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第43話 蜂の子を炒めるならこんな風に

 巣の中から幼虫を取り出すのにはそう時間はかからなかった。  好奇心と忍耐力、そして不屈の根性を備えたコボルトが、その気になると仕事は早い。  十分も経たないうちに、巣の中から虫という虫を穿り返し、巣をぼこぼこにしたメルゥは、満足げな表情で額とその垂れ耳を腕で拭った。 「……やりました!! 旦那さま!!」 「お前、本当にすごいな」  暫定嫁の集中力には脱帽する。  こいつ、一心不乱に蜂の子を取り出すんだものな。わき目も振らずに。  流石はコボルトということか。  俺だったら、だらだらとぼやきつつ、一時間くらいかけてやるだろう仕事だけに、驚きもひとしおというもの。  麻袋の中にまとめて入れられた蜂の子を見る。  ミドリバチといいつつ、幼虫のそれは白い身体をしている。  見ようによってはマカロニのように見えなくもない。  そしてこれには、実際に、その見た目にあった利用法が存在した。 「さて、それじゃお前はハチミツを絞ってろ」 「お前は? 旦那さまは何かされるのですか?」 「せっかく新鮮ないい素材が手に入ったんだ、俺は昼飯を造っているよ」  え、と、いう叫び声。  それと共に、メルゥの垂れ耳がピンと頭上に向かって伸びた。  まぁそうだろう。驚くのも無理はないさ。 「旦那さま!! 料理できたのですか!?」 「そっちかぁい!!」  一応、そりゃ俺だって、独り身が長いのだから料理の嗜みくらいは持っている。  といっても炒め物程度の簡単なものしか造れないが。 「蜂の子ってのは焼いて炒めると旨いんだ」 「え、そっちを食べるんですか!?」 「そうそう、そういう反応を俺は求めてたんだよ」  こんなうねうねとして気持ちの悪い生き物を、どうして食べるんだ。わざわざ食べなくてもいいだろう、と、メルゥが気味の悪そうな視線を向けてくる。  しかし、焼いたこれはぷりぷりとして、まるで海老のような味がするのだ。  そして旨い。絶妙に旨い。この旨さを味わわずして、なんのための冒険者だろう。 「昨日のレッドチリも残ってたよな、あれとオニオンで炒めるとこれが絶品でな」 「……私はいいです。ハチミツ舐めてますから」 「まぁそう言わず。午後からの訓練で体力も使うんだ、精力はつけて置いた方がいい」  ちなみに強壮剤としての効果も高い。  しかるべき薬問屋に持っていけば、そこそこの値段で買い取ってくれるが――やはり自分たちで狩ったものは、自分たちで食べるのが一番だ。  ふんふんふんと、鼻息を鳴らしてキッチンへと移動する。  竈に火打石で火を起こして炭を燃やせば、俺はその上に使い古したフライパンを載せた。  壷にためてあるオリーブオイルを敷き詰めて、まずは、刻んだレッドチリとオニオンを炒めて下味を付けていく。 「待ってろよ、美味しいの食わせてやるから」 「……だから、メルゥはいらないですってば!!」 「何事においてもチャレンジ精神が大切だ。メルゥ、お前は、冒険者になるんだろう。だったら、未知の物に対して挑戦していく気概を持て」 「未知って、おもいっきり、さっき私が穿り出した虫じゃないですか!!」  虫なんて食べれるものじゃありません。  まるでそれがこの世の常識だとばかりに、こちらを涙目で見つめるメルゥ。  そうだろう、そうだろう、そう思うだろう。  その認識を今日、お前の中で覆してやろう。  というか、冒険者は時には虫だろうが、やもりだろうが、蛇だろうが、食うに困って現地調達することなんてしょっちゅうだ。  ここいらで一つ、彼女の食に対する認識を広げてやるのもまぁ、指導者としての務めだな。 「旦那さま、絶対におかしいですよ!! そんなものを食べるなんて!!」 「おかしくないって、美味しいんだって。ほら、いい匂いがしてきただろう」  いい感じに温まった、オリーブオイルとオニオン、そしてレッドチリの中に、蜂の子を投入すれば、じゅうとまた肉が焼けるのとはまた違う、淡白な香りが漂ってくる。  ほぁと、嫁の表情が緩んだのを見て、俺は、閉めたものだなとほくそ笑んだ。  すぐに彼女は緩んだ顔を引き締めると、絶対に食べませんからと食ってかかって来たが。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「……なにこれ、美味しいです!!」 「だろうだろう」 「ぷりぷりしていて、まるで海老みたいな食感です!! えっ、蜂の子、これが!?」 「他にも幼虫系は美味しいのが多い。また今度、冒険の途中にでも、食える虫と食えない虫を教えてやるよ」 「……うぅっ、美味しいけど、なんだろう、とても複雑な気分です」 「はっはっはっは」
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