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第27話 装備の話をするならこんな風に

 あんまり意地悪し過ぎたせいだろうか。  俺の前に差し出された、朝絞めした鶏肉の煮込み料理には、これまた朝摘みした大量のレッドチリが放り込まれていた。  スプーンで掬うとうっすらと、スープが赤く染まっているように見える。  乾燥させたレッドチリなんかは、砕いたり、輪切りにしたりして、スープのアクセントとして入れたりするが、これは生である。  なので、余計にそのエキスが染み出ているのだろう。  絶対に辛い、そう確信した。 「メルゥさん、これ」 「旦那さまは辛い料理がお好きと聞きましたので」 「もしかして怒ってる?」 「……さぁ?」  すん、と、鼻を鳴らしてそっぽを向く垂れ耳コボルト。  それからしばらくして、ずずりと、鼻水をすする音が聞こえてきた。  まぁ、こんな激辛料理を作ろうものなら、普通に考えて目や鼻はやられるだろう。その辺りが犬と同じく敏感な、コボルトならば尚のことだ。  彼女なりに俺のことを思って造ってくれた。  とりあえずはそう思うことにした。 「……辛っ!!」 「私のは、レッドチリ入れる前に取り分けておいたので、普通に美味しいです。うまうま」 「……メルゥ。食べ物に対する敬意ってのは大切だと俺は思うよ?」 「妻への敬意も大切だと思うのです……。すみません、本当に食べられないくらい辛かったですか?」  強がってみせてはみたが、実際、やりすぎたかなと心配になったらしい。  コボルト妻(暫定)は、こっちに心配そうな視線を向けてきた。  まぁ、食べられないほどの辛さではない。  無理をすれば。 「今度作るときは、レッドチリの量は半分くらいでいいや」 「気をつけますね旦那さま。すみません」 「しかし、金貨一枚でそこまで怒るとは、俺もちょっと驚きだよ」  メルゥのことだ。  文句くらいは言うだろうが、意趣返しに何かをしてくるとは思っていなかった。  唯々諾々と、夫の話を聞くだけの妻ではないが、それでも、相手を立てるところが彼女にはある。それが、こうして実際に攻撃――ならぬ口撃をしてくるとは。  なにがそんなに気に入らなかったのだろうか。  スプーンを煮込み料理の入った皿の中へと静めると、彼女の方を見る。  垂れ耳をしゅんと垂れ下げさせると、メルゥは、だって、と呟いた。 「さっきも言いましたけど、せっかく受付嬢さんが、割り切れないように、って、金貨の数を奇数にしてくれたんですよ?」 「そうだな。けど、あれは受付嬢の悪ふざけで」 「でもでもでも、それの処遇をあっさりと決めるなんてあんまりだと思いませんか?」 「あんまりとは?」 「残った最後の一枚は――どちらのものでもない、共同の記念品を買うとか、そういうのでもよかったじゃないですか」  あぁ、うぅん、なるほど。  怒った理由が意外と乙女チックで、俺は正直、聞いた自分が恥ずかしい気分になってしまったよ。そうね、記念品を買うとかのがよかったかもしれないね。  せっかくこうして夫婦として生活しだした訳だし。  それを冒険者パーティみたいに、さっさと理由をつけて配分したことに、このワンコ娘は怒っているという訳か。  うぅむ、どう言ったらいいのだろうか。  コミュ障の俺には、彼女の純真さが眩し過ぎて、ちょっと直視できなかった。 「なんで目を逸らすんですか、旦那さま」 「いや、ごめん、レッドチリが目に染みてさ」 「だだ、だ、大丈夫ですか!?」 「いいんだ大丈夫だ」  ごめんよメルゥ。  お前のことを、金にがめついケチな嫁とか、一瞬だけでも思ってしまった俺を許してくれ。暫定夫だけれど、暫定嫁を信じてやれなかった、コミュ障な俺を許しておくれ。  情けない気分で鶏肉の煮込みをつつく。  レッドチリがふんだんに入れてはあるが、はちみつも一緒に入れてくれていたのだろうか、それは辛さと同時に妙な甘みもある独特の味付けのものだった。 「まぁ、けど、指導料貰うのは、今後のことを考えると既定路線だし」 「そうですよねぇ。私も、旦那さま以外の方に、教えて貰いたくないですし」 「――うぅん、じゃぁ、この記念の金貨は、せめて形に残るものに使うとするか」  どういう意味ですか、と、メルゥが首をかしげる。  その傾げた方向、ガラス張りの窓の向こうに見える空はまだ明るい。  夫婦連れだって、出かけるには申し分ない時間である。  そして、これから本格的にダンジョンに潜るなら、しっかりとそれは買っておかなければいけないことであった。 「メルゥ、装備を整えに行くぞ」 「……装備、ですか?」  コボルト娘をコーディネイトだ。  任せろ、コミュ障でも、冒険に適した服を選ぶくらいのことはできる。  うん、たぶんきっとできると思うよ、たぶんね……。
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