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第54話 発見するならこんな風に

 やるとなるったら容赦はしない受付嬢。  そうと決めたら梃でも動かない暫定嫁。  がっちりと二人の方向性がはまってしまえば、そこにもう、俺がどうこうと口を差し込む余地は少しもなかった。  なかなかどうして、俺の周りには、こういうアクの強い女性が集まってくるのだろう。  つい先日までは、受付嬢だけを相手にしていたというのに。  おまけに暫定嫁は家にすっかり居ついちまうし。  甲斐甲斐しくって、こっちまでその気になるくらい――よく懐いてくるし。  ほんと、勘弁してくれよという気分だ。 「メルゥさん。貴方に頼みたいのは、この血の匂いのする場所です」 「この、血ですか?」  ブラウンベアーが倒れていた地面を指さして、受付嬢がメルゥに言う。  べっとり地面にしみ込んだその血だまりは、まだ粘質を失っておらず、生々しく、緑が生い茂る森の中に映えている。  正直、女子供に見せるようなものではない。  そしてこの匂いを追った先に待っているものも、あまり見せられたものではない。  嫌ならやらなくていいんだぞ、と、一応は言ってみたがそこはコボルト。 「分かりました!! この匂いを追えばいいんですね!!」  頑張りますと、また、無駄に元気な声をあげると、メルゥは地面に突っ伏した。  そんな本当に猟犬みたいな恰好をしなくてもいいだろう。  土を掬って、匂いを嗅ぐとかでも全然かまわないというのに。 「ふんふん……なるほど!!」 「おっ、匂いの方向が分かりましたか?」 「はい、この血と同じ匂いが――森の奥の方から漂ってきます」  どうやら街の方へは行っていないらしい。  それだけでもこちらとしては御の字だ。  街をゾンビ化した熊が襲うなんて事態になったら、きっと冒険者ギルドは多大な賠償金を払うことになるだろう。当然、俺にも何かしらのペナルティが課せられたはずだ。  なにより、人の命には代えられない。  本当にそれはよかった。  ただ、と、メルゥが言葉を濁す。  鼻のいい彼女は、その匂いが漂ってくる先の状況も、どうやらある程度把握してしまっているらしい。 「この血の匂いに混ざって、新しい血の匂いも」 「……くそっ、寄生先を増やしてやがるのか」 「厄介なことになりましたね。小型の動物なら、話は楽なんですが」  そいつらも駆除しながら進むとなると、なかなかの大仕事だ。  家から持ってきた背中の大剣をホルダーから外すと、俺は雑木林を睨んで身構えた。  遠巻きに様子を見ながら戦闘という悠長なことを言っている場合じゃない。  ゾンビがその数を増やしているというのなら、それが増える前に、叩き潰さなくては。 「出会い頭に片っ端からぶっ倒していく。メルゥ、その混ざってる血の匂いも含めて、この血の匂いがする場所までのナビゲート、頼めるか」 「……やっと頼ってくださるのですね、旦那さま!!」 「もうここまで来たらやけっぱちだよ!! ただ、お前はナビゲートするだけでいい、俺と受付嬢で全部処理する」  馴染みの受付嬢が、きゅっと、手にグローブをはめ込んだ。  手にしているのは銀糸。特別な魔術加工が施されたそれは、モンスターの体をいともたやすく切断する、トラップアイテムである。  要するに彼女は糸使いという奴だ。  普段はトラップを仕込んで、そこにモンスターを追い込むが、直接的にその糸でモンスターの首を捻り飛ばすことだってできる。  達人級の冒険者が二人。  初心者だが鼻の利くのが一人。 「なんだよ、なかなか、負ける気のしないクエストじゃないか」 「負けたらダメなんですよ、ギュスターさん。必ず、勝って帰らなくてはダメなんです」 「そうです旦那さま」 「分かってるよ。よっしゃ、それじゃいっちょ、暴れてやりますか」  まずは鬱陶しい目の前の雑木林を剣で薙ぎ払ってやる。  黒い血が付着したそれらは、刃先の潰れた俺の剣によりへし折られると、無残にも地面に散る。いくぞ、と、声をあげれば、はい、と、後ろの嫁が声を上げた。 「けれど旦那さま!! 匂いがするのはそっちの方向ではありません!!」 「え、まじで!?」  ちょっと待って格好つけたのに、そんなのなくない。  血がついているんだから、普通そっちに行ったと思うじゃないのよ。  俺が剣を振った場所からちょうど九十度くらいだろうか。  回転した場所を指さして不安げな顔をするメルゥ。  ぶっはと息を吐き出して、笑い転げる受付嬢をあえて視界に入れないように気を付けながら、俺はもう一度、いくぞ、と声を上げたのだった。  ちくしょー、はずかしー。せっかくシリアスモードだったのに、何やってんだ俺は。  
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