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四日目の朝

 翌日。『タラヅカ』を出て三日目。『ケーニシ』から数えれば四日目。  クーとストラップはあの夕日の山の向こう側へと辿り着いた。  聳える山の麓は草木の少ない乾いた土地だった。夜明け前の空は暗く、山が大地へと影を落としている。山頂にはぐねぐねと動く巨影が見えた。  岩陰から一歩進み、クーは初めて見る山向こうの風景を見た。  ――そこには怪物が居た。  かつて都市だった場所に、巨大な体躯の変異生物種が歩いている。近くに、遠くに、ゆっくりとその生き物たちは崩れた家屋を跨いで歩いていた。同じような姿をするそれらは群れのようだった。  薄汚れた壁の近くで、破壊されたエネルギー・シェルターの青い輝きがばちばちと光っていた。 「ほら、行かないのか?」  クーが促すと、ストラップは嬉しそうに四脚四腕を持つ大きな変異生物種の群れに向かっていった。  群れの一匹がストラップの姿を認めると、屈んで鼻を合わせた。  その様子に気付いた群れの何匹かが集まってくると、ストラップに肉を分け与えた。人の腕であろうそれに、ストラップは嬉しそうにかぶりついた。 「……ストラップ」  遠いその姿を見て、クーは我知らず、肉を食うそれの名を呼んだ。  ストラップ――今はただのチビの怪物に戻ったものは一心不乱に肉を食べていたが、クーの声を聞き留めると齧り付くのを止め、振り向いた。クーは微笑んだ。 「いや、悪い。邪魔したな。そのまま食っててくれ」  返事をすると、ストラップはまた夢中で肉に食らいついた。  ――ああ。良かった。  クーは満たされていた。破壊した都市に住まう変異生物種の群れも、散乱する血肉も何も気にならなかった。何もかもが失われたこの世界は、全てを満たしていた。肉を食み、骨を割る音が幾つも聞こえる。  きっとこれは人間の世界が終わる音なのだろうとクーは思った。  ――ああ、満足だ。  この光景にクーは満ち足りていた。人類の行く末に絶望したわけでも、やけになったわけでもない。  ――ただ俺は、失った心を満たしたかった。  たった一度で良い。また愛すべき家族を得て、愛するものの為に生きたかった。俺は誰かを愛したかった。それが、この小さな怪物だったというだけだ。それがやがて人類を滅ぼすであろう怪物であっても良かった。 「助けてくれ!」  人間の声が聞こえた。クーはそちらを見た。大柄な体格の男が必死に逃げていた。その体には無数の傷がある。大方、クーと同じ外の探索を生業とするものだろう。餌として捕まり巣たる都市まで運ばれたのだ。  男を後ろから追ってきた大きな変異生物種が噛み殺した。  動かなくなった死体を見てストラップは驚いた顔をし、クーの方を見ると、それから嬉しそうに出来たての温かな肉塊に近寄り、かぶりついた。  ――俺は幸せだった。  かつては存在しなかった、虹色の朝日が登った。  新しい日が訪れた。
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