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第31話 魔法道具を買うならこんな風に

「つっても、この魔法量じゃ二・三回火炎魔法を使ったら打ち止めだ。マジシャンとしてやってくのはちょっと難しいだろうな」 「そうなんですか?」 「魔力量はトレーニングで高めることもできる。だが、本格的にマジシャンを目指すよりは、スカウトとのいいとこ取りでやるべきだろう」  そう言って、店主がカウンターの中から取り出したのは、先ほどのルーンの碑石と同じサイズのいくつかの礫。  しかしながら、ルーンの碑石と違って、それはマッドな色合いをしたものだった。  どういうものなのか、あまり、俺も見たことがない。 「ルーンの碑石の発光力を、そのまま推進エネルギーに変えたものだ。こっちはルーンの礫と呼ばれている」 「ルーンの礫?」 「要は投擲武器だな。命中精度に魔力を振るか、打撃力に魔力を振るかは使い手次第というモノだ。少ない魔力量で、そこそこに使いこなせるので、お嬢ちゃんの武器にはこれがおすすめだろう」 「……むぅ」  なぜか気の乗らない顔をするメルゥ。  いったい何が不満なのだろうかと、俺と親父の二人が首を傾げた。  投擲武器のことを侮っているのだろうか。  だとしたら、それは大きな間違いというものだろう。  この世で投擲ほど、身近で重要な攻撃方法はない。  誰しも子供の頃に、道端に転がっている石を拾って投げた経験はあるだろう。  それくらいに投石という行為は、俺たちの生活の中になじみがあるものだ。  そして同時に、どこにでも、石というのは転がっている。  いざ、メインウエポンが破壊され、サブウエポンが役に立たなくなったと――近場に転がっている石を拾い上げて、敵に投げつけるなどというのは、よくある話。  俺自身にしては幸いにそういう経験はなかったけれど、多くの冒険者がそうして命を拾ったとう話を耳にしている。  かくいう師匠も、かつてオーガ相手に斧を壊され、泣く泣く手近にあった岩を振り回して、その頭を潰したとかぼやいていたっけか。  いや最後の話は、投擲は関係ないな。 「メルゥ、親父さんの見立ては間違いない。それにしておけ」 「……でも」 「でもじゃない。投擲武器のダメージを心配しているのかもしれないが、さっきも言ったように、命中精度にも打撃力にも魔力を変換できる武器なんだ。そんな便利な」  と、そこで、俺はメルゥが心配していることに気がついた。  店主の顔がにやりにやりとひきつっている。  そうだ、特注武器でこそないが、こんな便利な道具が高くないわけがない。  ケチ――という言い方が適切かどうかは分からないが、倹約家なメルゥさんが、そこを気にしない訳がない。  案の定、メルゥは親父さんに心配そうな視線を向けた。 「あの、それ、お値段はどれくらいなんでしょうか……」 「五個セットで金貨一枚くらいだよ。まぁ、特注品じゃないからね」  金貨一枚、の、言葉にうぅんと、メルゥが唸った。  防具は、一般的かつ大量供給のある装備だったので、女性向けのものということを差し引いても、金貨二枚でそろえることができた。  しかし、武器一つに金貨一枚か。  一般的な槍と斧が銀貨三枚。剣で銀貨五枚の世界で、金貨一枚の武器は十分高い。  そして、それがどこにでも転がっていそうな石礫なのだ。それは戸惑うだろう。 「一個だけ、個別に売ってもらうとかは、できませんか?」 「できなくはないが、一発でモンスターを仕留められるような威力はでないぞ」 「俺も親父さんと同じ意見だ。この手の武器はちゃんと数はそろえたほうがいい」 「でも……金貨一枚は」 「だったら、俺が出してやるよ」  えっ、と、メルゥが驚いて顔をこっちに向けた。  ちょうどこの不肖の弟子から、金貨を一枚巻き上げたばかりだ。  そしてその使い道に関して、考えていたところである。 「記念品に武器ってのは、なんだか味気ない感じもするが……これから長らく使うものだしな。ちょうどいいんじゃないか」 「旦那さま……!!」 「優しいところがあるじゃねえか、ギュスター!! ははっ、すっかり嫁に骨に抜きにされてやがるな!!」  うっさい。  真っ赤な顔を暫定嫁からも、店主からも隠しながら、俺は、カウンターに金貨を一枚置いたのだった。 「大切にしますね旦那さま」 「当たり前だ。道具も命も大事にしろ。ったく、ケチで命を落としてたら世話ねえぜ」
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