーそういえば私、トランのこと何にも知らないなあ。 高エネルギー生命体のことをピエロン田中やイオリは知っているようだったけど、実のところそんな種族の話なんて聞いたこともない。 一度気になってしまうと、なんだかモヤモヤしてしまう。 トランに聞けば教えてくれるだろうか。 ーーーでもなんとなく聞きづらいような気もする。 実際私たちは、トランの過去の話をまだ一度も聞けていないでいた。 自分の身を考えず困っている人を助けに行く、損得を一切考えない姿勢。 基本的に相手には直接触れない戦い方。 そういえば、守りたいものを守るだけって言ってたっけ。 トランの過去になにがあったのだろうか。 というか、そもそも高エネルギー生命体ってなんだろう。 少し後ろめたいけどーーー種族のことくらいなら、調べてもいいかな。 私はコスモネットを取り出して検索を開始したーーーその結果がこれだ。 ーーーforbiddenーーー 今までに一度としてみたことのない表示。 NO DATAですらないその文字は"閲覧を禁じられた項目"を意味していた。 ふぅっと軽く息を吐き出す。 気にはなるけど、これ以上は私にはどうにもできないだろう。 ーーー諦めるしかないかなあ。 そのとき、どこからともなく声が聞こえた。 「それを見たいのかい?」 弾かれたように立ち上がり、周りを見回す。 「だ、誰⁉︎」 「ふふっ、安心しなよ。ボクはいまテレパシーで君の脳に直接語りかけているんだ」 飄々とした軽い口調の声が頭に響き渡る。 「キミたちのことはよく知っているよ、エメラ・ルリアン。その項目がよっぽど気になるようだね、ボクが手を貸してあげようか。」 「なんなのあんた、なんでそんな…」 「そうだね、強いて言うなら、君に興味があるのさ」 目の前のコスモネットの画面に弾幕のように文字が並び、画面を黒く塗りつぶしていくーーーどうやら情報が書き換えられているようだ。 「ふぅん、宇宙政府の情報工作なんて大したことないなあーーーあぁそうだ、近いうちに君はボクに会うことになると思うよ。楽しみにしててね」 「ちょっと!」 返事はない。 一方的に話されただけでテレパシーは打ち切られてしまった。 一体何だったのだろうかーーーそんな疑問も、コスモネットの画面を見た瞬間に吹き飛んでしまった。 『高エネルギー生命体。 数万年前に存在していたとされる不定形エネルギー種族の総称。 卓越したサイキックを駆使してエネルギーを自在に操り、自らの身体を自由に変形・同化させることが可能である。 特定の場所や特殊な物質からしか得られない星の光をその力の源とすることが明らかになっている。 その身体に秘めた力は全宇宙でも他に類を見ないほどの高さを誇るが、エネルギーの消耗が激しく短時間しか能力を使えないなどの弱点も持ち合わせており、体内のエネルギーが尽きた時に活動不能となる。 彼らの持つエネルギーは攻撃や防御にも使用されるものであり、熱や電機などあらゆるものに変換が可能な万能エネルギーであるが、未だ解明されていない部分が多いため実用には不向きであるとされている。 また命の概念が非常に曖昧で、『カンオケイラズ』に代表される固形型予備生命装置は彼らの生命システムを参考にして作られている。 彼らの力を模した兵器も存在するが、宇宙規約により使用は許可されていない(関連項目:フラッシュプリズム・コンバーター)。 星間戦争にて宇宙正義軍との激戦の末に種族そのものが滅び去ったと伝えられている。』 それはどれも初めて知る事実ばかりで、あまりに衝撃的すぎて呆然としてしまう。 弱点のこと、寿命のこと…この種族の気になることはたくさんあるけど、 なにより最後の一文が一番衝撃的だった。 ーーー宇宙正義。 この宇宙における絶対的存在であり、全てを善悪の基準となる政府の最高決定機関だ。 巨大な組織であるがためその全貌を知るものはおらず、何万年も前からこの宇宙を正しい方向に導いていると言われている。 それがどうして高エネルギー生命体と戦うことになったのだろうか。 いやそもそもーーー私は歴史の教科書を思い出していたーーー遥か昔の星間戦争は星々の争いだと言われているはずで、高エネルギー生命体と宇宙正義の戦いの話なんて聞いたこともないではないか。 たったこれだけの情報がこんな厳重な扱いをされていたのにも、きっとなにか理由があるんだろうけどーーーなんだろう、この納得いかない感じ。 トランはこのことを知っているのだろうか。 そんな疑問がふと頭をよぎったが、私はとりあえず今見たことを黙っておくことにした。 …このなんとも言えない罪悪感、家族とはいえやっぱり深入りするものじゃないな。 私はすこしの後悔を胸に秘めつつ、コスモネットを閉じた。 星巡る人 第12話 ひとりぼっちの戦場 「ぬわははは!今日こそ俺様がお宝をいただくぞ!」 通信に割り込んでくるがなり声。 背後から急接近した奇妙な宇宙船から放たれる光の束をかわしつつ、必死で飛行船を操縦する私にそれを聞く余裕はなかった。 急上昇、急降下を繰り返して振り切ろうとするも、諦めることなく着いてくる。 そこから聞こえるがなり声の主はーーーかつて惑星N5で星のかけらを奪い取った自称・宇宙大魔王ーーーピエロン田中だ。 「ちょこまかとうっとおしい!」 苛立ちを隠せない声が通信を通して聞こえてくる。 「あんた、xx星にいたんじゃなかったの⁉︎」 「ぬはははは。xx星なんぞ、もうとっくに侵略完了したぞ!いまは手下どもが生物の住める環境にするべく、寝る間も惜しんで毎日作業しておるわ!」 自称大魔王なのに、相変わらず悪いことをしていない。 絶体絶命のときに助けてもらったこともあるし、ラセスタの故郷xx星の復興をしてたりするし、手下の怪獣たちはすごく優しいし。 宇宙の支配を目論んでるらしいけど、その割にはいい奴のような気がしていた。 でも私は今の今まですっかり忘れていたのだ。 ーーーそういえばこいつ、とんでもなく強いんだったっけ。 空を自由に飛ぶ小型円盤、相手を遥か離れたところへ飛ばす掃除機のような道具、一時的にとはいえトランを無力化した拘束糸…トボけたような顔とは真逆に、想像を絶するほどの科学力を駆使して襲ってくるから厄介なのだ。 連続して放たれる光の束をかわし、急旋回する。 こうなったらこちらもフラッシュプリズム・コンバーターで……! 「待つんだ、エメラ。」 静かな声が背後から聞こえる。 トランだ。 「イオリの言葉を忘れたのかい? それは気軽に使うようなものじゃないよ」 私はつい衝動的になっていたことを恥ずかしく思った。 そうだった、この危険な兵器を、イオリは私にならと託してくれたんだった。 「ラセスタがいま駆動系の調査をしてくれてる。万全の状態になったら亜光速飛行で振り切ろう。それまでは俺が時間を稼ぐよ」 トランはそう言うとその身体を細やかな光の粒子へと変化させ、船内から飛び立った。 間髪入れずに船の外に煌めきが溢れ、光の粒子が人の形を作っていく。 「現れたな、高エネルギー生命体!前に俺様にやられたことを忘れたかぁ?」 トランが静かに微笑む。 「同じ手を二度も食わないよ。あと、俺の名前はトランだ。よろしくね、ピエロン田中さん?」 「ふん、余裕でいられるのもいまのうちだ!いけ、佐藤さん7号!」 ピエロン田中の宇宙船から前と同じ光の帯が放たれ、トランに向かっていく。 トランはそれをひらりとかわし、ひとっ飛びで宇宙船との距離を詰めた。 そのまま触れることなく手をかざしただけで宇宙船がくるくると宙を待う。 「ぬおおおお!」 なんとか体勢を立て直したピエロン田中の宇宙船からアームが伸びるーーーが、その瞬間、閃光が走り片方のアームが弾け飛んだ。 「おのれ高エネルギー生命体!」 「だからトランだってば」 トランの攻撃が目にも留まらぬ速さで先手を打ち、ピエロン田中を追い詰めていく。 やがて全てのアームが破壊され、ついにあいつの宇宙船は動かなくなってしまった。 「ほら、観念しなさい!」 しかし宇宙大魔王は余裕そのものだ。 「ぬはははは、これで勝ったと思うなよ!」 瞬間、ボロボロの宇宙船が内側から破裂し、中から小さな円盤が現れた。 「新兵器、伊藤さん1号だ!これでも喰らえいっ!」 小型円盤からものすごい速さで緑色の光球が放たれる。 「うわあ!」 トランが間一髪で躱したその光球は、あちこちに散らばっていた宇宙船のアームの破片に直撃し、瞬時に跡形もなく消滅させてしまった。 ーーーなんて威力なんだ。 「どうだ思い知ったか!これに当たると原子レベルで分解されちまうぞ〜!怖いか?怖いか?怖いよなぁ〜〜?それが嫌なら俺様に星のかけらをよこせぃ!」 どこか楽しそうなピエロン田中の声。 「大魔王さん、ひどいよ!それじゃまるで…まるで悪い人みたいじゃないか!」 機関部から割り込んできたラセスタからの通信に、ピエロン田中が爆笑する。 「調子狂っちゃうなぁ〜お前、俺様はなあ、宇宙大魔王様だぞ?魔王が悪いことしなくてどーすんだ!」 なるほど確かに。 あまりの説得力に思わず納得してしまう。 ーーーと、そこではっと我に帰る。 納得してる場合じゃない。 外ではトランが必死に光球を躱しているのだ。この状況を早く打破しなくちゃ……! 考えれば考えるほど、頭に浮かぶのはコスモネットのあの一文だけだった。 ーーーエネルギーの消費が激しく、短時間しか能力を使えないという弱点がある。 気のせいかトラン動きが鈍くなってきているようにも感じる。 なにか私にできることはーーー考えるより、身体が先に動いていた。 レバーを強く入れ、船体を急発進させる。 「エメラ⁉︎」 ラセスタの驚く声を無視し、小型円盤とトランの間に向けて突っ込んだ。 「ぬおお!?なにすんだこの小娘!」 ピエロン田中が円盤を急上昇させ、猛スピードで突っ込む私の飛行船を避けた。 ピエロン田中の注意が私に向いたその隙を見逃さず、トランが一瞬で小型円盤に接近し、その勢いのまま前方に手をかざす。 「ぬお⁉︎なんだなんだ、動かないぞ!」 トランの手から光が放たれ、それに包まれたピエロン田中の円盤が完全にその動きを停止した。 「ごめんね、ピエロン田中さん?」 トランがニコッと微笑み、かざした手に力を込めた。 ずん、という重低音とともに、私たちの飛行船にも伝わるくらいの重い衝撃が走り、ピエロン田中をのせた円盤はあっという間に星の彼方へと飛ばされていった。 「今のうちに急いで亜光速飛行をーーー!」 「それが無理なんだよ。駆動系に負担がかかりすぎてるから…」 戻ってきたトランとラセスタが話している。 「もうっ!エメラ無茶しすぎ!」 「いや、でも俺は助けられたから… 」 と、そのとき、レーダーが激しく明滅し、ものすごい速度でこちらに向かってくるなにかを知らせてくれた。 「さっきの円盤と同じ反応…ピエロン田中さんだ!」 「しつこい奴!」 コックピットから前方を確認すると、航路から少し外れたところに星間ガスが立ち込めているのが見えた。 「俺がもう一度ーーー」 「これ以上はだめだよ、あいつは何してくるか分かんないんだから」 トランの言葉を思わず遮るーーーこれ以上、トランにエネルギーを消費させたくなかった。 前方を見据え、驚いたような顔をするトランをあえて見ないように、私は言葉を続けた。 「私に考えがあるの」 力いっぱいレバーを入れ、船体を発進させる。 反動でラセスタがバランスを崩して尻餅をついたーーーごめん。 キラキラと輝くガスが立ち込めるその中へ、私たちを乗せた飛行船は勢いよく突入した。 光の中に赤色、青色、白、オレンジ…様々な色が踊る星間ガスの中を、私たちの飛行船は進んでいた。 「ナイスアイディアだよ、エメラ!」 「よかった、ピエロン田中さん、僕たちを見失ったみたい」 私はほっと一息つく。 ーーーよかった、とりあえず安心だ。 ラセスタが上目遣いに私を軽く睨む。 「エメラ!飛行船に無茶させすぎ、冷却ファンがもう限界寸前なんだよ?」 「ご、ごめん…」 苦笑いを浮かべ、私は頬を掻いた。 イオリに飛行船の修理を教えてもらってからというもの、ラセスタはこの船の整備を積極的に行うようになっていた。 今ではたぶん、私よりもずっとこの船に詳しいだろう。 「とにかく、冷却ファンが機能しなくなったらエンジンが止まっちゃうから、一旦どこかの星とか宇宙ステーションに停泊できないかなあ?」 「そんなこと言っても…」 星間ガスの真っ只中にそんなところがあるとは思えないけどなあ……。 私はあきらめ半分でレーダーの探索範囲を広げた。 「…お」 こんなところだというのに、着陸できる星は意外なほどに早く見つかった。 画面に表示される赤く干からびた星を見やり、降りるべきかどうかを少しの間考える。 そこは惑星Rーーーもう随分と昔に廃星に認定された無人惑星だった。 まあ、いいや。 飛行船の修理と休憩を兼ねて、とりあえず行ってみるとしよう。 「んー、なんにもないねえ」 ラセスタが窓から惑星Rの大地をのぞいて呟く。 わずかに覗く朽ち果てた文明の跡が、この星が滅んでからの長い年月を物語っていた。 「とりあえず着陸してーーー」 「エメラ!あれを見て」 トランの指差す方向、地平線上でなにか大きなものが蠢くのが見えた。 ぼんやりとしたシルエットでしか確認できないが、翼のようなものを広げたのが見える。 赤い靄の中、巨大なそれが天を仰ぎ大きく吼えた。 叫びにも似た鳴き声がびりびりと空気を振動させ、私たちの飛行船まで届く。 「……星獣だ」 「星獣?」 思わず聞き返した私にトランが頷く。 「星に宿るいきものーーー彼らは星そのものなんだ」 広げた翼をゆっくりと羽ばたかせ、星獣が空へと浮かび上がる。 そしてもう一度吼えると、どこへ行くでもなく飛び去ってしまった。 着陸して改めて見渡したR星は、赤い砂嵐が吹き荒れる砂漠の星だった。 これではとてもじゃないが、休憩なんかできないだろう。 私は防護ジャケットと防護マスクを装着してあたりを探索していた。 「んー、すこし時間かかりそうだなあ」 私と同じように防護ジャケットを羽織ったラセスタが難しい顔をしている。 左手でイオリにもらった本ーーーどうやら船の修理について事細かに書かれているらしいーーーを開き、右手で額に浮かぶ汗をぬぐっている。 これが私のせいだと思うと若干の罪悪感に苛まれそうになる。 「気にしないでよ。僕は好きでやってるんだからさ」 私の心を見透かしたように笑うラセスタのその言葉に、すこし安心する。 「そういえばトランは?」 「さっきの星獣が気になるからって調べに行ったみたいーーーあ、戻ってきた」 砂嵐の中をトランが飛んでいる。 宇宙空間でも生身で活動できるだけあって、流石にこの程度の砂嵐にはびくともしていないようだった。 「…ん?」 ぼやけてよく見えないが、誰かを抱えているように見える。 トランがすっと飛行船の横に着地し、肩を貸していた相手をそっと地面に下ろした。 力なく横たわるその姿はーーー。 「これってーーーー」 「ロボット、だね」 赤と銀の体のあちこちが破損し、むき出しになった基盤や切断されたコード類から時折激しく火花を散らしている。 弱々しく明滅する目が、この星の過酷さを物語っているようだ。 「星獣のいた辺りで倒れてたんだけど、エネルギー残量がないみたいでさ」 ロボットの胸に置かれたトランの手から光が溢れ出し、ロボットの体を包み込む。 「ついさっきまで起動してたみたいだし、どうも星獣と戦ってたみたいだから、ちょっと話を聞かせてもらいたくて」 ロボットの目の灯りが徐々に強くなり、その機能を取り戻していく。 やがて彼は火花を散らしながらもゆっくり、ゆっくりとその上体を起こした。 「君たちは…だれ?」 「俺は トラン。こっちはエメラで、向こうにいるのがラセスタだよ。君は?」 隣にいる私と、こちらに向かってくるラセスタを指してトランがにこやかな笑顔を向ける。 それとは対照的に困惑したような声で、ロボットが言葉を発する。 「R……」 「R、君はどうして星獣と戦っていたの?」 その瞬間、Rはトランの肩に掴み掛かり激しく問い詰めた。 「君はあれを知っているのか⁉︎頼む、教えてくれ!あいつはなんなんだ、私はどうしてあいつと戦っている…? 私は…私は一体何者なんだ…⁉︎」 「え…?」 吹き荒ぶ砂嵐が、より一層激しくなったような気がした。
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