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第6話 J51星の事情

「今のこの星に、他人に構ってる余裕があるやつなんて一人もおらんよ」 オリオン区J51星に辿り着いた私たちに投げかけられた言葉は、あまりにも冷たいものだった。 星巡る人 第6話 J51星の事情 xx星からわずか数光年、私たちはあっという間にJ51星に辿り着いた。 大気圏を抜けてすぐ、入星手続きを済ませに向かったのだがーーー。 「何かあったの?」 入星手続きを終え、落ち込んで現れた私に、トランが尋ねる。 「いや、なんかこの星、イヤーな感じだなあって」 苦笑しながら言う私に、ラセスタもしかめ面で言う。 「この星の人、みんな話しかけても無視するんだよ。僕きらわれてるのかなあ?」 トランが言う。 「いや、きっと違うよ。星ごとにルールがあるのは珍しい話じゃない。よく分からないけど、もしかしたら知らない人とは話さないことがこの星の決まりなのかもしれない」 そしていつもと同じように笑う。 「なににしても、調べてみなくちゃね!」 私たちは一旦解散し、各々情報を持ち寄ることにした。 数時間後。 疲れ切った私は飛行船に帰ってきていた。 結局、この星の人は誰ひとりとして、私の話に耳を傾けてはくれなかった。 ただ街の人たちが話す言葉を聞く限り、どうやら宇宙共通語を理解していないというわけでもなさそうだ。ニュースや新聞もちゃんと他所の星の人間用のものが用意されている。 ーーーまあ、それはつまり、意図的に無視されてるってことなわけだけど。 それを思うと余計に落ち込む。 不意に飛行船の扉が開き、ラセスタが帰ってきた。 「どうだった?」 ラセスタが首を横に振る。 「全然だよ。お店の人も、話しかけようとすると途端に無表情になるんだ…」 彼が言い終えないうちにトランも戻ってきた。メモリカプセルを持っているーーーたぶん、集めた情報が詰め込まれているのだろう。 「とりあえず、この星なんだけど…ちょっとタイミングが悪かったかもね」 トランが苦笑いしながら自分のメモリカプセルを開いた。 「この星ね、つい最近星王が変わったらしいんだ。前任者は星人皆平等を掲げてた平和主義者だったみたいなんだけど…」 カプセルから現れた立体映像を指差す。 「これがいまこの星を統治してるメンラーって人。この人がごりごりの軍事主義で、自分に逆らう人間に対しては容赦無く投獄したりしてるらしいんだ」 開かれたカプセルからニュース映像を流れてくる。 ーーー今日は6−2番地で反乱軍による暴動がありましたが、J51星軍によって無事鎮圧され、企てたとされる反乱軍25名が逮捕されました。 これで安心です。 今日もこの星は、大変平和でしたね。 気持ち悪い。 無理やり作ったような、貼り付けたみたいなキャスターの笑顔に思わず顔が引きつってしまう。 でもまあ、なんとなく分かった気がする。 なにも言わず無難に生きること、他人に関わらないことこそが、いまのこの星で平和に生きるための術なのだろう。 「見た感じだけど、町中至る所に記録用のカメラが仕掛けられてる」 「そうか、だからみんな話してくれなかったんだね!じゃあ悪いのはそのーーー」 そこまで言ったラセスタの口を、私の手がふさぐ。 「だめ!それ以上言ったら…」 ラセスタはハッとしたように目を見開く。 「…ごめん」 「気軽に話もできないよね。もしかしたら今のこの会話すら、聞かれてるかもしれないわけだし」 なんて厄介な星だろう。 「この星のことに、他の星からたまたま立ち寄っただけの俺たちが関わっていいものかどうか悩むところだし、早いところこの星から出た方がーーーー」 「そうもいかないんだよ」 ラセスタが首を横に振りながらカプセルを開いた。 硬い口調でニュースが流れてくる。 ーーーJ51星における一般退星手続きは只今受け付けておりません。退星希望の方は中央政府内外交管理所にて厳正な審査を受けていただく必要があります。また、無断退星は違法と見なし撃墜させていただきますのでご了承ください。 「…前言撤回、じゃない?」 私の言葉に、トランは苦笑いで返した。 とりあえず食料を調達するために、私はラセスタと外に出た。 何時の間にか気がつけば、料理はラセスタの 担当になっている。 ラセスタも楽しそうだし、自分で作るよりも遥かに美味しいものが食べられるのでラセスタ本人が何も言わないならと黙認していた。 ーーーまあ、お湯を沸かす為だけに使われるより、そのほうがキッチンも喜ぶだろう。 「ね、僕たちってさ、家族みたいなものだよね?」 ラセスタが楽しそうに言うが、私は咄嗟にそれを否定してしまった。 「照れるから、そういうこと言っちゃダメ」 すこし落ち込んだような顔をするラセスタに、良心がチクリと痛む。 嘘ではない、家族だと言ってもらえるのは照れ臭いけど嬉しい。 でもそれだけじゃなくてーーー私にとって家族は、懐かしくて、暖かくて、悲しいものでーーー。 その時、商店街のある場所に火柱が上がった。 私とラセスタは顔を見合わせ、急いでその場へと向かう。 火柱の元に、三人のJ51星人がいた。 「この星を元に戻せ!」 「メンラー出てこい!」 ーーーあれが反乱軍か。 そこに、J51星軍兵士と思われる体格のいい人たちがやってきた。 人数にして十人と、 三人捕まえる為にずいぶんと大掛かりだ。 「メンラー様に歯向かう賊め!」 「お前ら、俺たちに逆らう気かあ?性懲りもない奴らだ!」 気がつくと、私たちの周りにも突然始まったこの戦いを観戦する大勢の人たちが集まっていたーーーしかし不気味なことに、誰もが無表情でただじっと事の成り行きをみつめている。 その異様な光景に、私は思わずたじろいだ。 反乱軍は武器を持った十人を相手にしてもひるむことなく、連携をとって器用に戦っていた。 一方の星軍兵士たちは遅れを取る形で、うまく動けないまま完全に三人に翻弄されている。 しかしそれでもやはり人数の差は大きく、じりじりと反乱軍は追い詰められていった。 そして今まさに彼らが捉えられようとしたそのとき、あたり一面に声が響いた。 「まてぇい!」 その場にいた全員が、声の方向を向く。 少し高めの建物の上に、仮面をつけた彼はいた。 「俺の大切な人たちに手を出すな!」 「貴様ぁ!何者だ!」 「俺はこの星に真の正義をもたらすもの!反乱軍リーダー!Mr.J!」 Mr.Jがポーズを決め、掛け声とともに飛び降りる。 そして襲い来る十人の星軍兵をいとも簡単に蹴散らし、囚われた三人を助け出した。 「はーっはっは!正義は勝ぁつ!では諸君、さらばだ!」 四人は爽快と立ち去っていった。 後に残された人々は、特に何を言うでもなく普通の生活に戻っていき、何事もなかったかのように、街はまた正常に動き始めた。 そのあまりの自然さに底知れない薄気味悪さを感じ、私は逃げるようにラセスタの手を引いてその場を後にした。 ーーー本日は25−3番地で反乱軍による暴動がありました。J51星軍は取り逃がしてしまいましたが、街に特に被害はなかったとみられます。 今日もこの星は平和でしたね。 カプセルから流れてくる情報。 この薄気味悪さにも、だんだんと慣れてきてしまったような気がする。 ハッと気がつき、慌てて首を振る。 ーーーだめだめ、こんなのに慣れちゃ。 そんな日が何日か続いたある日。 「貴様らが反乱分子であるとのタレコミがあった。抵抗するなら容赦はしない」 突然、飛行船に星軍兵士たちが押しかけてきて、私たちは捕らえられてしまった。 心当たりはないーーーーいや、ひとつだけ、ある。 ここ最近、光の速さで星軍を妨害する新勢力が現れたとのニュースが頻繁に報じられている。 星軍にもその正体は掴めていないらしく、未だになんの手がかりも得られてはいないことから今や星の平和を著しく脅かしている存在だとさえ言われている。 そして同じ頃から、トランを見かけない。 二つのヒントを合わせると、そこから導き出されるのはーーー。 「……もしかして、トランかな」 「たぶん、トランだね」 どうやらラセスタも私と同じ結論に行き着いたらしい。 そのとき、声が響いた。 「まてぇい!」 逆光に遮られ、シルエットとなった姿がポーズを決める。 「 俺の大切な人たちに手を出すなあ!」 ーーーほぼ初対面なんだけどなあ。 Mr.Jは名乗りを終えるや否や星軍兵士たちと戦い始めた。 多勢に無勢かと思いきや、人数では遥かに優っていたはずの兵士たちが、Mr.Jの拳の前にひとりふたりと次々に薙ぎ倒されていく。 「…実に不甲斐ないな。こんな奴ごときに遅れを取るとは」 コツッ、コツッと足音を立て、スーツ姿の男が歩いてきた。 「お前はーーー!」 「たかだか反乱軍の分際で、ずいぶん好き勝手やってくれたようだな」 男はMr.Jを値踏みするように見下ろした。 「私は星王メンラー。貴様ら反乱軍の望み通り、出てきてやったぞ」 その言葉が終わらないうちにMr.Jが飛び掛かるーーーしかし、次の瞬間、彼の身体はあっけなく宙を舞った。 「もう終わりかね?君を自分の手で仕留めることを楽しみにしていたのだが」 よろめきながら立ち上がったMr.Jの身体が、再度宙を舞い、地面に叩きつけられる。 「貴様、俺になにをーーー」 「ただのパンチさ」 何度も挑み掛かるMr.Jを、メンラーはまるで遊びを楽しむかのようにいなし、その度に強烈な一撃をお見舞いしていく。 力の差は歴然だった。 Mr.Jがついに膝をつく。それでも怒りに燃えるその瞳は、メンラーを激しく睨みつけていた。 「私は…知っている…お前の企みを!この侵略者め……!」 「侵略?私はこの星のルールに則り、民衆の票を得て統治者となったのだぞ。そのあとでどんな政治をしようが、星王の勝手ではないかね?」 「ふざけるな!誰もが幸せに暮らせるのがこの星だった!貴様なんぞにこれ以上好き勝手されてたまるか…!」 高笑いするメンラー。 「住むものの幸せなどくだらないな。彼らは所詮この星という檻の中で、私のために利益をもたらすだけの存在にすぎないんだ。ところが迷惑なことに、貴様ら反乱軍とやらがその邪魔をする。だからこうしてわざわざ前線に出てきたのだよ。今日この瞬間に、反乱軍への見せしめとしてお前を殺す。そうすればこの星で私に逆らおうなどと思うものはいなくなるだろう。だれもが私を怖れ、称える…この星はそんな素晴らしい星となるのだ」 言うや否やメンラーがその拳を振り下ろした。 辛うじてそれを躱したMr.Jを、更にメンラーの激しい追撃が襲う。 ーーーこんなとき、トランはどこでなにしているんだろう…! Mr.Jの動きが徐々に鈍くなっていく。疲れとダメージの蓄積で、すでにメンラーの攻撃を防ぐだけで精一杯といった様子だ。 このままじゃあMr.Jが……!! 「とどめだ!」 もはや満身創痍のMr.Jにメンラーが一撃を入れようとしたそのとき、猛スピードで空から流れ星が落ちてきて、あたりに眩い光が迸った。 ーーーまったく、やっと来た。 Mr.Jの目の前に光が溢れ、やがてその中からトランが姿を現した。 「二人とも、巻き込んでごめんね?」 トランがこちらに笑顔で振り向く。 「関わっていいのか分かんないんじゃなかったのー?」 ラセスタが尋ねると、トランは笑顔のまま誤魔化すように頬を掻いた。 「やっぱり、ほっとけなくてさ」 「貴様ぁ!」 怒るメンラーがトラン目掛けて拳を振り下ろしたーーーしかしその一撃でさえ、トランが腕の先に展開した見えない壁に呆気なく阻まれる。 「調べるのにずいぶんと時間がかかっちゃったんだ。なんせ、現星王にとって都合の悪い情報は全部極秘事項として厳重に隠蔽されてたからね」 攻撃が通用しないと見るや否や、素早く距離をとったメンラーをトランが睨む。 「選挙直前の前統治者の突然すぎる行方不明…あなたはその直後に現れ、圧倒的な支持を得てこの星の統治者にまで登りつめた。ところがその後、政策は一転し、邪魔者は力でねじ伏せる独裁政治へと変わった。そして強大な権力を得たあなたの統治は今後も長く続くはずだった。 でもあなたはひとつだけ、大切なことを忘れていたんですよ」 トランのメモリカプセルからその証拠が次々と立体映像となって洪水の如く表示される。 前回統治者の失踪にまつわる報告書、選挙当時の資料、メンラーの素性に関するデータ……。 「あなたは殺したつもりかもしれないが、消えた前の統治者は……本物の星王はまだ生きている。いまここに、Mr.Jとして!」 Mr.Jが震える手で仮面を外す。その下に、深い皺の刻まれた彼の素顔があった。 「…私は敗れ、星王であるにもかかわらずその立場を退かざるを得なくなった。奇しくもメンラーの野望を知っていた私は、この星を平和にするために、私自身の手でメンラーを討つしかないと考えた。反乱軍はそのために結成されたのだ。真実を知る者は皆、こんな私についてきてくれた。…だが力及ばず、今やこの星は衰退する一方となってしまった」 「生きていたのか、この老いぼれが…!」 メンラーが烈火の如くトランを睨みつける。 「おい、どこの誰だか知らないが、これだけの事をしておいて生きてこの星から出られると思うなよ!」 メンラーの背後で、数百人の兵士たちが臨戦態勢をとる。 しかしトランは全く動じない。 「残念だけどそうはいかないんだ。俺たちは旅人だからね」 「こいつらを殺せ!!」 吼えるメンラー。その声を合図に動き出す数百人の兵士たち。 「行きますよ、Mr.J!」 「ああ!共に戦ってくれ!」 それを迎え撃つべくトランとMr.Jが敢然と立ち向かう。 私たちの目の前で、この星の統治者を巡る壮大な戦いが幕を開けた。
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