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第4話 願いと家族と星のかけら
ーーー僕は、アルタイル区xx星人。
この宇宙の暦で2年前、ひとりぼっちの僕のところに、あの子は来てくれたんだ。
「たぁーすーけぇーてぇー!」
あの日、僕は悲鳴を聞いて飛び起きた。
慌てて外に出ると、庭先の大きな木に羽の生えた女の子が引っかかっていた。
梯子を用意し、急いで駆け上がる。
「きみ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないーーー!いーたーいー!」
引っかかった羽がちぎれないように、慎重に手を動かす。
数分間の格闘の末、なんとか枝に絡まった羽を外すことには成功したものの、女の子は痛そうに顔をしかめ、地面にうずくまってしまった。
化膿したら大変だ、すぐに手当てしなくちゃ。
ーーーそういえば、初めて人と話しているような、そんな気がする。
この付近には誰も住んでおらず、僕は物心ついたころからずっとひとりだった。
だからかもしれない、女の子にまじまじと見られて、妙に緊張してしまう。
「助けてくれてありがとう!!君……名前は?」
薄い緑のドレスから突き出たきれいな白い羽がーーー怪我していない片側の羽が、ぴこぴこと楽しげに揺れる。
明るい茶色の髪、整った顔にひときわ目立つ青くて丸い瞳が、僕をまっすぐに見つめる。
「ラ、ラセスタ…」
「ららせすたさん?」
ーーーーこれが、僕と彼女の出会いだった。
星巡る人
第4話 願いと家族と星のかけら
遠い宇宙からやってきたという彼女は、自分が何星の人間なのか知らないと言っていた。
まあそれは僕も同じようなものだと思う。
この星で他のxx星人に出会ったこともないし、自分自身の記憶もおぼろげだから、果たして本当に僕がxx星人なのか、それすら確信が持てない。
「あ、そうだ!私はマホロ!」
彼女ーーーマホロがにこやかに言う。
マホロを手当てしながら、僕らはたくさん話した。
僕はマホロがひとりで宇宙を旅していること、たまたまこの星に辿り着いたこと、特にこの先の予定がないことを知った。
「怪我もしてるし、しばらくここでゆっくりしてきなよ!……僕も、ひとりでいるよりマホロと一緒にいた方が嬉しいし!」
ありったけの勇気を絞り出して言った。心臓がばくばくして張り裂けそうだ。
「え、いいの?ありがとう!私も、君に助けてもらったお礼をしなきゃって思ってたの!これからよろしくねっ!」
屈託のない笑顔で、マホロはそう答えた。
それからの日々は楽しかった。
いままでのひとり時間とは違う、誰かと過ごす充実した時間。
「ね、ラセスタは知ってる?この宇宙では、誰でも大切な人と家族になれるんだよ」
「じゃあ、僕とマホロはもう家族だね!」
僕が真っ赤になりながら言うと、マホロも照れたように笑った。
僕は幸せだった。
大切な家族と過ごす時間が、なによりもかけがえなくて、尊くて、ずっとこんな日が続くのだと信じていた。
でも二年が経とうとしたある日ーーー 。
「これは星のかけら。私が持ってる二つのうち、対のひとつを君に渡すね。…これは私とラセスタの、絆の石。もし離れ離れになっても、これがあればきっとまた会えるから、大事に持っててね」
ーーーいま思えばこの時、すでに彼女には予感があったのかもしれない。
そして、その日はやってきた。
本当に突然、なんの前触れもなく宇宙から数千もの艦隊が押し寄せ、戦う術を持たない僕たちに攻撃を仕掛けてきたのだ。
炎に包まれるxx星を、僕らは手を取りあって逃げ惑った。
絶えまなく降り注ぐ光線には容赦がなく、家も、庭も、木も…僕らの思い出はすべて燃え上がり、呆気なく崩れていった。
「ごめんね、私、嘘ついてた。この星に来たのは偶然だって言ったけど、違うの。私はあいつらから逃げてきて…あの日、この星に辿り着いたの」
マホロが涙声で言う。
「ごめんね、本当にごめんーーーー君を巻き込んだこと、騙してたこと…。あいつらの目的は、私。私が出ていけば、あいつらは攻撃をやめるはずーーーそうすればラセスタはまた普通に暮らすことができる」
僕は声を荒げた。
「なに馬鹿なこと言ってんだ! 君だけ行かせられるわけないじゃないか……」
気がつくと、僕は泣いていた。
「嘘とか、巻き込んだとか関係ないよ!
君が来てくれて、一緒に過ごせて僕は幸せだったんだ…!」
しゃくりあげながら、それでも必死に、僕は声を絞り出した。
「だって僕らは……僕たちはーーー家族じゃないか………!」
マホロの青い瞳からも涙が溢れる。
その時、すぐそばで爆発が起こり、その爆風で僕らは離れ離れに飛ばされた。
地面に叩きつけられる感覚。全身に走る鈍い痛み。それでも諦めず立ち上がり、必死で彼女のもとに駆け寄る。
「大丈夫⁉︎」
彼女はそれには答えず、僕の手首を強く握った。
「今の私の力じゃ、2人でワープできないから……今から君を、ここじゃないどこか別の星へ飛ばすね。私もすぐ後を追うけど、同じ星にワープできるとは限らないの。だから、ここでお別れ。ーーーそんな顔しないで?大丈夫、星のかけらがあれば、きっとまた会える」
震える声で涙を流しながら、それでも彼女は笑顔で言った。
「こんな私を、家族だって言ってくれてありがとう……さようなら」
「マホロ!」
「ーーーーまたね」
その瞬間、僕の視界は暗転し、気がつくとこのなにもない星にいたんだ。
「……探しに行かなきゃ、xx星に…!!大切な人が、まだいるかもしれない」
話し終えたラセスタが涙を拭い、立ち上がる。
「どうやって行くつもり?」
トランが真剣な顔で言う。
「ラセスタ、君だけではこの星からは出られないよ。焦る気持ちは分かるけど、少し落ち着くんだ」
ラセスタが強く唇を噛み、俯く。
「僕は……僕には、なにもできない……」
大粒の涙が彼の頬を伝う。
その時私は、名案を思いついた。
同情なのか、心からの善意なのか、自分にもわからない。
でも私は、彼の話を聞いていてもたってもいられなくなってしまったのだ。
「だったら、私の飛行船で一緒に行こうよ!私なら全然構わないしーーー」
それに私は、この二人と過ごす時間を楽しいと感じていた。
ほんの少しでも、力になりたかった。
私の提案にラセスタが驚いたように顔を上げる。
「ひとりでは無理だろうけど、力を合わせればきっと大丈夫だよ!」
トランが笑顔で私の言葉を継いだ。
「そうだね。さっきだって、俺の力だけじゃ宇宙大魔王から星のかけらは取り戻せなかった」
彼がさらに微笑みながら続ける。
「それに言ったでしょ?君の願いは届いたーーーーって。俺は君が助けてって呼んだから来たんだ。たぶん、エメラも同じなんじゃないかな?」
私はこの星に降りた理由を思い出した。
ーーー助けて。
あの声は、やっぱり確かに聞こえていたのだ。
「星のかけらが、願いを届けてくれたんだ。
だから俺たちはいま、ここにいる」
そしてラセスタに手を差し出した。
「俺がーーー俺たちが、君に力を貸すよ」
まるで曇り空がはれるように、ラセスタの顔が明るくなるのを見て、私もつい笑顔になる。
「一緒に行こう!」
ラセスタが、差し出された手を強く握り返した。
「ーーーーうん!」
飛行船にラセスタとトランが乗り込んだのを確認し、コックピットに座る。
誰かと一緒に旅をする日がくるなんて、思いもしなかった。
ーーーこの宇宙では、誰でも大切な人と家族になれるんだよ。
その言葉を、頭の中でくりかえす。
自然と、笑みが零れた。
「じゃあ行くよ。ーーーーー出発!」
星のかけらに導かれ、決意と少しの不安を胸に、私たちはxx星を目指して旅立った。
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