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第24話 レア素材と遭遇したならこんな風に

 歩きマンドラゴラ。  それは普通のマンドラゴラと変わらない――けれども特別なマンドラゴラである。  そもそもマンドラゴラとはなんぞや。  歩き大根。万能薬。男の嗜み剤。あるいは魔法素材。  なんにしても、この世界で重宝されている、貴重な植物にして、冒険者ギルドに依頼されるクエスト収集物の一つである。  しかしながら、その収集難易度は、初心者のそれとは言い難い。  ひとつはそれを引き抜く際の絶叫音である。  彼らは、地面に埋まっているところを引き抜かれるのを極端に嫌う。それを無理に引き抜こうとすると、精神撹乱を起こす大絶叫を放つのだ。  身近でそれを聞いた人間は、すぐさま精神の平衡を失ってしまい、その場で狂乱する。  近くに回復技能を持った人間がいれば、その失った平衡を取り戻すことは容易だが、狂化した人間の扱いは難しい。一歩間違えば、死に至ってしまう危険な収集クエストだ。  しかしだ、それはマンドラゴラが地面に潜っている時だけに限られる。  地表に出ている時、それは例外なのだ。 「メルゥ、そっちに行ったぞ!!」 「はい旦那さま――てやぁっ!!」 「あっ、こら、何をそんな大振りで近づいてるんだ!! すばしっこいんだから、もっと慎重に捕まえろ!!」 「けれど旦那さま、こんな小さくてちょこまかと動くの、無理ですよ」 「無理でもやるんだ!! ただでさえ高価なマンドラゴラが、無傷で、それも絶叫による影響もなく手に入るんだぞ!!」 「なんでそんなに躍起になるのか、私には分かりません!! ただの歩く大根じゃないですか!!」  彼らがなぜ人の形をしているのか。  その理由は、単純明快でより魔力の豊富な土地――すなわち、肥沃な場所を求めて移動する生態を持っているからだ。  土地の栄養素をあらかた吸い尽くしたマンドラゴラは、次の自分の寝床を求めて、自ら土の中から這い出ると、その野太い足を動かして次の土地を探す。  そして、その僅かに地表に現れた瞬間を、狙って採ったマンドラゴラは、引き抜いた際の傷もなければ、絶叫により失われた栄養価もなく、まさしく、最高の一品として取り扱われる。  魔法使いも、薬屋も、金持ちの色欲デブも目の色変えて欲しがる、至高の一品なのだ。  つまり――。 「歩く黄金の大根だよ!! 市場価格は――金貨二十枚はくだらない!!」 「……メルゥ、頑張ります!!」  四つんばいになって、茂みの中にへと駆け込むメルゥ。  そんな彼女の背中を蹴って、ぴょんとマンドラゴラが宙を舞った。  チャンスだ。  自由落下してくるそれに向かって、俺は、念のために持ってきていた、ロープを投げつける。投げロープの技も、冒険者が習得しておくべき技能の一つだ。  それはマンドラゴラの太い足を絡める取ると、身体の自由を奪って、その場に落下させた。  地面へと潜る前に手元へ。  急いで引き寄せると、俺はその金の成る木――ならぬ、金に成る根を利き手に握った。 「……ドラァ」 「いよっしゃぁっ!! 歩きマンドラゴラ!! 採ったぞぉっ!!」  今日は仕事にならないなと、半ば諦めて出ていたのだが。  人間いいことをすれば返ってくるということだろうか。  手の中にうごめく金に成る根の感触に、俺はしばし感慨を覚えて立ち尽くした。 「さすがです旦那さま!! 見事なロープ捌き!!」  起き上がりこちらに戻ってきたメルゥが、泥まみれの顔をこちらに向けて言った。  あたぼうよ、こちとら冒険者何年選手だと思っているんだ。  下品と知りつつ笑いが止まらない。  いやぁ、ほんと、世の中うまいこと帳尻が合うようにできているもんだ。  マンドラゴラを個人用にと持ってきていた、小さな麻袋の中へと詰め込むと、俺はメルゥに向かって拳を突き出した。  ごつり、拳を打ち合わせる。  夫婦というより、これは普通に冒険者のパーティっぽいな。  まぁ、そういうのもいいだろう。こんないい日には。
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