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第44話 修行をするならこんな風に

 さて、蜂の子で腹ごしらえを済ました俺たちは、再び装備を整えるとクエストを行っている森へと戻ってきた。  目的は一つ。  メルゥの修行目的だ。 「メルゥ、武器の扱いは場慣れだ。練習すればするだけ、上手くなる」 「はい!! 旦那さま!!」 「そしてもう一つ。クエストをこなす上で必要なのは、自分のスタミナの限界を知ることだ。オーバーワークして、途中で倒れた身も蓋もない」 「分かりました!! 旦那さま!!」 「これから行う修練の目的は、この二つを把握すること。そして、鍛えることだ。そのあたりゆめゆめ忘れるなよ」 「……もうっ!! 前置きが長過ぎます旦那さま!! はやくメルゥに修行をさせてくださいよぉ!!」  むぅ、なんとも反抗的な弟子ではないか。  もうちょっと師匠を敬って、ちゃんと話を聞いたらどうなんだろうか。  まったくこれだから最近の若い冒険者はと愚痴りたくなる。  まぁ、俺も、年齢的には若い方だけれど。経験はある。それなりに。 「まぁ、確かに前置きばっかりしていても、仕方ないな」 「そうです、まずは実戦あるのみです!!」 「いや今からやるのは模擬戦だっての」  そう言って、森の入り口にある枯れ木に対して俺は身体を向けた。  いわゆる、ここは初心者冒険者の修行場だ。  周りにある樹はあらかた、剣や斧で切りつけた痕が残っている。  若い冒険者とその指導者は、冒険帰りにここに寄って、樹を相手に切りつけたりして模擬戦をしたりする。その爪痕という訳だ。  かくいう俺も、師匠についてもらっていた時は、ここで大樹を相手にショートソードで何度も切りつける練習をしたものだ。すぐに、そこそこ筋ができてきたと、師匠相手の模擬戦に以降はしたが――。  思い出すと、ちょっと寒気がした。  自分から頼んで弟子入りしたとは言っても、あのバケモノ爺の下で、よく数年も弟子なんてやってこれたものだ。というか、初日に模擬戦をしたときによく死ななかったものだ。 「あの爺さんはほんと、加減ってものを知らないからな」 「……もうっ!! だからぁっ!! はやく始めましょうよ、旦那さま!!」 「分かった分かった。そしたらほれ、あそこの樹に向かってその武器を投げつけてみな」  俺はメルゥの正面にある、ひときわ幹の大きい樹を指差した。  的としてはそこそこ大きい。普通に石を投げても、まず当たるだろう距離だ。暫定嫁がよっぽどにへっぽこピッチャーでない限りには、だが。  よし、やってみろ、と、俺はメルゥから少し距離を取る。  眼前の樹を見据えてすぅと息を吸うコボルト娘。  彼女はそうして、脇のベルトからルーンの礫を一つ手に取ると、振りかぶって。 「……えいっ!!」  投げた。  ように見えた。  どうやら、俺の暫定嫁は、ピッチャーがどうこうの前に、へっぽこが過ぎるみたいだ。  真上にすっぽ抜けたルーンの礫は、そのまま大きく上に舞い上がる。そうしてそこから、メルゥの魔力の影響を受けたのだろう、途端にブーストがかかったように速度を上げると、地面に向かって落下してきた。  どうしたことか、俺の足元に、めきりと食い込んで落ちたルーンの礫。  相当な衝撃であった。その掌大の礫にも関わらず、軽いクレーターがそこには出来上がっているではないか。  うぅむ。 「へっぽこだが、凄い威力には違いない」 「だ、だだ、旦那さまぁっ!? 大丈夫ですかぁっ!?」 「大丈夫だ、何も問題ない」 「ごごご、ごめんなさい!! 私としたことが、こんなつもりじゃ!!」  そりゃねぇ、わざとこんなのやらかしたんなら、即破門、即離婚、即他人だ。  だが、お前さんの不器用さ――というかへっぽこぶりは、俺もこの通りよく知っている。 「これくらい避けられない俺じゃないさ。それよか次だメルゥ」 「次?」 「まだ投げれるだろう? ほれ、お前のノーコンぶりはよく分かったから、後はスタミナがどれだけあるのか、俺に見せてくれよ」  分かりました、と、頷くメルゥ。  はたして彼女は気を取り直すと、また、ベルトからルーンの礫を手にしたのだった。 「――とぉりゃぁっ!!」  またしてもすっぽ抜けて明後日の方向へと飛んでいく礫。  しかし相変わらず、威力だけは十分あるらしく、飛び込んだ林を爆発四散させたのだった。  うぅむ。もしかして、俺は、とんでもないバケモノを、今、育てようとしているのかもしれない。魔力量はそんなにないと言っていたが、これだけの威力を出せるとは――恐れ入った。  これは、意外と早く討伐クエストに同行できるようになるかもしれんな。 「――ちょいやぁっ!!」  すっぽぬけるようにさえ成らなくなれば、だが。
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