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第50話 特級クエストならこんな風に

 そんなこんなで、ごたごたとしたやり取りをしていたものだから、食事を済まして家を出るのが随分と遅くなってしまった。  こんな時分に冒険者ギルドに行ってもろくなクエストは残っていない。  暫くは、メルゥのお付でそんなクズクエストでも問題ないが、毎朝こんな痴話喧嘩をしていては身が持たないな。  さっさとメルゥに一人前になって貰うか。  せめて一人で収集クエストがこなせるようになってくれれば――なんてことを考えながら冒険者ギルドに入る。  するとどうだろう、深刻な面持ちをした冒険者の面々が、そこには居並んでいた。 「……どうしたんでしょう? 皆さん、こんなお揃いで?」 「何かあったみたいだな」  と、どこか他人事のように俺は言った。  ギルドでこうして人が集まる理由はたいてい知れている。  森に、冒険者たちのキャパを大きく越えるモンスターが現れた時だ。  ドラゴンかオーガか、それともギガントか。ノーマルなそれらなら問題はないが、そこに加えてレアな特性を持ったモンスターが現れると、迂闊に森に入る訳にはいかなくなる。  モンスターが討伐されるまで、森への出入りは原則禁止。  ギルド主導で、経験豊富な冒険者たちでパーティを組み、そいつらが駆除を完了するまでは、俺たちは開店休業という――まぁ、そうい次第である。  そして、そんな凶暴なモンスターを狩れる、経験豊富な人材ともなると、限られてくる。 「ギュスターさん!!」  馴染みの受付嬢が、俺の顔を見るなり声を上げた。  冒険者たちに囲まれてあれこれと説明していた彼女は、その説明を一旦打ち切ってまで、俺の方へとやって来た。  やれやれと、厄介事となればすぐこれである。  それは馴染みにもなってしまうよと、俺はため息を吐き出した。 「どうした? 今度は何が出たんだ、ブラックドラゴンか? レッドドラゴンか?」  いつもならすぐに本題を話す現金な受付嬢。  しかし、今日はなんだか言いづらそうに、苦い顔をこちらに向けていた。  これはいったいどういうことなのだろう。  少し混乱した俺に、落ち着いて聞いてください、と、彼女は今さらな念押しをした。 「昨日、ギュスターさんから、ブラウンベアーの回収を頼まれましたよね」 「あぁ、そうだな。ていうかそれはこいつの前では秘密……」 「そのブラウンベアーの死体が見つからなかったんです」  俺は自分の体を流れる血が凍りついたような感覚に陥った。  嘘だろ、おい、と、思わず口から言葉が漏れる。  見つけられなかっただけではないのか、そう問い返すより先に――どうしてブラウンベアの死体を、適切に処置しておかなかったのか、と、後悔が頭の中を過ぎった。  そんなのは冒険者として、最低限の心得だろう。  胸を一突きして、首を斬り付けて、はい終わり。  死体を引っ張って森から出すのなら、それで十分だったかもしれない。  しかし――。  。  よっぽど、メルゥのことに気をとられていたのだろう。  俺は冒険者としてあるまじき愚を犯したことに、ようやく一日経って思い至った。 「ブラウンベアーのものと思われる、血溜まりは見つかりました」 「けれど死体はそこにはなかった。血溜まりの中から起き上がって、森の中へと消えてしまった、って訳だな」 「冒険者ギルドとしては、ゾンビワームがブラウンベアーの死体に入ったと考えています」 「あぁ、間違いないだろう。すまねえ、動ける状態で死体を放置した、これは俺の落ち度だ」  どういういことですか、と、問うようなメルゥの視線をあえて無視して、俺は話を進めた。  俺もいっぱしの冒険者だ。  自分の尻くらいは自分で拭けるし、拭くつもりだ。 「ギュスターさん、冒険者ギルドからの特級オーダーです。ゾンビ化した熊を狩ってください。可及的速やかに、森以外に被害が出る前に」  任せろ、と、俺は言うなり振り返る。  不安げなメルゥの顔が正面に映りこむ。流石に、これを無視することは――できないか。 「メルゥ、今日のクエストは中止だ。お前は今日は家で家事をしてろ」 「どういうことなんです? 説明してください、旦那さま」 「……いいから、言うとおりにしてくれ」  ゾンビ化した熊が、街に降りてきてからでは遅いのだ。
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