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第1話 宇宙の果てからはるばると
むかしから、夜の空を見るのが好きだった。
太陽がみっつあるこの星の昼間は昔からどうにも好きになれなくて、いつかこの星から出て自由に旅をしたいとずっと思っていた。
惑星間での星間飛行が当たり前になったいまでも、私の住んでるこのQQ星みたいに外に出られるだけの技術を持っていない星もある。
仕方がない。
仕方がないことなんだけど、私にはそれが窮屈でたまらなかった。
いつか必ず、この星の外に出る。
それが私の昔からの夢。
それがまさか、こんな形で叶うなんてーーー。
ーーー叶ってしまうなんて、そのときはまだ思ってもみなかったんだ。
星巡る人
第1話 宇宙の果てからはるばると
ーーー助けて。
どこからか声が聞こえたような気がして、私は浅い眠りから目覚めた。
どうやらうたた寝をしていたようだ。
周りには見慣れた計器類、ちかちかと明滅するレーダーが外に異常がないことを示していた。
いつもと変わらない、私の大切な飛行船のコックピット内だ。
まったく、自動運転にしてあったからよかったものの、一歩間違えば墜落ものだ。
口の端にたれていたヨダレを袖で拭き取り、私はどこからか聞こえたような気がする声になんとなく感謝した。
ーーーまあ、声なんて聞こえるはずないんだけどね。
そう思いながら窓の外を見る。
外にはひたすら黒い宇宙が広がっていた。
ーーーなーんにもないなあ。
自分の星から見た宇宙はあんなに輝いてたのに、こうして実際に出てみるとすごく退屈に思えてしまう。
旅に出てからいろんな惑星に立ち寄ったりもしたけど、その星ごとのルールや人間関係に疲れてしまって、結局、最近はほとんどの時間を自分の飛行船の中で過ごしている。
こんなんじゃダメなんだけどなあ、と思う気持ちもあるけど、その一方で自分はひとりでいることが好きなんじゃないかと強がる気持ちもあって、結局いつも悶々とした気持ちで星を旅立つことになるのだ。
ついさっきだってそうだ。
食料と燃料を補給するために立ち寄ったMO星。食堂や飛行船用燃料スタンドで話しかけてくれたMO星人のおじさんたちには随分と素っ気ない旅人だと思われたんだろうなあ。
せめて表面だけでも、もっと自然に笑えたらいいのに。
そんなことを考えながら旅立って、そのままあの声が聞こえるまでうたた寝をしてしまっていた。
声……そうだ、あの声は気のせいだったんだろうか。
助けて、って言ってたような…夢だったのかなあ。
ふと、眺めていた光景に変化が現れた。
土の塊みたいな大きくもなんともない星が、そんなに離れてないところにポツンと浮かんでいる。
飛行船のレーダーで確認すると、惑星N5と表示されていた。情報を確認すると、どうやら無人惑星らしい。
まあ住んではいないだけで無法者や旅人はいるかもしれないけど…。
空気はあるみたいだし、私が不時着しても問題なさそうだ。
あの声はこの惑星から聞こえてきたような気がするーーー不意にそんなことを考えて、つい笑ってしまう。
そんなこと、あり得るはずがないのに…。
まあ、うたた寝する程度には疲れてたってってことだし、ちょうどいい。
この惑星で休憩を取ることにしよう。
ゆっくり、ゆっくりと高度を下げて着陸し、念のために防護ジャケットを羽織って外に出る。
空気を深く吸い込んだ私を、地平線の彼方まで広がる赤茶色の大地が迎え入れた。
見渡す限り、なにもない。
窓の外から宇宙を見てた時とそんなに変わらない気持ちになる。
こんな何もないところを歩き回る気になれなくて、近くの岩場に腰を下ろして空を眺め、ふうっと息を吐き出す。
この星の私が降りたところは、どうやらいま昼間のようだ。
空には太陽の他に衛星と思われる星がたくさん見えていて、なんとも幻想的だった。
そのとき。
ーーーー助けて!
反射的に立ち上がる。
聞こえた、今度は間違いなく。
やっぱりこの星だったんだ、飛行船まで聞こえたのはどういう理屈か分からないけど、そんなことはいまはどうでもいい。
探さなきゃ…!
私は声が聞こえたような気がする方向に向かって走り出した。
息があがる。
足が重くなる。
こんなに全力で走ったのはいつぶりだろうか。
そもそもどうしてこんなに急いでるんだっけ?
分からないけど、なぜか急がなきゃいけない気がする。
行かなきゃいけない、そんな気がしてる。
不思議だ。
見知らぬ星で、声を頼りに無我夢中で走ってるだけなのに、なぜか道は分かってる気がした。
まるでどこに向かえばいいのか、案内されているようなーーー。
視界の少し先、赤茶色の大地に、誰かがいるのが見えた。
座り込んでるひとりがこちらを向く。
短めに整えられた黒い髪。
遠目でもわかる青い瞳。
その瞳と私の目が合った瞬間、声の主がこの人なんだと直感が告げた。
これが、運命だとでも言うのだろうか。
ーーー私たちは、出会った。
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