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第56話 仕留めるならこんな風に
その後も、鹿を二体、猪を一体、小熊を二体と倒しながら、俺たちは森の奥を進んだ。
俺が出てくるモンスターを肉塊に変え、受付嬢がその身体を魔法糸でバラバラにするたびに、メルゥはげんなりとした顔をしていたが、それにいちいち思い煩っているような余裕は俺たちにはなかった。
結構な数の動物が、ゾンビワームの餌食になっている。
こいつはまずい。一日でこの繁殖量だ。すぐに気がついて対処したから良かったものの、もし、俺が報告を怠っていたら、恐ろしいパンデミックが起こっているところだった。
ブラウンベアーなんて、やっかいなモンスターに寄生したのが運の尽きという奴か。
本当に、そんな死体を放置した、自分の迂闊さには嫌気が差しそうだった。
「……旦那さま、よろしいですか?」
「なんだ、メルゥ」
青い顔をして言うメルゥ。
途中でへばってダダでもこね出すかと思ったが、やはりコボルト性根が据わっている。
彼女はやつれた顔をしながらも、俺たちにここまでなんとか喰らいついてきた。
おそらく、彼女から声をかけてきたのはこれが初めてだ。
どうしたのだろうか、と、振り返ると、そっと彼女は俺の服の裾を握っていた。
「……もうすぐです。近くに、匂いの元がいます」
「……そうか」
ようやく、俺のチョンボを清算する時が来たようだ。
「他に、こいつの臭いがうつっている獣はいなさそうか?」
「……はい。これで最後になると思います」
「よし」
俺は大剣を構える。そして、メルゥの代わりに受付嬢に声をかけた。
「メルゥの奴をしばらく捕まえておいてやってくれるか」
「……いいですけど。また、ノロケですか。ギュスターさんまで、勘弁してくださいよ」
「頼むよ」
長い付き合いだろう。
これまでだって、もちつもたれつでやって来たじゃないか。
今回もそれでひとつ、俺のくだらない頼みを聞いてやってくれないか。
そう、コミュ障の俺は視線で馴染みの受付嬢に訴えかけた。
相変わらず、ギルドでは見せないしかめっ面の彼女。しかし、もうっ、と、ひとつ大きく声をあげると、分かりましたよと言って、彼女はメルゥの背後に回りこんだ。
ありがとう。助かるよ。
おかげでグロテスクなものを暫定嫁に見せなくて済む。
これまでの光景にもう既に胃の中は空っぽになっているだろう。これ以上、ショッキングな光景を見せたら、彼女はついに胃袋を吐き出してしまうかもしれない。
それは流石に忍びない。
暫定嫁でも嫁は嫁だ。
大切にしてやりたいんだよ。
「旦那さま!?」
「あとは俺が一人でやる。お前と受付嬢はそこで待機だ」
「そんな……危険ですよ!!」
「お前を守りながら戦う方が危険だっての。だいたい、俺は独りでクエストやってる方が、力が出るタイプなんだよ」
「でも……!!」
これ以上問答を続けていても、俺のモチベーションが下がるだけだ。もう一度、頼んだと背中で受付嬢に嫁を託すと、俺はメルゥが言った、その先へと足を踏み入れた。
ここまで散々に寄宿先を増やしてきたのだ。
その身体が、五体満足な訳がない。
やはり俺が予想した通りに、林の先に立っていたのは――灰色の毛並みを全て血の色で染め上げたブラウンベアー。耳は欠け、手は裂けて、内臓を引きずり、骨を剥き出しにしたそれが、虚ろな目をしてそこには居座っていた。
さて――。
「三日ぶりの全力ハントだ。悪いが、こっちも溜まってるんでなァ!! 容赦はしないぜ、死に損ないの熊畜生が!!」
全身の筋肉が軋む。
大剣が空を切り裂き風邪の刃を生み出す。
口の中に湧いた死肉蟲を撒き散らして、こちらを睨む熊畜生。ぼろりその眼孔から、目玉が転がり落ちたかと思うや、そいつは奇声を発して俺に向かって突撃してきたのだった。
だが。
「遅えよ!! あくびがでちまぁな!!」
大剣の一振りが、早速、その首をへし折り、そして、跳ね飛ばした。
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