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第30話 武器を選ぶならこんな風に

 結局、メルゥの装備は女性向けのレザーメイル――胸のあたりが少しゆったりとしたもの――を購入することになった。  それと、レザー製の脛あて・腕あて。そして、ピンク色をした鉄網入りの帽子。  防具はまぁ、そのくらいで問題ないだろうかとういう話で落ち着いた。  さて、問題は武器だ。 「メルゥに合う武器って、なんだと思う親父さん」 「うーん、そうだなぁ。嬢ちゃんみたいに小柄なのだと、必然使える武器は狭まってくるというか、力の居る武器は対象から外れるんだよなぁ」  そう言った店主の視線が向かったのは壁。  そこにかけてある斧やら両手剣やらのヘビー系の装備だった。  まぁ、言われなくても、メルゥがこんなのを自在に操れるとは思えない。 「加えて、コボルトはあんまり手先が器用じゃないからな」 「え? そうなの?」 「あぁ、誤解のある言い方だったな。細かい作業なんかは得意なんだが――ほれ、剣だとか槍だとかは、人間が扱うようにできているだろう」  店主曰く、重心の関係から人間に合わせて造られた武器などの扱いが、コボルトはあまり上手にできないということらしい。  長らく冒険者をやってきて、それは初めて知る意外な事実であった。  偉そうに、自分に合った装備がどうこうと、講釈を垂れておいて――とんだ赤っ恥である。  まぁ、メルゥはそんな俺の様子に気がついていないようだったが。 「なんで、コボルトは自分の重心にあった、専用武器を特注することが多いな。どうするギュスター。お前さん()のお財布事情によるところだが」 「……いや、流石にそこまでは持ち合わせがないよ」  特注武器の値段の相場は普通の装備と桁が違う。  なにせ、職人がオーダーメイドで、その人にあった武器を造る訳だ。  俺の愛用している大剣もその特注武器だが、金貨二百八枚かけて造ってもらった。それをペイできるだけの対価があると思ったからこそ買った訳だが――はたして今の実力のメルゥに、その投資をペイするだけの能力があるとは、とてもじゃないが思えない。 「既存品で、そこそこコボルトが扱いやすい武器ってのはないのか?」 「うぅん……。近接武器ならナイフ、遠距離ならクロスボウかな。しかし、どっちもお嬢ちゃんには荷の重い武器だと思うぜ」  確かに。  ナイフは近接格闘のセンスが要求される。  クロスボウは撃つのは楽だが巻き取りを行うだけの力が必要になる。  そしてどちらも、言っちゃなんだが血なまぐさい武器である。  できることなら暫定嫁に、触らせたくないと思ってしまうのは、俺もとうとうヤキが回ってきてしまったということだろうか。 「ナイフなら、私、お料理で使ってますから、大丈夫です」 「大丈夫じゃない。近接格闘になるんだぞ」 「旦那さまは心配性なんですよ」 「じゃぁ、お前は熊相手に、ナイフ一本で戦って勝てる自信があるのか?」 「……熊さんはちょっと」  さっと、視線を逸らしたメルゥ。  この調子じゃ、熊はおろか、猪だって相手にするのは難しいだろうな。  うぅむ、どうしたものか。 「こういうとき、魔法が使えるならいいんだがなぁ」 「そうさなぁ。非力さを補うのは、なんといっても器用さと魔法だよなぁ」 「ただ、コボルトで魔法を使うなんてのは、俺も今まで聞いたことない」 「どうなんだメルゥ?」 「旦那さまのために料理に愛情を込める魔法は使えます」  そういう恥ずかしいことを、臆面もなく言えるお前が俺は本当に怖いよ。  ふんすふんすと鼻を鳴らして、食い気味に言う彼女に、ふははと店主が笑った。  笑うところかねぇ、これ。  当事者としては勘弁して欲しいんだけれど。 「その調子じゃ、案外、本当に使えたりしてな――嬢ちゃん、ちょっとこれを持ってみな?」  よいしょと店主がカウンターの中からなにやら引っ張り出すと、それを投げてメルゥに寄こした。それは、水色をした小さな石ころ。  マジックアイテムだろうか。  にしては、どう使うんだ、という感じのモノである。  キャッチするや、それを手のひらの中で転がすコボルト娘。  すると――ぽわりと、それが淡い光を発した。  ほう。  これはもしかして。 「親父さん?」 「たまげた、こりゃびっくりだ。お嬢ちゃん、魔法の素質があるようだ」 「っていうか、その石は何なの?」 「ルーンの碑石と言ってな。まぁ、ありていに言ってしまえば、魔力に感応して発光するだけのものだ。光の加減でその人物の持っている魔力量が分かるんだが――嬢ちゃんは、普通の魔法使いよりちょっと少ないが、魔力を持ってるみたいだ」  つまり、魔法が使える、ということだ。  親父さんの言葉に、そうなんですか、と、ぴょんこぴょんこと、その場でメルゥが飛び跳ねて喜んだ。魔法の素質があるなんて、これは本当の本当に想定外だ。  普通の魔法使いよりちょっと少ない程度というのがネックではある。  だが、彼女の嗅覚のセンスと合わせれば、意外と、まともに冒険者をやれるかもしれない。  しかしそうすると、兄だったバッドも、魔法を使うことができたのだろうか。  そんな素振りは少しも感じたことはなかったけれどもなぁ。 「旦那さま、凄いです!! 私、こんな才能があったんですね!!」 「なぁ。人は見かけによらぬものってのはこのことだな」 「まぁ、コボルトは混血がしやすい種族でもあるからな。もしかすると、アンタの祖先に魔法の使い手が居るのかもしれん」  混血がしやすいねぇ。  そんな単純な理由なら、もっと魔法を使えるコボルトが居ていいような気もするが。  そんな俺の疑念はさておき。  旦那さまもどうですか、と、ルーンの碑石を俺へと渡すメルゥ。  当然ながら、今の今までアタッカーの道を一直線で来た俺である。そんな俺が、実は大魔法使いの素質を秘めていたら――なんて期待を少しは持ってみたが。 「……光りませんね」 「ダメだなこりゃ。素質ゼロだ」 「そんなあらたまって言われると、傷つくんだけれど」  どうやらそんなことはないらしかった。  天は人に二物を与えず。  剣で食っていけているのだから、俺には魔法なんて無用の長物だよ。  ちっとも悔しくなんかない。悔しくなんかないのだ。
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