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第51話 ゾンビを追うならこんな風に

 ゾンビワーム。  もう一つの名を死肉蟲。  その名の通り、死肉に群がる蟲である。  しかし、死肉に群がるのなら蝿も同じだ。  ただの蝿なら叩き潰せばそれで終わり。  この蟲の性質の悪さは、群がった対象を操る所にあった。  そう、この蟲は新鮮な死肉に群がり、一定数が入り込むことで、あたかもそれを生きているように操ることができる。  そして、より新鮮な死肉を産み出すために、森を、街を、里を荒らす。 「ゾンビワームの定期駆除は行っていたのですが、迂闊でした」 「迂闊なのは俺の方だ。すまん、らしくないことをして迷惑をかけた」  そのため、森の中にモンスターの死体を残すなら、ゾンビワームによって操れなくなるくらいに痛めつけるのが慣わしだ。だというのに――。 「そういや、先日俺が倒した竜は? まぁ、侵入口はなかったし竜の血肉は毒性が強いから、よっぽど急速に腐敗でもしないかぎりは大丈夫だとは思うが……」 「そちらは既にギルドの方で回収しています」 「そうか。重ね重ねすまない」 「やめましょうギュスターさん。お互いの落ち度を突きあってもどうにもなりませんよ」  そう言ってくれると、事態を引き起こした俺としては助かる。  だが、冒険者たちからしたら、いい迷惑というものだろう。  俺は今、馴染みのギルド嬢と共に、森の中へと入っていた。  目指すのはまず、俺がブラウンベアーを残してきた場所だ。  死体が見当たらなかったというその状況を確認するためにも、俺たちはまず、お互いの認識の擦りあわせを行うことにしたのだ。  なんと言っても、冒険者ギルドに席を置いている受付嬢たちだ。  彼女たちも、それなりの冒険者としての技量を持ち合わせている。この馴染みの受付嬢だけでなく、後ろで事務をしているおばさん連中も、元は冒険者だったりするから性質が悪い。  この馴染みの受付嬢も、そこそこの冒険者としての技能を持っていた。  ただ、俺と違って彼女はアタッカーではなくサポーター。  罠を専門とする、トリッキーなタイプではあったが。  また、冒険者ギルドはこんな風に、冒険者たちとは別に、そこそこに動ける実働部隊を持ち合わせている。ゾンビワームの定期駆除は、彼らの主な業務といっても良かった。  とはいえ、蟲なんてどこに湧くかなんてわからないもの。  彼らにとって毒となる、ドラゴンの生き血を撒いたりしてはいるが……。 「くそっ!!」 「だから、やめましょうギュスターさん。これはもう、誰のせいでもありませんよ」  受付嬢はそう言ってくれたが、冒険者としてのプライドの手前、そうだなとも頷けない。  歯がゆい。実に歯がゆい。  イノシシ程度に寄生して現れてくれたならまだ良かった。  よりにもよってブラウンベアーのように、体格の大きいモンスターに寄生するなんて。  ゾンビ化してしまったモンスターは、当然、痛覚も意思もない。  ただただ、寄生したゾンビワームの操るがままに、身体の欠損をものともせずに暴れ狂う。  自律神経や脳を奪っているわけではないのが唯一の救いだろう。  個々のワームが連携して死体を動かしているため、その動作はどうしても緩慢になる。  だがそれで、死体の筋力が失われる訳ではない。  そうこうしているうちに、俺は昨日、メルゥのクエストの補助のために、ブラウンベアーを倒した場所へとやって来た。  森の中だというのに、最短経路でたどり着ける辺り、俺もよくよくここでのクエストに入れ込んでいるものだ。  そして――。  確かに受付嬢が言ったように、そこにはブラウンベアーの死体は見当たらなかった。  代わりに、黒くなった血溜まりと、そこから身体を引きずったような血痕が、林の中へと続いていた。 「ここに間違いない」 「ギルドの探索部隊が報告したのもここで間違いありません」 「やはり、ゾンビワームか」 「探しましょう。寄生して一日なら、まだ、そう遠くまでは移動していないはず……」  その時だ。  俺たちの背後で、がさり、と、大きな物音がした。
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