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第9話 怪獣たちのいるところ

どっぷりと陽は暮れ、ついにその時がきた。 今回、鍵となる作戦の立案者はラセスタだ。 私が飛行船でド・ミナントの気を引き、その隙に怪獣たちが厄介な触手を焼き払う。 無防備になった植物を総勢200人もの力自慢の怪獣たちが引っこ抜き、片っ端から燃やしていくというものである。 果たしてうまくいくだろうか。 考えれば考えるほど、失敗するのではないかと思えてくる。 私は不安を押し殺し自分の飛行船を見上げた。 イオリたちによつまて完璧に修理された姿。その船底に、見慣れない大きなペンのような形をした物がつけられている。 これは今回の作戦用にイオリが私の飛行船に装備してくれた光を変換して撃ち出す兵器、フラッシュプリスム・コンバーター。 どうやら高エネルギー生命体の力を模したものであるらしいのだが……私にはさっぱり理解出来なかった。 ただその時のイオリの言葉ははっきりと覚えている。 「これをエメラに貸すだに。おらが昔住んでた星で作らされてた兵器で、もう何万年も前のものだにが……大丈夫、威力は保証するだによ。 本当はもう二度と使わないつもりだっただにがーーーーあんたになら、きっと渡しても大丈夫だに。だからおらはこれをエメラに使ってもらいたいんだに」 どうして私をこれを託してくれたのかは分からないけどーーーーいや、いまはそんなことを考えてる場合じゃないな。 あのお化け植物を倒してから、イオリに聞くとしよう。 ゆっくりと深呼吸し、私は飛行船に乗り込んだ。 星巡る人 第9話 怪獣たちのいるところ 宇宙植物生命体 ド・ミナントの触手の先端には大きな針が付いていて、それを突き刺して相手の生命エネルギーを吸い取るのだという。 怪獣たちは並外れた生命力を持っているとは言われているものの、それでもあれに刺されればただでは済まないだろう。 頭の中に嫌な光景が浮かぶ。 私は慌てて首を横に振った。 考えていても仕方ない。 いまはーーー私にできることを、しよう。 浮かび上がった飛行船が、巨大植物の方向を向いて飛び立つ。 ぱかぱかとライトを点滅させた。 作戦開始の合図だ。 眼下の怪獣たちが私の後に続いて飛び立つのがちらりと目に入るが、すぐに前方向に視線を戻す。 加速して巨大植物に一気に近づくと、敵も異変を察したのだろう、4本の触手が一斉に私に向かって伸ばされた。 縦横無尽に飛び回ってそれらを全てかわし、弧を描くようにして巨体に回り込む。 二本の触手が私を追ってくる。と、同時に目の前にも二本の触手が迫っていた。 挟み込まれたーーーー予想通りだ。 私は、運転技術には少し自身がある。 旅を始めてからもう長いが、ずっとこの飛行船を乗り続けてきた。機体の癖は身体に染みついている。 だからこの作戦で、囮役を真っ先に引き受けたのだ。 それにーーー私はにやりと笑う口元を抑えられなかったーーーシューティングゲームも、得意なほうだ。 触手をギリギリまで引きつけてから、飛行船を急上昇させる。 追いかけてきた触手も、目の前に迫っていた触手も、その動きについてくることができずに空中で衝突して複雑に絡み合い、動きを止めた。 ーーーーいまだ! 素早く旋回し、団子のように絡まった4本の触手に私は標準を合わせた。 「フラッシュプリスム・コンバーター、解除!!」 レバーを押し込んだ瞬間、眩い光が辺りを包み込んだ。 ーーーーこれはそんじょそこらの兵器とは比べものにならないものだにから、エメラの声で音声認識されないと使えねぇようにしとくだに。 私は今、ようやくその言葉の意味を理解した。 撃ち出された光の束が炸裂した瞬間、4本の触手は跡形もなく消し飛んでしまった。 そのあまりの威力に唖然としてしまう。 まさかここまでとはーーーしかし響き渡るド・ミナントの叫びが、私の意識を今に引き戻した。 後ろから迫る怪獣たちの邪魔にならないよう、急いで高度を上げようとしたーーーそのとき、激しい衝撃がコックピットを襲い、船体が大きく揺れた。 突然の出来事に不意をつかれたが、それでも必死に体制を立て直し、なにが起きたかを確認した。 ーーーそんな、ありえない。 私は絶句した。 つい今フラッシュプリスム・コンバーターで消し飛んだはずの触手が、次々と地面から生えてきていた。 それも4本どころじゃない。数え切れない程の触手が、次々と怪獣たちに襲いかかっている。 私は飛行船に迫る触手をかわし、必死に応戦する怪獣たちの方へ向けて飛んだ。 私の後ろを追い、触手がついてくる。 いまはとにかく少しでも触手を怪獣たちから引き離したかった。 そんな願いもむなしく、かわしきれなかった触手が飛行船をかすめる。 「ーーーッ!」 画面にエンジン部が損傷したとの警告が浮かぶ。 ーーーーまだだ。まだ落ちられない。 空中でバランスを崩し、きりもみ状態になりながら、巨大な姿に標準を合わせた。 「いっけぇえええええ!」 叫びながら、思いっきりレバーを引く。 せめて……せめてーーーーー。 しかし、現実は甘くはなかった。 フラッシュプリズム・コンバーター発射寸前に、真下の地面から飛び出た触手が飛行船を突き上げる。 「きゃああああッ!!」 標準が外れた光の束は巨大な植物をかすめ、空の彼方へと消えていった。 機体は激しく地面に叩きつけられ、頭上に火花が降り注ぐ。 「そんな…」 絶望感に苛まれながら、私は自分の意識が遠のいていくのをうっすらと感じた。 「ーーーー…メラ!エメラ!」 声が、聞こえる。 誰かが私を呼んでいる。 「エメラ!よかった!大丈夫⁉︎」 目を開けると、ラセスタが涙目で私の顔を覗き込んでいた。 「う……」 飛行船の冷たい床の上に私は倒れていた。 身体を起こし、周りを見回す。 コックピットのあちこちから火花が飛び散り、計器類もメインコンピューターも沈黙している。 至る所に物が散乱する船内が、墜落の衝撃を物語っていた。 ふと我に帰る。私は墜落してしまったけど、外ではまだ戦いが続いているはずだ。 「ラセスタ、みんなは…」 私の問いに、ラセスタは答えずただ首を振った。 こうしてはいられない。 フレームの歪んだ飛行船から這い出た私は、そこで初めて今の状況を知った。 咆哮する巨大な植物と、それを守るようにうごめく無数の触手。まだ戦っている怪獣たちの炎がときたま辺りを照らすが、その数もかなり少なくなっている。 地面の至る所には何人もの怪獣たちが倒れていた。 その中でもひときわ目立つのは、弱々しく呼吸をしている金髪の巨体でーーーー。 その姿を見た瞬間、私の身体は勝手に走り出していた。 「イオリ!!」 私の声に反応するように、彼は微かに目を開いた。 「エメラだにか…良かった、無事だったんだにね。あんたらがあんなに頑張ってくれたのに、この有様だによ…もうおらたちも、この星も終わりだにかね…」 私は涙を拭って首を横に振った。 「まだだよ、まだ!諦めちゃだめだよ…!」 ふっと、イオリが弱々しく笑う。 「あんたたちが来てくれて良かっただに。おらたちのこと、怖がらずに接してくれて嬉しかっただによ」 私は心に鋭い痛みを感じた。 「違うの…私、あなたたちに謝りたくて…!」 頬を伝う涙が視界をゆがませる。 「最初に会ったとき、姿だけで判断して攻撃しようとしたこと、ずっと謝りたくて……あの植物を退治する手伝いをして、少しでも役に立ちたくて……でも…こんな……ごめんなさい」 ずっと罪悪感が心にのしかかっていた。 この作戦に参加したのは、恩返しだけじゃなく罪滅ぼしがしたかったから。 なのにそれすらできないなんて…。 「顔をあげてほしいだに」 私の手に温もりが触れる。 イオリの手が、私の手に添えられていた。 「そんなこと、別に気にしなくてもいいんだによ。エメラもラセスタも、いま一緒に戦ってくれてる。それだけで充分だに」 イオリは、穏やかな顔をしていた。 「あんたらはおらたちを助けてくれた仲間だに。大切な、家族だに」 私は涙を拭ってイオリを助け起こすべく立ち上がる。ラセスタも反対側から同じように動く。 なのにどうしてーーー二人掛かりでこんなに力を込めているのに、彼の身体は鉛のように重かった。 イオリは首を横に振った。 「…あんたたちだけで逃げるだに。 おらの工場にはまだ無事な飛行船があるだにから、それでこの星から出るだによ。いまならまだ、間に合うだに」 「そんなのだめだよ!まだ…きっと……!だから諦めちゃダメだ!」 そのとき、ラセスタの叫びが聞こえた。 私が気づいたときには、もう目の前に触手が迫っていた。 周りのすべての動きがスローモーションに見える。 ーーーーーあ、死んだ。 迫る触手の先端についた針が、キラリと光ったのが見えた。 その瞬間、世界に光があふれた。 突然夜が弾け、一足先に朝が来たかのような明るさが空を包む。 フラッシュプリスム・コンバータよりさらに強力で、それなのに優しくて暖かい光。 銀色の身体に赤や青や黄色のラインが走るその姿ーーーー私は、この光を知っていた。 私の目の前に迫った触手が、光に触れると同時に木っ端微塵に弾け飛んだ。 ド・ミナントが悲鳴にも似た叫びをあげ、何本もの触手をこちらに向かって伸ばしたが、そのすべては光によって瞬時に蹴散らされた。 「ーーー俺の家族に、手を出すな…!」 それは一瞬のことだった。 光はまるで矢のように形を変え、一直線に巨大な影へと突き刺さる。 激しい光の明滅と地鳴りの中、光の矢に押される勢いのままド・ミナントが宙に浮かび上がるのを見た。 根本から引き抜かれ、空中に舞い上がった巨大植物が、まばゆい閃光と共に粉々にはじけ飛ぶ。 その爆発の中心に、彼はいた。 身体にまとった光の粒子が、昇り始めた朝日に照らされきらきらと輝く。 思わず私は彼を呼んだ。 「ーーーーートラン!」 トランがこちらを向き、優しく微笑む。 その瞬間、なにが起きたのかを理解した怪獣たちから歓声が湧いた。 鳴り止まない勝利の雄叫び。 この星に、朝が来た。 「じゃああれはエメラが撃ったんだ!」 「うん、まぁ外したけどね」 私の飛行船を修理するイオリと、それを横から覗き込むラセスタの背中を眺めながら、私はトランと星嵐のあとのお互いのことについて話していた。 私の撃ったフラッシュプリスム・コンバーターの光は、宇宙まで届いていたらしい。 外れた二発目の光の出所を辿ることで、トランはこの星にたどり着くことができたのだという。 「あの光を見たとき、なんとなくこの先にふたりがいる気がしたんだ」 トランの笑顔につられて、私も笑う。 「なにそれ」 不思議な話だけど、それでもトランは来てくれた。 「また助けられちゃったね」 ぽつりと呟く。 「俺は自分が助けたい人たちを助けてるだけだよ」 トランが少し上を向いて、誰に言うでもなく言う。 その言葉は、どこまでも広がる青空に吸い込まれ、溶けて消えた。 それから何日かが経ち、あんなに激しい戦いがあった星も普段の落ち着きを取り戻したようだった。 トランによって根元から根絶されたド・ミナントの跡地にはまだ巨大な穴が空いているものの、イオリたちならきっとすぐに復興させることができるだろうと思えた。 私たちの飛行船も完璧に修理された。ただし船底に装備されたペン型の兵器は取り外されていない。 「本当にいいの?」 「この宇宙を旅するのに丸腰はあぶねぇだにからね。それに、おらはこれをエメラたちに持ってて欲しいんだに」 イオリはそう言うと振り向いてラセスタを見た。 「ラセスタ、船の修理に興味があるんだにね?」 そう言って小さな本と、人間用の工具箱を手渡した。 「これは昔のおらの弟子が使ってたやつなんだにが、良かったら持っていくだに。船を直せる人間がいるだけで、旅はうんと楽になるだによ」 「え…本当にいいの⁉︎ありがとう、イオリさん!」 頭を下げてお礼を言うラセスタの肩を、イオリがぽんと叩いた。 「本当になにからなにまでありがとうございました」 トランが頭を下げる。 「とんでもない、こちらこそだに! この星に住むみーんなが、あんたたちに助けられただによ」 イオリが私に向き直った。 「エメラ、ラベルトは元気だにか?」 突然、懐かしい人の名前が出てきて驚いてしまう。 「なんでラベルトを…?」 イオリが微笑む。 「宇宙で助けられたら、必ず恩を返しなさい。どんな小さなことでも、助けてくれた人の力になりなさいーーーーこれはラベルトの口癖だに。それにこの飛行船は、昔ラベルトがこの星に来た時に乗ってたものだにからね」 私の脳裏に旅に出た日のことが思い浮かび、思わず笑顔になる。 「ラベルトはきっといまも元気に旅してるよ。 必ずまた会うって約束してるの!」 イオリが私をまっすぐに見つめ、手を差し出した。 「あんたらはおらたちの大切な家族だに。 また、いつでも来るだに」 「ーーーうん!」 私は強く頷いて、彼の大きな手を握り返した。 コックピットに深々と腰掛けてレバーを引くと、すっかり直った飛行船がゆっくりと宙に浮いた。 見送りに来てくれた怪獣たちが手を振っている。トランとラセスタがそれに手を振り返しているのがチラリと視界の端に映った。 ーーー別れを寂しく感じるなんて、私らしくないなあ。 遠くなっていく眼下の怪獣たちに、私も小さく手を振り返した。
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