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第25話 依頼を報告するならこんな風に

「あら、ギュスターさんにメルゥさん。お早いお帰りですね」  冒険者ギルドの受付嬢。  彼女は竹籠を担いだ俺とメルゥを見つけると、朝の続きかと勘ぐってしまいそうな、ちょっと意地悪な言葉を投げかけてきた。  別に好んでお早く帰ってきた訳ではない。  自分の背丈とほぼ変わらない、こんもりと盛られたイエローマッシュルームを運んだメルゥは、疲労困憊という感じにその場に竹かごを降ろすなり深いため息を吐いた。  まだ依頼は終わっていないぞ、と、彼女に釘を刺す。  しかしながら、俺は受け取り口にそっと、彼女が背負っていたイエローマッシュルームが入った竹かごを運んでやった。  やれやれ。  基礎的な体力の増強も、当面はメルゥの課題だな。 「はい。まずはイエローマッシュルームの採取クエストについては、達成ですね。ギュスターさんの方も、必要量入っているようですし」 「まぁ、このくらいはな」 「喜びますよ。最近、イエローマッシュルームの農家が、クエストをこなしてくれる冒険者がいないってぼやいてましたから」  だったら素直に報酬をあげろと思うのだがどうなんだろうか。  まぁ、彼らもカツカツの状況でやっているのだ、あんまり多くを求めるのは残酷だろう。 「また、そのうち、トウキビの散布もお願いすると思うので、そちらもお願いしますね?」 「あれは収穫と違って割りに合わないから、遠慮したいんだがな」 「旦那さま!! 初心者冒険者は仕事を選ぶな、ですよ!!」  素人なのはお前だけなんだがね、メルゥ。  依頼を達成したことで、すっかりと自信がついたのか、そんなことを口走る生意気な暫定嫁に、俺はでこピンをくらわしてやった。  誰のおかげで、ここまで上手くことが運んだと思っているのだ。  ふふふ、と、ギルド嬢が口元を隠して笑う。 「本当に仲がいいんですね。みていてちょっと和んでしまいましたよ」 「仲良くなんかねえよ。こっちは辟易してるっての」 「そんな、旦那さま!!」 「それより次だ――ほれ、レッドチリと、ついでにこいつも見つけた」  三袋、俺は受け取り口ではなく、あえてカウンターの方にそれを置く。  冒険者ギルドの受け取り口からキノコの籠を中へと引き込んだギルド嬢は、すぐにカウンターの前に戻ってくると、麻袋をあらためた。  一つ、二つ、そして三つ目を見つけて、おっと、その顔が明るくなる。 「歩きマンドラゴラじゃないですか!! ラッキーですね、ギュスターさん!!」 「だろ? 思わぬ収穫だよ」 「すぐにギルドの方で買い取らせていただきます。査定はどうします」 「手続きが面倒だからパスだ。平均買い取り額の金貨十八枚で」 「……これほど立派なマンドラゴラなら、金貨二十五枚くらいにはなりそうですよ」 「俺はその査定を待っている間に、金貨七枚くらい稼ぐ男だぞ」  それもそうでしたね、と、笑って済ますギルド嬢。  丁寧に歩きマンドラゴラを麻袋から、特製の保管籠へと移すと、では、少々お待ちくださいと、奥へと引っ込んだのだった。  そわそわとした素振りで、ギルド嬢の事務手続きを眺めているメルゥ。  彼女にしたら初めての依頼達成、そして、報酬の受け取りだ。  ついつい心が躍るのはしかたないのだろう。  俺なんかは最初どうだったかなぁ。  確か師匠に、いきなりゴブリン狩りに連れていかれて、満身創痍、報酬がどうのこうのよりも、命を繋いだことに感謝していたような、そんな気がする。  うん、やっぱり初心者がいきなりハントなんてするもんじゃない。  こういう地道な収集クエストから入るべきなんだよ。  と、今はもうめったに顔を合わすこともない、爺の顔を思い浮かべて俺は思った。 「お待たせいたしましたー!!」  いい感じに、師匠へのヘイトを募らせていた俺の耳に、ギルド嬢の明るい声が届く。  彼女は木製のトレイに金貨と銀貨を、それぞれ広げて持ってくると、俺達が待つカウンターの前へとそれを置いた。 「では、イエローマッシュルームの収穫クエストの報酬、銀貨3枚かけることの2籠で、銀貨6枚。続いて、レッドチリの収穫クエストの報酬、銀貨1枚かけることの2袋で、銀貨2枚。そして、良質の歩きマンドラゴラの報酬、金貨18枚」  と、そこまで言うや、怪しく笑う受付嬢。  彼女はさっとそこに、手の中から銀貨を二枚落としてみせた。  はて、これはいったいどういう趣向だ。 「そこに、ギュスターさんと、メルゥさんの結婚祝いで、私から個人的に銀貨二枚」 「おぉう!?」 「いいんですか!!」 「銀貨十枚で金貨一枚と交換ですので――はい、しめて金貨十九枚のお支払いとなります。収集クエストおつかれさまでした」  そう言って、十九枚の金貨が載ったトレイを差し出す受付嬢。  まだお天道様が頂上付近に居る昼間だ。  ギルドに居る同業者はいないが、もしこれが人前だったらいい恥さらしだろう。  実際、ほかの受付嬢――というには少しトウが立ったおばさんたちは、によによと気持ちの悪い笑顔をこちらに向けている。 「どうせギュスターさんのことだから、報酬は折半するとかそういうくだらないこと言い出すんでしょう。ダメですよ、夫婦なんですから、生計は一緒にしないと」 「要らない世話だっての、まったく……」  とんだ生き恥である。  穴があったら入りたい。そんな気分で、俺はトレイの金貨をひったくった。
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