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第1話 コボルト娘を救うならこんな風に

「――っせい!!」  身の丈と同じ大剣をドラゴンの無駄に長い首へと叩き込む。  刃こぼれにより切れ味は最悪だが、龍の鱗を相手に刃先の鋭さなど意味を持たない。  的確に急所に超重量の得物を振り下ろす膂力。  そして、鱗を貫通して骨を砕く得物の重さ。  最後のおまけに無駄のない体重移動。  両手で握り締めた柄に渾身の力――ではなく、全体重を乗せて、俺はドラゴンの首の骨を叩き折る。確かな手ごたえを剣からの衝撃から感じた。  ぎぃ、と、小さく呻いて、緑色をした森の王はその場に横たわる。  赤色の泡を吐いて白目を剥くと、ドラゴンはそれっきり息も炎も吐かなくなった。 「はい、いっちょあがり」  冒険者ギルドから請け負った森に住み着いたドラゴンの駆除。  それをさっくりと終わらせた俺は、大剣をその場に突き刺すとふぅとため息を吐いた。  疲れた。  おもっくそ疲れた。  意外とこいつ元気で、首に一撃入れるのに戸惑ってしまったのだ。  普通、ドラゴンクラスの依頼となると、三人以上、それなりに意思疎通のできるパーティを組んでやる仕事なんだが――仕方ない。なんといっても俺はソロ専だ。  その分、報酬が多くなると思えば、多少の無茶は眼を瞑ろう。    仕事の達成の証を得るために、ドラゴンの首元をまさぐる。  ちょうど首と頭の付け根のあたりにそいつは生えている。  いわゆる逆鱗という奴だ。  触ればたちまち暴れだす、それはドラゴンの泣き所。  生きているドラゴンからは当然取れるわけもないので、ドラゴン退治の証として、冒険者ギルドが定めている証拠物品だ。  こいつを冒険者ギルドに持って行って、依頼は完了ということになる。 「疲れた。今日は浴びるように酒でも飲んで、泥のように眠ろう」  ドラゴン退治の報酬はそれなりのものである。  半年は、一般人なら普通に遊んで暮らせる程度に、ギルドが依頼主からマージン取った後でも貰える。普通はそこから、メンバーで等分するのだが、それでも一ヶ月は余裕で暮らせる。  しかし、なんと言っても冒険者稼業。  こいつが結構金がかかる。  たとえばこの横に突き刺している大剣なんかがいい例だ。メンテナンスしようものなら、このドラゴン狩りの報酬の三分の一は飛んでしまう。  危ない仕事が、旨みのある仕事という訳ではない。  長くやっているとそういうのが見えてくる。本当、なんでこんな仕事を選んだかね、俺も。普通に商工ギルドに入って、徒弟にでもなっておくんだった。 「はぁ。ギルド通さず、俺も独立して直接仕事を取ろうかな」  いや、そんな社交性があったら、ソロ専なんてやってない。  あぁ、やだやだ、考えたくもない。そんなことを思って、大剣を見たときだ。  黒光りするその剣の腹に、ふと、茂みの中をうごめく影が映っているのが見えた。 「なんだ?」  振り返る。と、こちらに向かって駆けてくる人影。  小人族(スクーナ)か、それともドワーフ、あるいはゴブリン。  なんにしても、フルフェイスのマスクをつけているから分からない。  妙に鼻の先の長いフルフェイスのマスクに、不釣合いなレザーメイル。手に見るからに軽めのスレッジハンマーを持ったそいつは、茂みをひょいひょいと飛び越えて、こちらに向かってくる。  なんだか、嫌な予感がした。  と、そいつが飛び越えた茂みから、おぉう、という雄たけびと共に、ウッズサーバル――森林に住む四足の獣。脚が速くて狩りづらい上に、樹の上などを飛び回って厄介な奴――が飛び出してきた。 「そ!! そ!! そ!!」 「そ?」 「そこの人ぉっ!! 助けてくださぁい!!」  それは遠くからでもよく聞こえる、女の叫び声だった。  どうやらあのフルフェイスの中身は女冒険者らしい。  だからなんだ。知るかボケ。冒険者なんて自己責任でやってんだよ。  そう言ってやりたい所だけれども、見捨てて目の前でバリバリもしゃもしゃ、モンスターに食われる光景を眺める趣味も俺にはない。  やれやれ。 「しかたねーな」  サブウエポンの腰に結わえた手斧を手に持つ。  振りかぶり、よくよく、逃げる女冒険者にウッズサーバルをひきつけて――。  今にも、さぁ、ウッズサーバルが飛び上がろうとしたその瞬間を狙って。 「おうりゃっ!!」  俺は手斧を投げつけた。  刃の部分の重さによって、ぐるりぐるりと回転しながら、手斧は真っ直ぐ狙い通りに飛んでいく。飛び上がったウッズサーバル、ちょうどその頭に直撃する形で、俺の手斧は制止した。  日に二匹もモンスターハントするなんて、働き者だなぁ俺も。  いやほんと、どうしてこんな働き者なのに独身なのかね。世の中ようわからんよ。
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