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第57話 油断したならこんな風に

 四肢を断ち、腸をぶちまけ、脊椎を潰し、臀部を粉砕する。  ブラウンベア―の体を、ただの肉塊よりもさらに細かく――ミンチへと大剣で叩いて拵えてやると、俺はふぅとため息を吐いてその場に剣をおろした。  ブラウンベアーの肉体から逃げ出したゾンビワームたちが、次の寄生先を求めて地面をのたうちまわっている。剣を地面に突き刺すと、俺は受付嬢から預かった竜の血から精製した毒薬を、そいつらに向かってふりかけた。  ぴぎぃ、と、悲鳴を上げて絶命するゾンビワームたち。  一匹一匹に振りまいていたのではきりがない。脱出してこないうちにと、俺は、ブラウンベア―の体に、急いでそれを垂らした。  さて――。 「どうやら、これで俺のチョンボは清算しきったみたいだな」  長らくかかったゾンビワーム退治を思い起こして、はぁ、と、息を吐き出す。  鹿やら猪やら、随分と多くのゾンビを拵えてくれたものだ。改めて、この死肉蟲の鬱陶しさに辟易とした気分にさせられた。  しかしまぁ、それだけ寄宿先を増やしていれば、流石に大元のブラウンベア―の体はボロボロ。思った以上に、あっけないハントの終了に、少しばかり俺は拍子抜けした心地になった。 「まぁ、これで終わりは終わりだ。さっさとメルゥたちと合流するか」 「旦那さま!!」  などと言っていると、事が終わったのを察して、受付嬢が解放したのかメルゥが藪を飛び越えてこちらに駆けて来た。  ここまでの戦いでは、それなりに加減をしてきたが、今回については違う。  元凶であるブラウンベア―とゾンビワームへの怒りもあって、返り血を浴びることもいとわず、俺は大剣をふるい続けた。  確認するまでもない。俺の体は奴らの血で真っ赤になっているだろう。  別に血まみれになるのは珍しいことではない。  クエストをやっていれば、二回に一回は、そんな格好になるのはよくある話だ。  しかし、メルゥは初心者。  本格的なハントは初めてである。  これまでの光景にも驚いていた彼女に、俺の姿はどう映るのだろうか――。  正直、そんなことを思ってしまい、彼女を遠ざけた部分もあった。  しかし――。 「ご無事ですか旦那さま!!」 「お、おう。無事だ。けど、お前――服が汚れちまうぞ?」 「そんなの関係ありません!! よかった、本当によかった――」  メルゥは何ら一切戸惑いを見せることなく、血まみれになった俺の体に抱きついてきた。  彼女が言葉にした通りだ。  何よりも俺の無事がうれしくて、そんなことはどうでもよい。  目にも入ってこない――という感じである。  やれやれ、と、つい暫定嫁の健気な姿に、頭を掻いてしまう。胸に顔をうずめているから、照れ隠しをする必要はないのだが――ついつい俺は上を向いてしまった。  その時だ。  頭上からぬるりと落ちてくる、灰色をした太いそれの姿を見たのは。  まずい、と、俺はすぐにメルゥを突き飛ばす。  シィヤァと牙をむいて、こちらに落下してきたのは、大蛇――ブルースネイク。  しかも、ゾンビワームに寄生されているらしい。  参った、これは想定外だ。  どうやらゾンビ熊は最後に、もう一匹、寄宿先を増やしてくれていたらしい。  いまいましいことをしてくれるよ、まったく。  剣は背中。  地面に突き刺していて、すぐに抜くことはできない。  俺は咄嗟にサブウェポンの斧に手をかけると、落ちてくるブルースネイクの頭に向かってそれを振りかぶった。  三角形をした頭がざっくりと、俺が振るった剣によって割れる。  ブルースネイクは絶命した――かに見えた。 「くそっ!!」  しかし、まだ、胴体に寄宿しているゾンビワームが、胴体を動かしている。ぐるりとそれは、俺の腕に巻き付いてくると、万力で締め付けるように力をかけてきた。  ブルースネイクの締め付けの威力は強い。  思わず、手にしていた斧が、地面に落下した。  空いている手で、俺はなんとかドラゴンの血から精製した毒を、ブルースネイクのゾンビへと振りかける。しかし、それでも、その締め付けは少しも軽くならない。  頭を破壊されただけで、これといった傷口がないのだ。毒が入り込む場所がない。  これは万事窮すか。  徐々に近づいてくる頭の割れたゾンビのブルースネイクに、脂汗が滲んだその時だ。 「旦那さまから、離れ、ろぉっ!!」  メルゥが、ブルースネイクの尾をひっ捕まえて、俺から引き離そうと試みたのは。
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