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第58話 はじめてのハントならこんな風に
小柄なメルゥの体。
そのいったいどこから、そんな力が出てくるのか不思議だった。
ブルースネイクの尻尾を掴んだ彼女は、それを力いっぱいに引っ張ると、俺の手から引き剥がした。全体重をかけて、おそらく引き剥がしたのだろう。
うろこによって擦傷が俺の腕に出来上がる。
しかし、それを気にしているような場合ではなかった。
やぁ、という叫び声と共に、空高く投げ飛ばされたブルースネイク。
俺はすかさず、サブウェポンのナイフを取り出す。
再び、奴――いや、その蛇の体の中に潜んでいる、ゾンビワームどもが、胎動を始める前に、仕留めなければいけない。
八つ裂き、あるいは、頭からこっち半分に真っ二つか。
なんにしても、ナイフ一つでケリがつく相手ではない。
となれば。
「メルゥ!! ルーンの礫の準備をしろ!!」
「旦那さま!?」
「俺があいつを木に打ち付ける。お前は、そこを狙って、更にルーンの礫で追い打ちをかけるんだ。いいな!! 絶対に外すんじゃないぞ!!」
「――はい!! まかせてください、旦那さま!!」
頼られたことからくる嬉しさだろうか。
それとも、俺を助けられたことに対するうぬぼれだろうか。
どっちでもいい。
さっさとこんな仕事は終わらせて、家に帰って俺はのんびりとしたいんだよ。
今日はもう、随分と疲れちまったんだ。
落下してくる蛇の胴体に向かってナイフを投げつける。
鱗を通して、突き刺さったそれは、自由落下の法則を乗っ取って、視界前方にある樹の方へと飛んでいく。太い幹にぐっさりと刺さったそれ。
まだ、それでも自由を求めて蠢いているブルースネイクの亡骸。
それに向かって、投げろ、と、俺はメルゥに命令した。
練習の時に見せた、へっぴり腰の下手投げ。
しかし、そこからが練習の時とは違っていた。
その軌道はおおよそ、投擲武器とは思えぬ、自由なものであった。慣性にも重力にも従わない、斜め上がりの軌道を描いて、目標――ブルースネイクの体へ向かって飛んでいく。
魔力の消費が激しいのか、メルゥが、はぁ、はぁ、と、荒い息を吐き出す。
しかし、彼女はちゃんと、俺の指示 をまっとうした。
ブルースネイクがぶら下がっているその寸前。
突然、弾けるように加速度を増したルーンの礫。
魔力による軌道操作と威力の増加。
それらを同時に、彼女はこの実戦の中でこなしてみせたのだ。
「……なんだよ。やればできるじゃないか」
鎌首をもたげる代わりに、身もだえていたブルースネイクの体が、ルーンの礫によってすりつぶされる。樹をへし折るくらいの勢いでぶつかった、それにより、どうやらブルースネイク内の死肉蟲は、すべてすりつぶされてしまったようだった。
ついにブルースネイクの尻尾の動きが止まる。
ふぅ、と、一息を吐き出した俺に、すぐさまメルゥは駆けよって来た。
「やりました、旦那さま!! メルゥ、ちゃんと当てました――よっ?」
「おっとっと」
ふらついて、俺によりかかった暫定嫁。
彼女を俺はブルースネイクにまとわりつかれていたのとは逆の腕で受け止めた。
ルーンの礫のコントロールに、べらぼうな魔力を消費するのはよく知っている。
魔力切れを起こしたのだろう。
それでも、きちんと仕留められたのは、俺のことを思ってか。
やれやれ。
そういうことを考えると、ちょっと鼻頭がむず痒くなる。
「……旦那さま」
「なんだよ」
「……ご無事で、なによりです」
「あぁ、ありがとうな。お前のおかげで助かったよ」
俺が素直に彼女を褒めたのが、よほどうれしかったのか、それとも意外だったのか。
にへへ、と、笑ったメルゥ。それから彼女は、甘えるように俺の腕にその鼻先を摺り寄せてきたのだった。
「旦那さまのお役に立てて、メルゥは幸せです」
「別に、こんなことで役に立ってもらわなくっても。お前は十分俺の役に立ってくれてるよ」
「……それでも、うれしいのです」
そう言われるとこっちも嬉しい――いや、悪い気はしないな。
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