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第45話 ナイスピッチならこんな風に

 十回ほど投げ込んだあたりくらいだろうか。  ついにメルゥがその肩を荒げて、はぁはぁと苦しそうな息をあげはじめた。  どうやら魔力量が切れてきたみたいである。  そんなにメルゥの魔力量は多くないと道具屋の店主は言っていたが、どうやらそれは事実のようだ。威力からそこそこあるのかと勘違いしていたが、どうもそうではないらしい。  とはいえ、まだ限界には達していない。 「……だ、旦那さま。疲れてきましたぁ」 「まだまだ大丈夫だ、いけるいける。身体が動かなくなったと思ってからが本番だ」 「……メルゥ!! 頑張ります!!」  てやぁ、と、投げるが、やはりまた礫は彼女の手の中からすっぽ抜ける。  なんでこうもピッチングセンスが皆無かねこの娘は。  普通、もうちょっとまともに生活していても、コントロールがあるものだと思うけど。  そこで、俺はふと、店主が言っていたことを思い出した。 「メルゥ。お前、さっきから投げる時に魔力を使ってないんじゃないか?」 「……はい? どういう意味ですか、ご主人さま?」 「店主が言ってただろう。そのルーンの礫は、魔力によって威力操作も、コントロール操作も可能だって。お前、さっきから凄い威力で林や地面は抉ってるけど、コントロールはダメダメじゃないか」 「……そういえば、そうですね」 「一度、そっちに魔力を投じてみろ。ほれ、下から、軽く投げてみる感じで」  分かりましたとおとなしく俺の言うことを聞いたメルゥ。  彼女はそれまで、上から振りかぶっていたフォームを下投げに切り替えると、今までよりも緩やかな動きで、それをスローイングしてみせた。  流石に下投げともなると投げ筋は安定してくる。  初めてすっぽ抜けずに、樹に向かって飛んだそれは、しかしながら、やはりその正中を捉えるまでには至れていなかった。ゆるりゆるりと、放物線が垂れ下がってくるにしたがって、その樹から大きくそれていく。  と、そのときだ――。 「……むっ、むむむむむっ!!」  メルゥが、頬をぷっくりと膨らませ、眉間に皺を寄せて何かを念じ始めた。  するとその想いが通じたとばかり、緩やかに礫が樹の正中に向かって移動をし始めた。  なるほど、これがコントロールに魔力を使った結果か。  速度こそ遅いが、なかなか使い勝手がよさそうだ。  あとはこれを高速で投げた際に、どれだけ魔力と気力を使うかだろうな。  こつり、と、今日初めて、目的の樹に向かって当たった礫。  しかしコントロールに力を使いすぎたのか、命中したというのに、礫は力なく樹に跳ね返されて、ころりころりと地面を転がった。  それとほぼ同時だっただろうか。 「……もう、無理ですぅ」  搾り出すような声と共に、メルゥがその場に膝を着いた。  前のめりにどさりと倒れこむコボルト娘。おいおい大丈夫かと近寄ると、本当に無理なのだろう、彼女はもう立っていることもできないという感じに、ひくひくと身体を震わせていた。  よいせと彼女の身体を抱き起こして、まずは木陰に座らせる。 「……すみません、旦那さま」 「なに、いいってことよ」 「……なんだか、力を出すことよりも、コントロールする方が難しいです」 「ふぅむそういうもんなのか」  どうやら魔力量を使い切ってしまったらしい。  彼女の言葉が事実であれば、威力に魔力を使うのと、コントロールに魔力を使うのとで、その消費が違ってくるということになるらしい。  魔力量――いったいどれだけ投げ込めるのか、調べてみるのも今日の課題だったのだが、こりゃ失敗だな。  迂闊に、コントロールに魔力を使ってみろと言ってみたのがいかんかった。  まぁそれでも、威力とコントロールで、その魔力の消費量が違うというのが分かっただけでも大きな成果か。 「おつかれさん。よし、それじゃちょっと休憩して、今日はこのぐらいにして上がるか」 「えっ? 筋力トレーニングはいいんですか?」 「魔力切れを起こしたんだ、そんな簡単に動けるようになるもんじゃない。動けるようになるのにも時間がかかる」 「……けど」 「お前は冒険者であるまえに、俺の暫定嫁だろ。だったら、まずは家事ができることを優先してくれ」  真面目なコボルト娘だ。やると言ったら聞かないだろう。  ちょっと卑怯な言い方になってしまうが、もう一つの仕事を引き合いに出して、俺は彼女にしっかりと身体を休めるようにと命令した。  実際、魔力量が切れた状況というのは、非常に危ない状況だ。  そんな身体で無理をして、万が一でもあってはたまらない。  暫定嫁としても、指導している弟子としても、彼女に無理はさせられなかった。  旦那さま、と、何故だか涙声で言うメルゥ。 「……今日、はじめて優しくしていただいた気がしました。愛を、愛を感じました」 「どんだけ俺はスパルタンなんだよ」  えっぐえっぐと涙ぐむメルゥ。    えぇ、俺、そんなに酷いことしたっけかな。  コボルト娘のそんな姿に、俺は首を傾げることしかできないのだった。    おかしいな。別に、俺が修行時代にしたこと、されたことをしただけなのに。
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