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第59話 赤チン塗るならこんな風に
「だぁっ!! 痛い痛い痛いって!! もっと優しく塗ってくれよ!!」
「仕方ないじゃないですか!! ゾンビワームに怪我をおわされたんですよ!? もうちょっと危機感を持ってくださいギュスターさん!!」
「そうかも知らんが、ただでさえ精製毒は人間の体にも有毒なんだから――ででで!!」
かくして、ゾンビワーム退治を無事に終えることができた俺たち。
しかしながら、一仕事を終えた俺を待っていたのは、受付嬢の熱い包容ではなく、熱い赤チン――というかドラゴンの血から作った毒液の洗礼であった。
受付嬢が言ったとおりである。
ゾンビワームに怪我を負わされた。その事実というのは、意外と大変なことだ。
何がどう大変か、言わずもがなである。
すなわち、体内にゾンビワームが侵入したかもしれない、ということだ。
「致命傷でもおってない限りには、大丈夫って前に聞いたが」
「念には念をという奴ですよ。というか危機感がなさすぎですよ、大事な商売道具の腕を切り落とすことになってもいいんですか!?」
――いや、それは確かに困ってしまう。
なんと言っても、最近養う家族が増えてしまった身の上だ。
ここで大切な仕事道具を、失ってしまっては路頭に迷ってしまう。
生まれこの方、冒険者稼業一筋の俺である。それができなくなってしまったら――なんてことを想像するだけで、背筋を冷たいものが走った。
「旦那さま。大丈夫ですか」
「あぁ、まぁ、大丈夫だ。すまんな、大の男がびーびーと」
「いえ、そんなことは」
メルゥに格好悪いところを見せてしまったなぁ。
なんてことを思ってちょっと気恥ずかしい気分になってしまう。
黙って消毒されていればよかったのだが、いかんせん、竜の血の毒性は強い。それこそ、傷をおっていなくても、皮膚に染みるだけで悲鳴をあげたくなるほどだ。
それを傷口に擦りこまれれば、俺だって、余裕ぶっこいた表情などしていられない。
擦傷にひとしきり死肉蟲殺しの毒を塗りたくると、ようやく、受付嬢は俺から手を放す。もし、本当にゾンビワームに寄生されていたら、すぐさまうねうねとそこから飛び出してくるはずだが――。
出てこないあたり、どうやら、俺と彼女の杞憂だったみたいだ。
とほほと肩を落とす俺。そんな俺の前で、はい、よかったですねと、至極事務的な言葉を発して、受付嬢は毒薬の入った瓶に蓋を締めたのだった。
「自分のチョンボとはいえ、二度とこんな仕事はごめんだな」
「こちらとしても、そうしていただけると助かりますよ」
「旦那さま。さっきから、チョンボチョンボと言ってますけど、いったい何をなされたんですか? メルゥにも、詳しく教えてください」
言えようものか。
お前が蜂の巣を取るのをフォローするために、ブラウンベアーをひっそりと狩っていたなんてこと。そんな話を聞いたら、この真面目な暫定嫁は、また訳のわからん責任感を感じてしまうに違いない。
「別に、お前が気にすることなんて何もないよ
「けど旦那さま!!」
「いいから気にするなよ」
と、言っても、彼女の性格だから気にするのだろうけど。
やれやれ、これはいったいっどうやって、今回の一件について誤魔化してみたものかな。
「旦那さま!! 私たちは夫婦なんですよ、隠し事はなしにしましょう!!」
「暫定のだろう。いいじゃないかよ、恥ずかしいことは言わなくったってさ」
「――え、恥ずかしいことなのですか!?」
おうよ。恥ずかしいことだよ。
嫁の身が可愛さに、裏で危険な目に合わない様に、いろいろと暗躍していたなんて。そんなこと、口が裂けても言えるかって話だ。
によによ、と、こちらにいやらしい視線を向ける受付嬢を、少し無視して。
俺はメルゥに言った。
「だから、悪いけれども、今回のことについては話せない」
「恥ずかしいことも、共有するのが、夫婦ではありませんか」
「嫁の前でくらい、俺も格好をつけておきたいんだよ」
なんといってもまだ新婚だしな。
これが長年連れ添った夫婦だって言うのなら、そんなのはギャグだが。
って、何を思っているんだか、俺は。
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