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第3話 宇宙大魔王
光に包まれ、空を飛ぶ。
飛行船や機械を使うことなく、その身体だけで。
不思議な気分だーーー光に溶けたトランに包み込まれ、今この瞬間、私たちは広がる青空の中を飛んでいる。
宇宙には、こうした特殊な能力を持つ種族も多いと聞いたことがあるけど…トランもきっと、そういった人なのだろう。
光の中、すぐ横でラセスタが感動したように声を漏らした。それを見て、私もつい顔が緩んでしまうーーーーが、はっと気づいて、顔を引き締める。
このあと、あの自称宇宙大魔王からラセスタの大切な石を取り返さないといけないのだ。
私にできることかあるか分からないけど、気持ちだけは引き締めていかなくちゃ。
ーーーでも、なんでだろ、この二人といると不思議と心が落ち着く。
私たちを包む光は暖かく、まるで陽だまりのようだった。
星巡る人
第3話 宇宙大魔王
「見えた!」
光の中にトランの声が響く。
目を凝らすと前方にうっすらと、小型の戦艦が見える。
トランが速度を上げようとしたーーーその時、戦艦がUターンしてこちらを向いた。
「ぬははははあ!お前らが追いかけてくることなんざ、百も承知だったんだよ!」
自称、宇宙大魔王が高笑いをあげる。
「そんなにこれを返して欲さしいのかあ?
ふっふーん、返して欲しかったら、この先にある俺様の城に来やがれ!そこで決着つけてやる!」
そう言い残すと、宇宙大魔王は更に加速して飛び去ってしまった。
ラセスタの不安そうな顔が視界の端に写る。
「俺の城って…」
「行くしかないね、急ぐよ!」
その瞬間、私の身体がぐいっと動き、光がさらに加速するのを感じた。
「ーーーここだね」
私たちは大地に降り立って、目の前の建物を見上げた。
本当は空から突っ込むつもりだったが、建物の周りに見えない壁が張り巡らされているようで、突入できなかったのだ。
正々堂々、正面から行くしかないーーーのだが、なんだこの建物は。
ゴテゴテとした装飾、派手な彩色。
正直言ってーーー。
「趣味わる…」
つい口を滑らせたその瞬間、キーンと高い音とともに、辺りに声が響いた。
「趣味悪いとかいうなああああ!頑張って作ったんだぞおおお!」
どうやら門の上にあるスピーカーが音源のよ
うだ。
「えー、オホン、我が城にようこそ!
このお宝を返して欲しくば、最上階まで来るんだなぁ!
ただーし!俺様の夢が詰まったこの城には、俺様の手下もたーくさんいるし、トラッブも山のように仕掛けられているぞ!果たしてお前たちにたどり着けるかなあ?」
そして高笑いしながら、「それでは諸君、検討を祈る!」と言い残してぶちっと切ってしまった。
ーーーなんだあいつ
「よくわからないけど、警告だったのかな」
「大丈夫だよ。さあ、行こう」
不安そうなラセスタの呟きに、トランが微笑みながら答えた。
そして私たちは意を決し、 扉を開けたーーー。
ーーーその瞬間、目の前に幾つもの大小様々な影がたちふさがった。
角や棘や触手が身体から生えたその姿から、怪獣族なのだろうと推測できる。
トランは身構え、私は咄嗟にカバンの中に手を入れスタンボールを握る。
一瞬の緊張、先に沈黙を破ったのは彼らだった。
「魔王城にようこそ!!!!」
鳴り響くクラッカーの音。地鳴りのような拍手の嵐。呆気にとられる私たちの頭上に、紙吹雪や色とりどりのテープが降り注ぐ。
「ようこそいらっしゃいました!
私たちはここの案内を務めさせてもらってるものです」
「いやー、この星、だーれもこないから暇だったんだよ」
「ついに魔王様にも友達が!いやー、よかったよかった、わたし安心しましたわ」
怪獣たちが口々に言う。
なかには何故か握手を求めてくる怪獣までいた。
どうやら歓迎されているようだ。でも、どうして…?
私は意を決して尋ねた。
「あのーーー、私たち、宇宙大魔王…さん、に用があるんですけど……」
十数分後、私たちは魔王の間と書かれた扉のまえにいた。
怪獣たちは本当に親切で、というか、何かを根本的に勘違いをしているようで、最上階まで親切丁寧に案内してくれた。
「魔王様の間はこの先の階段を上ってもらいましてーーーあ、トラップは全部外しておきますね、危ないですからーーーほら、これで大丈夫!階段上がったらすぐですよ!」
…とまあ、こんな具合である。
魔王と怪獣たちの間で意思疎通ができていないというか、思惑がズレてるというか。
でもまあ、あれだけ歓迎されて悪い気はしなかった。
ーーーいや、これから戦うかもしれないのに、それでいいのかって気はするけれど
隣をちらっと見ると、二人とも拍子抜けしてしまったようで、ぽかんとした顔をしてる。
「魔王もあれくらいフレンドリーだといいんだけど」
「なるべくなら、話し合いで解決したいね」
一呼吸おいて、三人で顔を見合わせる。
「ーーーよし。覚悟はいい?いくよ!」
トランを先頭に、私たちは魔王の間に突入した。
パイプや計器類がむき出しになったゴテゴテした部屋、その中心で私たちを見下ろすように、魔王は仁王立ちをしていた。
「よくぞ俺様自慢のトラップと宇宙生物を乗り越えた!だがそれもここまでだあ!」
「乗り越えたっていうか、あの…親切な怪獣たちに案内してもらって」
「ん?なに?ここまで案内してもらっただと⁉︎かぁーー、あいつらめ!トラップは⁉︎………解除してもらったの……そっか…」
魔王は明らかに落胆したように肩を落とした。
しかしそれもつかの間、すぐに立ち直ったように高笑いし、叫んだ。
「まあ仕方がない!この宇宙大魔王さまが、直々に相手をしてやるわ!」
啖呵を切るや否や、真横に浮かんでいた小型の戦艦に乗り込んだ。
「発進!!」
機械の腕や脚が一瞬にして伸び、彼の乗った戦艦があっという間に簡易型のロボットへと変形する。
「ぬあははは!俺様の自信作、佐藤さん一号の力を見るがいい!!」
佐藤さん一号から光の帯が放たれ、トランの身体に瞬時に絡みつく。そのあまりの速さに、私たちには反応することすらできなかった。
トランががくりと膝をつく。
「なんだこれ…力が……抜けて…」
宇宙大魔王が高笑いする。
「お前、高エネルギー生命体だろ。なんでこの宇宙にいるのか知らねぇが、なんにしても厄介だからなぁ、先手を打ったのだ。動けないだろぉ?んん?」
「な、何を……」
「なあに、特殊な糸でお前のエネルギーを縛ってやったのだ!このままエネルギーを吸い取っちまうこともできるぞぉ?まぁこの俺様にかかれば、その程度のことなど造作でもないってことよ!!ぬあははは!!!」
目の前には息も絶え絶えなトランと、高笑いする宇宙大魔王。
「さあ、参りましたと言うなら今のうちだぞ?んん?降参かあ?ぬははは!このお宝は俺様のものなのだあああ!!」
私が動かなきゃ、でもトランですら勝てないのにどうしたらーーーー。
ーーーそのとき、ぶつん、と大きな音がして、佐藤さん一号の動きが止まり、宇宙大魔王がバランスを崩してつんのめった。
「あのーーー」
ラセスタが、佐藤さん一号から伸びたコードを握っている。どうやら電源を引き抜いたようだ。
「ぬわああああ!お前!何してくれるんだ!
まだ充電中なのに電源を抜いたら、壊れちゃうじゃないか!!」
ーーーいまだ!
「スタンボール!」
私はカバンに手を入れ、残りを思いっきり投げつけた。
弁償だのどうのこうの喚く大魔王の頭上に、何本もの雷が降り注ぐ。
佐藤さん一号が電撃に耐え切れず爆発を起こし、それによって魔王の間が半分吹き飛んだ。
硝煙と悲鳴とともに大魔王が城の外へと飛んでいく。
ーーー終わった…のかな?
ラセスタが慌てて佐藤さん一号の残骸から光る石を探し出し、大切そうに抱える。
ーーーよかった。
その光景を見て、自分が心の底から安堵していることに気づき、我ながら驚いてしまう。
視界の端でよろめきながら立ち上がったトランに、慌てて駆け寄り肩を貸す。
「大丈夫?」
「うん、なんとか」
トランが力なく微笑む。
「ごめんね、肝心なときに…」
ラセスタも駆け寄ってきた。
「いいんだよ!ふたりのおかげで取り戻せたんだ。本当に、ありがとうございました」
お互い顔を見合わせた。
安心したからだろうか、勝手に笑みがこぼれる。
「さあ、ここから出よう」
魔王の間に背を向けたそのとき、背後に人の気配を感じた。
「ようやく見つけたぜ」
「いいザマだ。たっぷりお返ししないとなあ?」
ーーーまったく、今日は本当になんて日だ。
次から次へと、ツイてないにも程がある。
ついさっきトランが懲らしめたはずのY5星人の二人組が、 魔王の間の瓦礫の上に立っていた。
「そこの銀色のお前、さっきはよくもやってくれたなァ?」
「たまたま落ちたこの城に、お前らが来てくれて助かったぜ。おかげでたっぷり例を返せそうだ」
にじり寄るY5星人。トランは動けず、私ももうスタンボールを持っていない。
青ざめながら後ずさるラセスタには戦うことは出来なさそうだし、これは本当の本当に大ピンチーーー。
「俺様の城で、勝手なマネはさせーーん!」
辺り一帯に響く声と共に、瓦礫の中から小型の円盤に乗った宇宙大魔王が姿を現した。
「なんだてめぇ!」
その問いに、待ってましたとばかりに宇宙大魔王が答える。
「ぬあはははは!教えてやろう。俺様は!いずれこの宇宙の全てを支配する男!!宇宙大魔王、ピエロン田中さまだぁ!!!」
宇宙大魔王ーーーピエロン田中がY5星人たちを指差す。
「お前ら、この星をじぶん達のものだと言っていたようだがーーー残念だったな!この宇宙のものは、全てこの宇宙大魔王である俺様のものなのだぁああああ!」
そして反論の余地も与えず、小型円盤の砲台を向けた。
「お前らは気に食わん!
佐藤さん二号の力を思い知れ!」
その瞬間、周りの空気や瓦礫やゴミ諸共、Y5星人がものすごい勢いで一気に砲台の中に吸い込まれていった。
「ふうっ、お片付け完了!あぁ、安心しろ。この星のどこかに吹っ飛ばしてやっただけだ」
ーーー終わった…?
どうやら私が理解できない間に決着がついてしまったようだ。
ピエロン田中はトランに巻き付いていた光の帯を回収した。
トランが驚いた顔で立ちあがる。
「ーーーフン、いいか!今回ばかりは見逃してやる!だがな!この宇宙のものは全て俺様のものだ!そのお宝はいつか必ず手に入れてやるからな!覚えとけ!」
そして佐藤さん二号に乗り込み、あっという間に空の彼方へ行ってしまった。
「今日のところはこれくらいにしといてやる!あばよぉ!!」
ーーーいや、本当に、なんなんだあいつ。
飛び去っていく影に向けて、ラセスタが叫んだ。
「田中さーーーーーん!ありがとぉーーーー!!」
城を出た私たちは、私の飛行船の近くの岩場に腰掛けて休憩していた。
なんといっても色々なことが起こりすぎたし、ずっと気を張っていたから、おなかが空いてしまったのだ。
飛行船の中で沸かしたお湯をカップに入れて3分待つ。
ここに立ち寄る前にMO星で買ったインスタント食料の『銀河麺』。
自炊のできない私が唯一作れる大好きなご飯であるそれを、私は共に苦難を乗り越えた二人に渡した。
「?どうしたの?」
しかし、二人はきょとんとした表情で差し出したそれを見つめている。
どうやらカップ麺を初めて食べるらしい。それどころか、いままでその存在すら知らなかった様子だ。
旅に出てからインスタント食材ばかりを食べてきた私は、二人のリアクションにかなりのショックを受けた。
ーーー宇宙のどこにでも売ってるのになあ。
食べ方も分からないらしいので、私が先に食べることにする。
見られながらなんて少し恥ずかしいけど…。
熱々のスープを口に含み、麺をずずずっと啜りあげる。
ーーーうん、美味しい!
生きててよかった、と心から思う。
それを見た二人も見よう見まねで食べ始め、気づけばあっという間に完食してしまっていた。
食べ終わって一息ついたころ、私は我慢できなくなって尋ねた。
「ね、今更だけどさ、そろそろ教えてよ。
その石のこと」
ラセスタが答えるより先にトランが答えた。
「人と人とを繋ぐ石ーーーー星のかけら」
そしてラセスタにむけて微笑んだ。
「ーーーでしょ?ラセスタ?」
ラセスタが真剣な顔でゆっくりと頷く。
「これは、僕の大切な人にもらった石なんだ」
そしてぽつりぽつりと、自分のことを話し始めた。
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