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第40話 蜂の巣を運ぶならこんな風に 

 さて、目的の駆除クエストは完遂した。後は、この麻袋にパンパンと詰まった蜂の巣を、冒険者ギルドに持っていけば、クエストは完了ということになる。  防護服から元着ていた装備に着替えなおし、麻袋を担いだメルゥ。  ふと、その顔が青く染まったのに俺は気がついた。 「……旦那さま」 「なんだ?」 「実はまだ、ミドリバチが死んでなくて、中から出てくるとか、ないですよね」  ある。  実際そうやって、刺された人間を俺は何度か見たことがある。  というか、初心者冒険者が処置をミスり、ギルド内でミドリバチが暴れまわって、被害を出した瞬間に出くわしたことがあったりする。その冒険者、それからしばらくの間、顔を見かける度にいろんな奴らに絡まれていたっけか。  しかしだ、ミドリバチは大群で襲ってきたときが怖いだけだ。  単品での毒性はそれほど高くない。  それこそ、処置をミスって、大量に生きているなんて事がない限りには問題にならない。 「どれちょっと貸してみ」 「あっ、旦那さま!!」  麻袋をメルゥからひったくると、その中を覗いてみる。  ぶら下がったまま、その巣を麻袋に入れたらしい。逆さになっているそれを、ひょいと中でひっくり返すと、まじまじと穴の中を覗きこんだ。  枯葉の繊維により作られたそれは手で触れるとほろりと崩れる。手を突っ込んで、少し暗いその蜂たちの出入り口を広げてやると、中が見えてくる。  見えるのはまだ成虫しきっていない、ミドリバチの幼虫ばかりだ。  女王蜂の姿もあるが、こいつはしっかりと死んでいる。ぴくりとも手足を動かさない。  これならまぁ、大丈夫だろうと呟いて麻袋を縛り上げると、俺は蜂蜜にぬれた手をねぷりと口の中へと放り込んだ。 「旦那さま、勇気がありますね」 「そうか?」 「捕まえておいてなんですけれど、私はとても確認する気になれませんでした」 「これから毒蛇の駆除クエストなんかも受けなくちゃならんんというのに、そんな弱気でどうするんだよ」 「うぅっ、だって、怖いものは怖いです」 「怖がってちゃダメだ。安全のために準備・確認を怠らないのは冒険者の基本だぞ」  しっかりしろよ、と、言ってからメルゥに麻袋を渡す。  また、背中にそれを担いだ彼女は、はぁ、とため息をこぼす。  彼女のナーバスに付き合っている暇はない。  俺が歩き出すと、まってくださいよぉという声と共に、とぼとぼとした足取りでメルゥは歩き始めたのだった。 「これから、こんなことをずっと続けていくんですね」 「まぁな」 「旦那さま。こんなことを言うのは差し出がましい気もしますが、もっとまともな仕事をされた方がよろしいんではないですか?」 「別になぁ。俺は独り身だし、死んで困るような身内もいないからなぁ」 「メルゥが居ますよ」  そういやそうね。  しかし、将来的にどうなるかは分からない。  この娘が冒険者として独立したら――俺が提示した命の代価を支払った、早々に家を出て行くかもしれない。いや、それよりもっと前に、俺は冒険でへまをしてしまい、あっけなく命を落とすことだって考えられる。  将来のことなんて、考えても仕方ない。  そう俺は思うのだがねぇ。 「私は、旦那さまと、ずっと健康で、お婆ちゃんになるまで一緒に居たいです」 「人間と違ってコボルトは、お婆ちゃんになったら抜け毛の掃除とか大変そうだな」 「旦那さまぁ!?」 「冗談だよ冗談」  顔を真っ赤にして食い気味にこちらを睨むメルゥ。  いや、女性に対してそんなこと、言うものではなかったな。失敬失敬。  しかしまぁ、将来ねぇ。 「考えたこともなかったや……」  これが所帯を持つって奴かね。  なんでだろうが、むず痒くはああるが、どうして、なかなか悪い気はしないな。
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