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第38話 火を焚くのならこんな風に

 とりあえず、剣と斧から血を払い身なりを整えた俺は、ブラウンベアはそのままにして、そのまま再び元居た場所へと戻った。  この森のすべてを知り尽くしている訳ではないが、どこぞの犬コロと違って、方向感覚には時間がある。メルゥが脱いだレザーメイルの前へと戻ってきた俺は、さっそく木の上に登り、その服の持ち主の様子を確認する。  メルゥという部外者の登場に、殺気立って飛び回るミドリバチたち。  警戒音を鳴らして飛び回っている姿が遠目に見ていても手に取るようにわかる。  そうそう、あいつらはそうやって、まずは威嚇から始めるのだ。  その威嚇にびびって、近づくのをやめてしまうと、一匹目が襲い掛かってきて、なし崩しにまとわりつかれることになる。  なので、どれだけ機先を制して巣に近づけるかが重要になってくる。 「いいぞメルゥ!! そのまま一気に行け!!」  あきらかに戸惑っている感じの暫定嫁の背中にそんな言葉を浴びせる。  はいと言ったか、ワンと吠えたか、なんにせよ、メルゥはその言葉に忠実に従った。流石は頑固で意思の強い、やると決めたらやるコボルト族である。  彼女が一歩を踏み出せば、ミドリバチが一斉にとびかかった。  防護服に身を包んでいる彼女の体が、緑色に染まっていく。  しかし――流石はギルド謹製、多くの冒険者たちの命を救ってきた防護服である、メルゥの歩みは止まらない。  そのまま、巣のちょうど真下へとたどり着いた彼女。  延焼する恐れがないことを確認して、土の上に薪をばらまき、練り香をその上へと置くと、防護服のポケットの中に入っていた火打石を取り出した。  がちりがりちとその上でたたく。  獣脂と蜜蝋で作り上げられた殺虫作用のある練り香は、実は、それ単品でもそこそこに燃えるようにできている。すぐさま、火打石の火を拾ったそれは、オレンジ色の炎を上げて勢いよく燃え上がったのだった。  驚いて、メルゥがその場にしりもちをついた。  なにやってんだと声をかけると、慌てて彼女はその場に立ち上がる。  だが――どうやらクエストは成功のようだ。  はらりはらりとメルゥの防護服にまとわりついてたミドリバチたちが、練り香の殺虫剤成分にやられたのか、彼女のからから次々に落ちていく。  また、頭上の蜂の巣の中に控えていた蜂たちも、煙にやられてその場に落ちてきた。  あっという間に、その場に居たミドリバチがすべて地面に落下した。  緑一面に染まったその地面を、ぽかんとした感じに眺めているメルゥ。 「よぉし、上出来だ!! あとは火が消えるのを待って、それから巣を木から切り離して終わりだ!!」  そんな俺の指示に、くるりと、こっちを振り返るメルゥ。  どこか心細そうなに感じである。  網目上になっている防護服から彼女の視線は見えないが、本当にそれをするのか、とでも言いたげだ。  前にも言ったが、俺の指導方針はスパルタだ。  このクエストを受けたのは彼女だ。受けたからには、彼女に最初から最後までやらせる。それは変わらない。  やれ、と、俺は木の上からメルゥに視線を送る。  防護服の中で、うぅと涙目になっているのがわかるようなそぶりで、彼女は、火が消えるのを待ち始めたのだった。 「あぁ、あと、たまに死にきってないないミドリバチがいるからな。火が消えるまでの間に、防護服で踏みつぶしておけ」  えぇ、と、今度は明らかに非難の視線がこちらに向いた。  そのために、防護服のブーツには鉄板が仕込まれているのだ。  当たり前だろう。いや、もちろん、ミドリバチを塩漬けにするのなら、そのまま生け捕りにするのが正解なのだが、今回は初回の駆除クエストだ、贅沢は言うまい。  汚いからと放置して、後で痛い目を見るか。  それとも、汚い思いをして、安心して仕事をするか。  冒険者ってのは、必然、後者を選択しなくちゃならない、そういう職業なのだ。  なにせ命を対価に仕事をしている訳だからな。
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