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第42話 蜂蜜を生成するならこんな風に

 さて、受付嬢から報酬の金貨二枚を受け取ると、俺とメルゥは麻袋に蜂の巣を入れたまま、またしても昼ちょっと過ぎに家へと戻ってきた。 「……って、なんだか自然な流れで持って来ましたけど、これ、どうするんですか?」 「どうするってお前、蜂の巣だぞ?」 「そうですね」 「そりゃお前――蜂蜜を作るに決まっているだろう」  よほど今日の駆除クエストが堪えたのだろうか。  はたまた、蜂がそもそも苦手なのだろうか。  うげげという顔をメルゥはした。  そしてそのまま、くるりと俺に向かって背中を向ける。 「メルゥ、お昼ご飯を作らないと」 「待て待てメルゥさんや。クエストでの拾得物の加工も立派なクエストの仕事のうちですぞ」 「……うぅ、もう蜂は嫌ですぅ」  そう言いなさるな、と、逃げようとするメルゥの肩を後ろからぐわしと掴む。  観念したか、尻尾をしゅんと地面に向かって下ろし、垂れ耳をぐったりとさせると彼女はぐすりとその鼻先を鳴らすのであった。  一旦、作業のしやすい板間の上にメルゥを座らせて、俺は裏の物置に向かう。  そこから持ってきたのは――なんてことはない、蜂蜜を搾り出す木製の器具だ。  上辺が空いていて、側面には螺子とそれに直結する取っ手がついている。  下には細かい金網が貼り付けてあって、更にその下に、漏斗上の流出口がついている。  まぁ、いわゆる絞りとろ過をする簡単な道具だ。  師匠から、俺はいらんから、お前が持っておけと、無理やりに渡されたものである。  しばらく使っていないが――うむ、見たとこ問題なく使えそうだ。  さっそくそれを持って部屋に戻ると、ピンとメルゥの尻尾を立ててこちらを見た。  どうやら嫌だ嫌だと言った割には、この装置に興味を惹かれたらしい。 「旦那さま、それはもしかして」 「ハチミツ・シボリ・マシーン!!」 「すごい!! 旦那さまはなんでも持ってらっしゃるんですね!!」 「なんでもってこたねえよ」  ほぼほぼ、廃棄処分代わりに無理やり押し付けられたものだ。  たまたま、機会があって何度か使うこともあったが、別に持ってることを褒められても嬉しくはないなぁ。  まぁ、メルゥは討伐系のクエストに向いている体格をしていない。  これからも何度か、こうしてミドリバチを狩ることもあるだろうから、持ってて損はないだろうけれども。そういう意味では、押し付けてくれた師匠に感謝だ。 「でっ、でっ、どうやって使うんですか」 「普通に巣をこの中に割って入れて――それで、側面の取っ手を回して押しつぶすんだ」 「私がやってみてもいいですか!! いえ、やらせてください、旦那さま!!」  さっきまでぶつくさと文句を言っていたくせに、えらい食いつきぶりである。  まぁいい、やりたいというならやらしてやろう。  ただし――。 「お前、そのまま潰したら、中にいる女王蜂や幼虫まで潰れるだろう」 「えっ?」 「ちゃんとハチミツを搾り出す前に、その辺りは取り分けなくちゃいかんぞ。ほれ」  そう言って、俺は台所にあったピンセットを彼女に差し出した。  これで巣の中にもぐりこんでいる、ミドリバチの幼虫を取り出して――ハチミツを絞るのはそれからだ。  でないと、幼虫の絞り汁まで混ざって、味が大変なことになる。 「ちょ、ちょっとくらい大丈夫なんじゃ」 「大丈夫じゃない。幼虫混ざると、味も落ちるし腐るのも早くなる」 「……えぇ」 「それに幼虫は幼虫で需要があるんだよ。とにかくやる、ほれ、ハリーだメルゥ」  ぐすり、と、また、垂れ耳暫定嫁コボルトが鼻を鳴らす。  分かりましたぁと、無念そうに、さも嫌そうに、そして恨めしそうに呟いて、彼女は麻袋の中から巣を取り出すと、その穴をほじくって、幼虫を取り始めたのだった。  よしよし。流石はコボルト、真面目でよろしい。 「あ、けど、慣れるとこれ、ちょっと楽しいですね」 「お前のそういう適応能力の高いところ、俺、素直に尊敬するわ」
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