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第2話 正義の味方

干からびた大地を走る。 息を切らし、ひたすらに走る。 向かう先に見えるのは三つの人影。 座り込んでいるひとりから目を合わせたまま、私はその場に駆け込んだ。 「きみはだれ…?」 彼の質問には答えず、私は聞いた。 「あんたが、私を呼んだのね?」 その場には三人いたと言うのに、私にはなぜかそれがわかった。 「おう、何星のやつかは知らねえが、そいつの味方か?」 私が彼を助け起こすと、彼に迫っていた背の高い男が私を睨め付け、ドスのきいた声で尋ねる。それに乗るようにして隣に立つ太った男も高い声で囃し立てた。 「まあ、有り金全部置いてくってんなら、今回ばかりは見逃がしてやってもいいけどなあ?」 震える青い瞳の彼を庇うように二人組に向き直る。 青い体色に吸盤のついた長い腕、短めのしっぽがゆらゆらとご機嫌に揺れているこの姿。 よく見ると見覚えがある、こいつらシリウス区のY5星人か。 Y5星はここからそんなに離れていない場所にある星だ。少し前に燃料補給のため止むを得ず立ち寄ったのだが、惑星全体が荒れておりどことなく活気のない星だった覚えがある。 むかし読んだ歴史の本によると、なんでも何万年も前に星間戦争の舞台となった惑星であり、その影響が現在にまで及んでいるとかなんとかということらしい。よく分からないけど。 あまりに荒廃しているせいかY5星には銀河警察が干渉しておらず、半ば無法地帯と化している。私が無事に入退星出来たのは奇跡みたいなものだろう。 そういえば、あの星では目の前の二人組のようなガラの悪い連中が街中至る所で常に喧嘩を繰り広げていたなあと苦々しく思い出す。 「この星は俺たちのものだってついさっき決めたんだよ。だからこの星のものは俺たちのものなんだ。そいつの持ってるその光る石も俺たちのもんだ!」 「きっと高い値段で売れるに違いねえ!痛い目見たくなきゃ、とっととよこせ!」 なんて頭の悪そうな理屈なのだろう。 ちらっと振り返り彼を見ると、なるほど確かに、手のひらに光る石のようなものを握っている。 「これは大切なものだから…君達なんかに渡すわけにはいかないんだ…」 彼がよろよろと立ち上がり、弱々しい声で言う。よく見ると身体中傷だらけで、二人組にここまで痛めつけられていたことが見て取れた。 それでも渡していないということは、この光る石は彼にとって相当に大切なものだということだ。 私はとっさに、あとのことなど考えることなく行動に出た。 「ほら、逃げるよ!」 そう叫ぶと、彼の手をとり、自分が今走ってきた方へーーー飛行船のある方へ向けて走り出した。 うしろから、獰猛な声が追いかけてくる。 ーーー逃げ切らなくちゃ 自分のとっている行動を理解できないまま、私は走り続けた。 星巡る人 第2話 正義の味方 普段なら、立ち寄った星で誰かと関わることなんて有り得なかった。 ましてや問題ごと、トラブルに自分から首を突っ込むなんて真っ平御免だったはずなのにーーーそんなことを考えて、つい苦笑する。 自分から首を突っ込み、かき回した今の状況を例えるなら、大ピンチというところだろうか。 走り出したまでは良かったものの、Y5星人の運動能力はQQ星人の私より優れていたらしく、あっという間に回り込まれ、追い詰められてしまった。 ちらりと振り返ると、私のうしろで黒髪が震えてるのが見えた。 背筋に冷や汗が伝う。 打開策は、ない。 「よくも俺たちをコケにしてくれたな」 「ギタギタにしてやる」 じりじりと迫ってくるY5星人。 私はこっそりと彼に耳打ちした。 「聞いて、このさきに私の飛行船がある。私が今からあいつらの気をそらすから、その隙にまっすぐ走って。大丈夫、自動操縦になってるから、動くはずよ」 彼が驚いたように反論する。 「そんなのダメだよ!どんなひどい目に遭わされるか…いまなら、君は謝れば許してもらえるかもしてれない」 そして石を握る手に力を込め、小声で呟いた。 「これは僕が、死んでも守るんだ」 「だったらなおさらじゃない!大丈夫、私は自力でなんとか逃げ切るから。飛行船はあいつら撒いたらまた返して」 「そんな保証ないじゃないか!だいたい、なんでついさっき会ったばかりの僕にそんなことまでーーー?」 私はつい苦笑いした。 そんなの自分でもわからない。 この星に降りた理由も、走り出した理由も、何もかも不可解で理解ができないことばかりだ。 でも、答えは決まっていた。 「あんたが、助けてって呼んだ気がしたから」 そして、強がりでにっと笑ってみせた。 「相談は終わったか」 「覚悟しろぉっ!」 Y5星人が跳躍し、一気に距離を詰めてきた。 その瞬間、私はカバンに手を突っ込み、黄色い球体を二つ取り出すと二人組に向かって力の限り投げつけた。 「スタンボール!」 私の声が認識されたことにより、二つの球体から小規模の雷が炸裂する。 ーーースタンボール。 宇宙を旅するときに欠かせない、簡易型の防犯アイテムだ。 音声認識によって使用可能になり、周囲の相手に小型の雷を直撃させて麻痺させることができる。欠点は、強力な反動で使用者も僅かに感電してしまい、少しの間動けなくなること。 よし、あとは奴らが動けるようになる前に逃げるだけーーーそう思ったのも束の間、Y5星人がすくっと立ち上がった。 「あー、いてえ」 「てめえなにしやがんだァ!」 しまった、完全に予想外だった…いままでこれで何度も危機を乗り切ってきたけど、まさか通用しない相手がいるだなんて思いもよらなかった。恐らく、こいつらにはスタンボールの電撃を物ともしないだけの体力があるのだろう。 身体から血の気が引く。 頭の中で危険信号が鳴り響く。 良かったことがあるとすれば、スタンボールで気をそらした隙に彼を逃がせたことくらいだろうか。 「なにもんだ、てめえ」 もう本来の目的を忘れたY5星人が、怒りに満ちた目で私を射抜く。 私は足の震えをおさえ、キッと睨みつけて答えた。 「どこにでもいる、普通の旅人よ」 ーーー私はたぶん、誰かの役に立ちたかったんだ。 ふと、思った。 走馬灯のようにいろんな記憶が流れていく。 旅立つ前も旅立ってからも、 誰の役にもたてないでいた自分。誰からも必要とされていないような気がして、寂しさを紛らわせるために変に強がって、 そうやっていつも逃げてた。 関わるのが面倒くさいとか、そんなの全部言い訳でーーー本当はただ誰かに必要とされたかっただけでーーー自分が必要とされる、そんな居場所が欲しかっただけだったんだ。 ーーーせめて最後に、あの子の役に立ててよかったなーーー。 死ぬかもしれない、でも、不思議と怖くはなかった。 奇声をあげて2人が迫る。 私は固く目を閉じた。 目を閉じる瞬間、流れ星が見えたーーー気がした。 私は数秒後に来るであろう衝撃に備え、固く目を閉じて身構えたーーーが、いつまでたってもそれはこなかった。 目を閉じる瞬間に見えた流れ星が、だんだんとこちらに迫ってくるように、まぶたの裏に徐々に光が溢れてーーー。 おそるおそる目を開けた私は、目の前に光り輝く大きな背中があるのを見た。 少し離れたところに、二人のY5星人が倒れているのが見える。 全身にまとった光が収束し、その人の輪郭を形づくっていく。 銀色の身体に赤や青や黄色の線が入った、背の高い威風堂々としたすがた。 彼が振り返り、頷く。 「ーーー彼の願いは届いた」 そしてにこっと微笑む。 「すごい勇気だったね。あとは任せて」 そう言うと彼はまたY5星人の方を向き直った。 「次から次へと……てめえも俺たちの邪魔すんのか!」 二人のY5星人が吠える。 「タダじゃおかねえ!」 「まったく、自分たちより力のない人を二人がかりで攻撃しようとするなんて、酷いじゃないか。そういう乱暴なの、よくないんだよ」 諭すように言う彼の言葉は、Y5星人たちの怒りを逆なでしたらしい。 「うるせえ!悪いのは俺たちを怒らせたその女だ!それともなんだ、正義の味方気取りかあ?」 彼はにこやかな顔で、それに答えた。 「そうさ。俺はどこにでもいる、普通の正義の味方だ」 そして小声で、ちょっとカッコつけすぎたかな?と言ってまたふふっと笑った。 「君の言葉、かっこよかったから、借りさせてもらったよ」 「もういい!二人まとめて宇宙墓場に送ってやる!!」 飛びかかってきたY5星人たちの拳は、彼に届きはしなかった。 彼が突き出した右手の先で、彼らの動きはぴたりと止まり、それ以上前に進めないようだった。 「なんなんだこれ!ちくしょう!」 彼は尋ねた。 「まだやるかい?」 「うるせえ!この星は俺たちのーーー!」 彼は悲しそうに言葉を遮った。 「分かったーーーごめんね?」 彼は左手を握り、右腕を引く代わりに強く突き出した。その左腕はY5星人たちに直接当たりはしなかったものの、それでもその衝撃は後ろに立っている私の髪が逆立つほどのものでーーー触れてもいないのに、Y5星人たちは赤茶けた大地の果てまで吹き飛んで行った。 ぽかん、とまさに呆気にとられた。 一瞬、死を覚悟したというのに…あまりにもあっさりと片付いてしまった。 緊張がほぐれ、つい腰が抜けてへたり込んでしまう。 ーーーーこわかったあ。 「ーーー大丈夫?」 彼が私に尋ねた。 「あ…はい、ありがとうございます」 彼を見上げ、私はなんとかお礼を絞り出した。 「俺はなにもしてないよ。すごいのは君さ。あんな勇気、なかなか出せるものじゃない。本当の正義の味方は、俺じゃなくて君なんだよ」 そう言って彼はまたにっと笑った。 「あの、あなたは……?」 「俺の名前はーーー」 そのとき、悲鳴が聞こえた。 とっさに声の方を見ると、黒髪の小さな姿が向こうから何かに追われて走って来るのが確認できた。 追いかけてきている何かは、小型の戦艦のようなもので、むき出しになったコックピットで、鎧を着た小太りの人物が仁王立ちしながら高笑いしていた。 「ぬはははははあ!この宇宙大魔王さまから逃げようなんざ、100万年早いわあ! さあ、早くその石を俺様によこしやがれ!」 ーーーまったく、今日はなんて日だ。 私たちが動き出すより先に、戦艦から伸びた二本のアームが彼を捉え、器用に彼の腕から石を奪い取った。 「ぬはははは!頂いたぞ、お宝ぁ!!」 そしてにまーっと笑う。 「安心しろ。これは俺様のコレクションとしてだーーいじに飾ってといてやる! これは俺様が全宇宙を支配するための、第一歩なのだあ!」 そう言うと自称大魔王はアームで捉えていた彼をそっとおろし、「諸君!さらばだ!!」と言い残すと、あっという間に空の彼方へ飛び去ってしまった。 私が駆け寄ったとき、黒髪の彼は小さな肩を震わせていた。 「僕の大切な石が…もうだめだ、もう僕は……ずっと……」 嗚咽交じりの声に私はいたたまれない気分になる。 あんなに頑張って守り抜いたと思ったのに、まさかこんなことになるなんて……。 そのとき、隣にいた彼ーーー正義の味方の身体が、また光り始めた。 「大丈夫だよ」 そう言って、優しく微笑む。 「まだ、間に合う」 「でももう見えなくなっちゃってるしーーー」 「俺の手を握るんだ。ほら、はやく」 そう言って差し出された右手を私が、左手を黒髪の彼が握る。 「あ、さっきの質問なんだけど」 彼が私の方を見て、微笑んだ。 「俺の名前はトラン。トラン・アストラ。きみたちは?」 「僕は……ラセスタ」 震える声で黒髪の彼ーーーラセスタが答え、二人の視線が私に向く。 「私はエメラ。普通の旅人よ」 トランが微笑み、ラセスタが袖で涙を拭う。 「よし、じゃあ行こうか!」 その瞬間、トランを中心に私たちは光に包まれ、身体がふわりと宙に浮かんだ。 飛行船とはまた違う感じーーーでも、悪くはないな、なんて思う。 「絶対に取り戻すんだ…!」 ラセスタの呟きが、光の中に木霊する。 一瞬の後、私たちは、光の速さを超えて飛び立った。
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