29 / 60

第29話 適した装備ならこんな風に

「いやぁ、お前がどんな嫁をもらうのかと、実は密かに気を揉んでいたんだけれど、そうかそうか、コボルトの嫁を貰ったか」 「……だから、一時的に世話を見てやっているだけで、べつに籍を入れた訳じゃ」 「すみません、言葉が足りていませんでした。内縁の妻という奴です」 「内縁の!! 妻!!」  また店主が驚愕の表情を俺に向ける。  よもやそんなたいそうなものを、俺が作れるとは思っていなかったよ。  店主の顔はそう告げていた。  俺もね、そんなものが自分にできるなんて、思いもしなかったよ。  そして俺たちの関係を、そんな言葉でメルゥが表現するなんて――それこそ言っちゃなんだが思ってもみなかったよ。  メルゥさん、お願いだからそこはもうちょっとソフトな言い方でお願い。  なんだか俺はいけないことをしているような、そんな気分ですよ。 「心臓に悪い言葉だなぁ。俺のような中年には刺激が強い」 「親父さん、俺もだ」 「……あれ? メルゥなにか変なことを言ったでしょうか?」  無自覚ですか、そうですか。  まぁそうだよね。メルゥちゃんそういう所はピュアピュアだものね。  やんごとない事情で籍を入れられない関係にあるとか、そういう言葉の裏を考えたりとか――きっと純真な彼女はしないんだろうな。  店主の視線がふっと俺に向かう。  疑問符が頭の上に浮かんで見える、そんな視線を彼はしていた。 「こういう娘が好きなのか、ギュスター?」 「そういう風に見えますか親父さん?」 「えぇっ!? 旦那さま、やっぱりメルゥのこと、お嫌いなんですか!?」 「いや、そういうことじゃなくてな――あぁもう、こんなんじゃ話が進まん!!」  非難の視線を向けてくるメルゥに背中を向けると、俺は親父さんに近づいた。  そうして、ありとあらゆるここに至るまでの話をぶった切って、この店へとやって来た本来の目的を彼に切り出したのだった。 「親父さん、こいつに合ってる装備を一式見立ててやってくれないか?」 ◇ ◇ ◇ ◇ 「まぁ、お嬢ちゃんが将来的に、どういう冒険者になりたいかで、装備の質は違ってくる、アタッカーか、アーチャーか、スカウトか、マジシャンか、それともヒーラー。どれに適性があるかを見極めないことには、一概に装備を決めることはできないな」 「どれに適性があるんでしょうか?」 「それが分かれば苦労はしねえよ。そのために、初心者冒険者ってのは、平均的な装備をするもんだ」  だいたい、冒険者が自分の特性を知るのは、一年ほど冒険をこなしてからだ。  かくいう俺も師匠の下で半年くらい修行をして、ようやくアタッカーとして、なんとかやっていけそうだという実感を得た。  それはそれとして、平均的な装備というのは大切だ。 「まぁ、見た目の感じから、筋力値は低そうだし、鎧はレザーメイルで決定だな。コボルトの特性である手足の繊細さを活かすためにも、手足の装備も薄手のモノがいいだろう。ブーツなんかよりも、脛あて・腕あてや、薄い草履なんかにしておくのが無難なように思うな」 「流石は親父さんだ、正確な見たてだ」  コボルトの特性はなんといってもその鋭い感性だ。  それを最大限に引き出すには、ごちゃごちゃとした装備を付けるよりは、手先の感覚などを阻害しないように、そのままにしたほうがいい。  とはいえ、どのようなトラップがあるかは分からない。  最低限の備えはしておくに越したことはない。  脛あて、腕あてなどの装備を充実させるという親父さんの案は、実に的を得ていた。 「頭も妙に何かを被るよりは――と言いたいところだけれど、頭上からモンスターに襲われることもままある。フードあるいは鉄糸を編み込んだ帽子くらいは装備しておいいた方がいいかもしれないな」 「兜なら、兄の残したものが」 「いいから、親父さんの言う通り帽子にしておけ。というか、あんな重たいものを被っているからダメなんだよ」  体の些細な違和感というのが、冒険者にとっては命取りだ。  コボルトほどではないが、冒険者というのは自分の感覚を阻害しない、自分の体に負荷をかけない、そういうことを常に意識しなくてはいけない。  今日、一緒にメルゥと冒険していて感じたことだ。  確かに彼女は方向音痴――場慣れしていないという側面が大きいように感じる――ではあるが、俺がいた最深部まで迷い込むような、そこまでひどい感覚の娘には感じなかった。  おそらく迷い込んだのは、昨日被っていた鉄兜が原因だ。  あれによって彼女の体は思わぬ負荷を受けて、それで身体感覚が狂ってしまっていたのだ。 「装備ってのは自分に合ったものをつけるのが一番なんだよ」 「――うぅっ、でも、もったいないです」 「自分の命と金貨数枚、どっちが大事なんだ」  もちろん、それは前者だろう。  悪いことは言わないから、ちゃんとした装備を揃えておけ。  俺がメルゥに念を押すと、がははと店主がなぜか笑った。 「安心しろよお嬢ちゃん。お嬢ちゃん向けの装備はそんなに高くはならないから」 「本当ですか!!」 「あぁ、なにせ――それだけ胸がなければ、男性向けのレザーメイルでも付けられるからな!! 小型の人間用のレザーメイルなら、供給量が多くて安価だ!!」  その言葉にメルゥの表情が固まった。  親父さん。  それはお前、言っちゃいかんぜ。  メルゥさんもお年頃のお嬢さんなんだから。 「――女性向けのレザーメイルがいいです!!」  さっきまでのもったいない精神はどこへやら。  メルゥは店に響き渡るくらいの大声でそう叫んでみせたのだった。  そのあまりの剣幕に、親父さんがまた心臓に悪いという感じの顔をしていた。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!