39 / 60

第39話 クエストの種別を説明するならこんな風に

 麻袋にミドリバチの巣を入れると、それを背中に担いで俺の嫁は戻って来た。  彼女の体の半分くらいはあるだろうか。かなりの重さがあるだろうそれを、運ぶのはそれはそれは大変だっただろう。  無言で俺の前に立つメルゥの背中からは、恨み節、なんというか負のオーラが漂っていた。  いや、そんな気迫をこちらに向けられても俺も困る。 「お前の受けたクエストだろうがよ」 「……けど、もうちょっとお手伝いしてくれてもいいじゃないですか!!」  してやったんだがな。  こいつの仕事を邪魔しようとする、闖入者の駆除なんかを。  と、言ってみたところで仕方がないか。  そうしたところで、この暫定嫁に不要な心配をかけてしまうだけである。 「ミドリバチくらいでギャーギャー騒ぐな。こんなもん、駆除クエストの中じゃ中の下の難易度だ。いちいち騒いでたら、冒険者なんてやってられない」 「うぅっ、冒険者って、もっとこう格好いい仕事だと思ってました。こんな血なまぐさいお仕事だったなんて」 「まだまだこんなん血なまぐさいのうちにも入らねえよ」  すぽり、と、防護服を脱ぐメルゥ。  汗だくになった彼女の体が見えた。  冷や汗だろうか。  それとも、純粋に厚い防護服に包まれたことによる疲れからだろうか。  なんにしても、黄金色の彼女の毛並みは、見事にずぶぬれになっていた。  インナーからしてぐっしょりの状況である。そうして、防護服を脱ぎ切ると、ふぅと彼女はため息を吐き出して、その場に尻をついたのだった。 「けど、依頼はなんとかこなせました」 「だな。偉かったぞ、メルゥ」 「……えへへ」 「キノコも採れるし、レッドチリも採れる、蜂蜜も手に入れられるとなったら、もう一人前だな。よし、合格だ。今日から独り立ち」 「ままま、待ってください、いきなりすぎじゃないですか!?」 「冗談だよ冗談。そんなすぐに放り出す訳ないだろう。まだまだ、冒険者としてやらなくちゃならないことは山盛りだよ」  安心したような、不安なような、そんな複雑な表情をするメルゥ。  とりあえず、ほへぇと息を吐き出して、彼女はその場に手をついた。  そいうえばと、彼女が何かに気がついたような顔をして、その鼻先を上げた。 「このクエストを受けるときに、駆除クエストとか言ってましたが、それってどういう意味ですか?」 「ん、あぁ、そういや、ちゃんと説明していなかったな」 「クエストには、採取・駆除・討伐とあるとは聞きましたけど……討伐と駆除って何が違うんでしょう?」 「そこの辺りの判別は難しいんだが、まぁ、目的の違いだな。駆除ってのは、その名のとおり、そいつらが居ることに問題がある状況だ。駆除しないと、森の生態系が狂ったり、不利益を被る可能性のあるクエストだ」  たとえばミドリバチ。  こいつらは、実は繁殖能力が異様に高く、放っておくとあっという間に、森が巣で覆いつくされてしまう。もちろん、それを脅かすクマなども棲んでいるのだが、それを差し引いても、定期的に巣を駆除する必要があるのだ。  そういう意味で、あえて討伐ではなく駆除クエストとして、街からの助成金を受けて冒険者ギルドにクエスト登録がされている。他、駆除クエストに分類されるものはすべてこんな風に、生態系に大きな影響を与え、バランスを崩しうるモンスターに対して発布されている。 「……討伐は?」 「生態系的には問題ないが、そのモンスターを狩ることにより得られる素材自体に価値がある。または、もう一つ駆除よりもランクが上のクエストだな」 「ランクが上?」 「例えばドラゴンなんかだな。その存在が生態系を崩すことは間違いないが、今回みたいに簡単に駆除できるものではない。倒すためには、冒険者としての確かな技量が必要とされる……そういうのは、駆除ではなく討伐に分類される」 「うにゅ、うにゅにゅにゅ、難しいです」  簡単に言ってしまえば、冒険者との技量が必要なく、淡々と狩れるものが駆除クエスト。そこそこの熟練者、あるいはパーティで、相応の用意が必要となってくるのが討伐クエストと呼ばれるわけだ。  この辺りの線引きは、冒険者ギルドでも難しいのだが、まぁ、あんまり気にするようなことでもない。 「旦那さまは、討伐クエストをメインでやられてらっしゃるんですよね?」 「まぁな」 「メルゥも、一日も早く、討伐クエストができるように頑張ります!!」  そう意気込む暫定嫁。  ただ、クエストで疲れているとはいえ、俺がひっそりとクマを狩ったことに気づかない様子では、まだまだ、その日が来るのは遠いだろうなぁ。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!