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第26話 指導料をいただくならこんな風に

 さて、あっけないくらいにあっけなく、収集クエストは幕を閉じた。  そして、俺達は寄り道もせずに自分たちの家へと戻って来た。  それでもまだまだ昼前である。  家に帰りつくや、さっそくメルゥが昼食の準備をしだす。  その横で、俺は思いがけず手に入った報酬を前に、今後のことを考えていた。 「さて、次はどうするかだな。いきなりのクエストでこれだけの報酬を得られたのは、天の恵みが、はたまた運命か」 「旦那さま。何をそんなに悩んでおいでなんですか?」 「うん? まぁ、お前の指導役としてだな、どうするのがいいのかなって考えてるんだよ」 「流石です旦那さま。家に居ても、心は常に戦場とは」 「いや、家に居る時くらい休ませて――というか、なにせ俺も弟子は初めてだからな」 「旦那さま。メルゥは弟子ではありませんよ!!」  ふっと怒声が部屋に響く。  そこはどうやら譲れない一線だったらしい。  お玉を振りかぶってこちらを見ている垂れ耳コボルト。  悪かったよ、と、謝って俺はそんな彼女に頭を下げた。  よろしい、と、なんだか満足した感じて頷くと、振り返ってまた昼食を造り始めるメルゥ。  冒険中はともかくとして、家に帰ると内弁慶だなこの娘。  案外旦那を尻に敷くタイプなのかもしれない。  人は見かけによらぬもの。  いや、犬は見かけによらむのだなぁ。  ふんふんふんと鼻歌を刻んで、それに合わせて尻尾が揺れていた。 「今回のクエストも、旦那さまの指導のおかげでばっちりだったのです。今後も、旦那さまの言うとおりにしていれば、間違いありませんよ」 「あらまぁ、心強いこと言ってくれるお嫁ちゃんじゃないのよ」 「私は旦那さまに言われた通り、冒険をこなすだけです」 「――ところでメルゥさんや。今回のクエストの指導料についてなのだけれど」  はい、と、ちょっと驚いた顔をして、垂れ耳コボルトがこっちを向いた。  指導料という言葉に馴染みがない感じだ。  まぁ、そうだろうともさ。  俺も取るなんて、あらかじめ言ってなかったからな。 「今回はマンドラゴラが採れたからちょうど良かった。金貨一枚、指導料としてもらうとして、あとは二人で折半な」 「ちょちょちょ、ちょっと待ってください、旦那さま!! どういうことですか!?」 「初心者冒険者に、、当然、それについての報酬はいただくのが筋かと俺は思うんだが」 「けど、私たちは夫婦じゃないですか」 「暫定のな」  その辺り、俺もきっちりとさせてもらう。  確かに俺とメルゥは暫定的に夫婦関係にある。  しかしながら、夫だからと言って、妻の仕事を無償で手伝ってやるような、そんな甘ったるい男では俺はないのだ。  取るべきものはきっちりと取る。  本当だったら、歩きマンドラゴラの報酬だって、捕まえた俺が全取りで貰いたいくらいなのだ――が、まぁ、あれは正直に言ってラッキーだ。  それを独り占めなんてするつもりにはちょっとなれなかった。  それになんというか、歩きマンドラゴラを捕まえられた偶然に、俺は、ちょっとした運命を感じていたのだ。  とまぁ、そんな亭主関白をかます俺をよそに。  メルゥはお玉をぎゅっと両手で胸の前で握り締めると、泣き出しそうな顔をしていた。  ちょっとばかり罪悪感が胸を襲うが――現実は厳しいのだ。  同情してやる必要はない。 「うぅっ、ひどいです、旦那さま」 「ひどかないよ、これが冒険者の常識だ」 「せっかく受付嬢さんが気を利かして、割れない数字にしてくれたっていうのに」  あぁ、そっちに怒ってたのね。  ほんと乙女ねこのコボルトは見かけどおりに。 「だいたい、お前の方が多く報酬もらったうえで、俺に金貨が一枚指導料として渡ったんだ。筋道を考えれば、得をしているのはメルゥの方だろ」 「詭弁です!! 言い訳です!! メルゥはそんな甘言には騙されませんよ!!」 「まぁ、だったら俺以外の師匠を探すこったな。まぁ、コボルトを弟子にする冒険者なんて、そんなにいないと思うけれど」  うぅうぅ、と、悔しそうに唸る。  そうしてメルゥは振り返ると、再び鍋をかき回し始めた。  俺にはもったいない、実にできた嫁である。  ちなみに、指導料に金貨一枚なんていうのは、安いほうだ。  だいたいはクエストの報酬は師匠――指導者が総取りすることが多い。  そうして一生下働きをさせられて、あっけなく死ぬ冒険者だって中にはいるのだ。 「暫定嫁だったり、指導料だったり、旦那さまは意外とシビアな人なんですね」 「当たり前だろ。こちとら命を張って仕事をしてるんだ」  それができないならさっさと辞めることだ。  そう言うと、ちょっと薬が効きすぎたか、メルゥは途端に何も喋らなくなった。  まぁ、こっちとしてもその方がありがたい。  暫定嫁とは言っても、危険な目にあわすのは、暫定旦那として心配なのだ。  絶対に口にはしないけれど。
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