35 / 60

第35話 巣に近づくならこんな風に

 別に冒険者ギルドから、そのまま駆除服を着て現場まで行く必要はない。  なんと言ってもミドリバチの巣があるのは森の中である。  収集クエストと違って、詳細な位置は分かっていないが、出没位置についてはあらかじめクエスト開始の段階で知らされている。  まずはそこまで普通の装備で移動すると、俺たちはミドリバチの目撃情報のある樫の木の辺りで歩を止めた。  さて。 「メルゥ、ここで着替えろ」 「えっ!! ここでですか!?」 「そうだよ。お前、そろそろミドリバチが出てくるかもしれない。一匹に刺されたくらいじゃどうにもならないが、あいつらは刺すと同時に仲間を呼ぶからな。気がついたらぼこぼこなんてよくある話だ」  防御対策は早めにするに限る。  俺は背負っていた背嚢から、防護服を取り出すとメルゥに渡した。  するとメルゥ、なぜか顔を赤らめて、下を向いてもじもじと膝をくねらせる。  何をしているのだろう。 「あの、旦那さま。どうしても、ここじゃないとダメですか?」 「あん?」 「できれば、あちらの茂みの方で」 「ダメだ。俺の眼の届くところで着替えろ。眼を離した隙に、モンスターに襲われるかもしれない。そうなったとき、お前は自分で自分のことを守れるのか?」 「うぅっ、でも……」  でもじゃない。  俺は何故だか妙なことをいうメルゥに、少しきつめに迫ってみた。  普通、こういう場合、師匠の剣幕に飲まれてしょんぼりするのが相場だが、そこはメルゥ。  どうしてか、彼女は顔を真っ赤にして、分かりましたと小さく呟いた。  あれ、俺、何か変なことしたっけ。  してないよね。 「旦那さまが、そうおっしゃるなら、メルゥはそれに従います」 「あぁうん、そうしてくれる。その方が安全だから」 「けど、せめて、背中は向けていてくれないでしょうか」 「うん? いやいや、だから、お前が着替えてる途中に、モンスターが現れたら危ないから、俺の見てる前で着替えるんじゃないか」 「……分かりました」  そう言って、おもむろにレザーメイルに手をかけたメルゥ。  そうそう最初からそうしていればいいんだよ。  腕宛に、脛あてと取り外し、腰に付けていた、ルーンの礫を結わえてあるベルトも外す。  そして――何故か彼女は、その下に来ていた薄茶色の襦袢に手をかけ始めた。  待った、待った待った。 「ちょっと待てメルゥ。そいつは脱がなくていい」 「え、けど……これに着替えるんですよね?」 「うん、そうだけれど、それはインナーだからな」  ようやく、なんでこのワンコ嫁が、顔を赤らめているのか俺には分かった。  違うそうじゃない。そういうことを求めていた訳ではないんだ。  これじゃお前、俺がなんだか変態みたいじゃないか。 「ちゃんとそのインナーは来たまま、防護服に着替えてくれればいいから」 「そ、そうなんですね。私はてっきり、その、全部ぬ」 「言わなくていい。言わなくていいからメルゥ。俺も言葉が足りなかったなぁと、今、ちょっと反省しているところだから」  女の子相手にここで着替えろなんて、どう考えたって酷い言葉じゃないか。  あぁ、いまさらだけれども、ちょっとそんなことを言ってしまった、自分の浅はかさに後悔してしまった。いや、違うな、自分のコミュ障ぶりに後悔していた。  もっと、言葉は選ぼう。  せめて暫定嫁相手くらいには、誤解のないように。 「よかった。旦那さまが、そんな、特殊な性癖をお持ちじゃなくって」 「特殊……お持ちじゃないですから、安心してください」
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!