28 / 60

第28話 道具屋に行くならこんな風に

 レッドチリがたっぷりと入った煮込み料理を何とか完食した俺。  腫れあがった唇を、何度か水で洗って冷まし、ようやく落ち着くと、俺はメルゥを伴って我が家を後にした。 「装備を整えるって言いましたけど、兄の残した装備が家にはありますよ?」 「コボルトでも男と女じゃ動きやすい・使いやすい装備は違ってくる」 「もったいないですよ」 「ダメだ。というかお前、バッドの装備でまともに使うことができたの、レザーメイルくらいだっただろう?」 「それは……」 「他の装備は重くて装備できなかった――違うか?」  背中から返ってくる沈黙が、俺の問いかけに対する答えであった。  まぁ、それはそうだろう。  バッドはスカウト――後衛支援要員――だったけれども、それに見合わないくらいに、結構体格についても出来上がっていた。  前衛でも十分に戦えるだけの筋力を持っていたのだ。  スカウトの能力をフルに使うためには、重装備は避けるべきだが――そこそこの筋力があるなら、その限りではない。おそらく、フルプレートではないにしてもい、レザーとプレートを折衷したような装備をメインで使っていたはずだ。  というか、そういう装備をしていたのを、俺は何度か見たことがある。  とまぁ、そんなことを考えると、メルゥが着ていたレザーメイルは、彼の手持ちのモノの中でも限られたもの。よっぽどスカウトとしての能力を阻害されてはいけないような状況下で利用していたものになる。  特注品という奴だ。  そんなバッドの体に合わせたものが、幾ら兄妹だからといって彼女の体に合うはずがない。  それでなくても、レザーメイル、スレッジハンマー、兜――すべて、彼女の小柄な体で扱うにはオーバースペックな一品のように俺には見えた。 「トレーニングしても筋力値はそう簡単に上がるもんじゃない。装備に体を合わせるよりも、お前の体格にあった装備を買うほうが合理的だ」  そんなものでしょうか、と、後ろで少し寂しげにメルゥは言った。  たぶん死んだ兄貴――バッドの装備に少なからず愛着があるのだろう。  だが、そんなもののために、自分の命をドブに捨てるのは間違っている。 「せっかく歩きマンドラゴラを捕まえたんだ。こりゃ、ちゃんとした装備を整えろっていう、天からの啓示だろうよ」 「啓示ですか」 「いきなりハント系のクエストをやらすつもりはないが、森を歩いていれば、モンスターと会敵することは十分に考えられる。どのみち、必要になるもんだ、だったらさっさと、金のある内に買っておこう」  彼女の気持ちなど切り捨てるように、俺は無常にそう言い切った。  メルゥから返事はなかった。  ここは、王都や商業都市ほどではないが、冒険者ギルドがある程度には、そこそこにぎわっている規模の街である。昼間に外を歩けばすれ違う人は多い。  冒険者とコボルト、あんまり見慣れない組み合わせに、俺達に向けられる奇異の視線は多かった。そんな視線に晒されることに慣れていないだろうメルゥを、それとなく背中に隠しながら、俺はこの街にある冒険者ご用達の道具屋へと向かった。  歩くこと三十分ほど。  たどり着いたのは、レンガ造りの小ぢんまりとした店だった。  まぁ、言ったように、ここは大きな街じゃない。  冒険者ギルドこそあれ、ここで活動している冒険者はそう多くない。  冒険者の数がそう多くないのに、武器屋が儲かるかって話だ。  そんなのは考えるまでもないだろう。  しかしまぁ、それでも――道楽店主というのはどこの世界にもいるもんだ。 「へいらっしゃい!! おぉっ、ギュスターじゃねえか!! なんだい、また特注のえぐい武器でも注文しに来たのかい、お前もほんと好きだねぇ!!」 「相変わらず元気だな、親父さんは」  閑古鳥が鳴いている店の中、俺の顔を見るや嬉々としてカウンターから立ち上がった親父は、この街ではちょっと知られた道具屋の親父だった。 「おん? 珍しいなぁ、客が一度に二人も来るなんて。今日は、久しぶりに酒が飲みに行けるかね」 「あぁ、この後ろのは俺の連れだ」 「なにぃっ!?」  想定通りの反応に俺は頭を掻いた。 「はじめまして。ギュスターさんの妻で、一緒にパーティを組んで冒険者として指南を受けているメルゥです」 「なんだってぇっ!?」  想像通りの店主の顔に俺は顔を覆った。  というか、メルゥさん。  暫定、ちゃんと暫定をつけてね。  まだ俺たち籍を入れた訳じゃないんだから。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!