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第49話 朝チュンならこんな風に

 結局、ありやなしやの夜はなしやのまま終わった。  俺はメルゥを簀巻きにして身動きを取れなくすると布団の中に押し込んだ。  そうして自分は家の外に出ると、外泊用にと厚手に造ったコートを羽織って壁を背にして眠りについたのだ。  自分の家だというのにどういうことだろう。  簀巻きにして外にメルゥを放り出せばいいのでは、と、そんな残酷なことも思ったが。 「……旦那さまぁ」  それでも、切なそうに家の中から聞こえてくるメルゥの声に、罪悪感を覚えずにはいられなかった。結局、その声は深夜まで続き、とっぷりと夜がくれてフクロウの鳴き声だけが響くような時分になって、ようやく彼女は寝付いたようだった。  何がいけなかったのか。  魔力切れが原因。それとも、優しくしたのが彼女の心の導火線に火をつけたのか。  いろいろと考えてみたが理由が分からない。 「何か悪いものでも食べただろうか」  昼に蜂の子は食べたけれども。  うぅむ、わからん。  確かにあれを食べると元気になる感じはあるけれど、メルゥのように自分を忘れるほどに、はたしてなるだろうか。精力剤と言っても、気休め程度のものだと思ってたんだがな。  というか、そもそもコボルト族の発情、激し過ぎるだろう。  この調子でもし、たびたびこんな乱痴気騒ぎを繰り返されたらと考えると、たまったものではない。対応策を考えておかなければならないな……。  とまぁ、そんなことを考えながら、俺は結局何も食べずに夜を明かしたのだ。  そして、翌朝。 「……ごめんなさい、旦那さま」  一番鶏が鳴いたのを確認して、家の中にそろりと戻ってみる。  するとそこには布団の中でうつぶせになり、恥ずかしそうに顔を垂れ耳で隠しているメルゥの姿があった。  どうやら、もうすっかりと、自分の中の激しい感情はコントロールできているらしい。  ほっとした気持ちで彼女に近づくと、俺は簀巻きにしている筵と荒縄を彼女から解いた。  はふぅ、と、落ち着いた調子で息を吐き出すメルゥ。 「……まさかこんなことになるなんて。私としたことが、恥ずかしいです」 「……まぁ、あれだ。そういう時もあるさ」 「……発情なんて、今まで一度もしたことなかったのに」 「え? そんなものなの?」  てっきりその辺り、犬猫と同じでコボルトは頻繁にするものなのかと思ったけれど、そういう訳じゃなかったのか。  と、そんな思惑が透けて見えたか、じとりとメルゥがこちらを睨む。 「旦那さま!! コボルトをそんな犬猫と一緒みたいに思わないでください!!」 「いや、それは、その……ごめん」 「理性ある都会のコボルトは発情なんてしません。するのは一部の――辺境に棲んでいる、野生的なコボルトだけですから」  あ、野生的な奴等はするのね。  するってえと、理性で抑え込んでいると、そういうことか。  なるほどなぁ、都会のコボルトってのは、たいそう生き辛そうでかなわんな。  簀巻きから解放されるや、すっかりいつもの内弁慶振りを取り戻したメルゥは、俺に向かってぷりぷりと怒ってみせた。  そんな彼女に、はい、はい、と、頭を下げて。俺は当座、暫定嫁の嵐が過ぎ行くのを待つのであった。 「だいたい、簀巻きにすることなんてないじゃないですか!! しかも家の外にまで出るなんて!! どれだけメルゥのことを信頼してないんですか!!」 「いや、それはその、まぁ、俺もどうしていいか分からなくて」 「私だって、旦那さまに申し訳ないやら、切ないやら、恋しいやら……とにかく、大変だったんですよ!!」 「メルゥさん、朝からするにはちょっと重い話なので、もうちょっと声を抑えて」  大声で、のろけ話を聞かされる、隣近所の人たちの身にもなってあげてください。  しかしそんな俺の請願を、だまらっしゃい、と、一喝して跳ね飛ばすと、メルゥは説教を続けるのであった。  とほほ、とんだ暫定嫁をもらっちまったもんだ。 「旦那さまァ!? 聞いてるんですかァ!!」 「聞いてる、聞いてるから……。はい、そうです、メルゥさんの言うとおりです……」
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