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第23話 アフターケアするならこういう風に

 麻袋二つがいっぱいになるまでに、そう時間はかからなかった。  イエローマッシュルームと違い、こちらはこの通り、実害つきの面倒なクエストである。  受ける人間が少ないおかげもあって、レッドチリの株は取り荒らされずに、あっちこっちに生えていた。  そこに加えて、聞き耳のバッドの妹である。 「旦那さま!! こっちからあの嫌な匂いがします!!」  彼女の鼻に頼って道を進めば、そこには必ずレッドチリが見つかった。  才能がないなどと突っぱねた手前に言うのもなんだが、案外、彼女は野伏(スカウト)としての適正があるのかも知れない。  育てれば、バッドほどではないが、重宝される冒険者になれるのではないか。  そうなってくれれば、俺のような扶養者は別に必要なくなるな……。 「旦那さま!! ようやく麻袋がいっぱいになりましたよ!!」 「……」 「旦那さま!!」 「えっ!? あぁ、うん、そうか。ご苦労」 「もう、そんな言い方ないじゃないですか!! もっと私をねぎらってくれてもいいんですよ!! 夫婦なんですから!!」  そう言って、上目遣いに期待した目でこちらを見るメルゥ。  垂れ耳をはっはと息遣いと共に揺らして、物欲しそうな顔をこちらに向けている。  撫でて欲しいな、欲しいなぁ、欲しいよぉ、と、そんな声が聞こえた気がした。  このコボルト娘さんは、案外に甘えん坊である。  しかし、それはできない。  何故か……。 「レッドチリを収穫して、手にエキスがしみこんでる。こんな手で頭なんて撫でたら、おまえ、大変なことになるぞ」 「はっ!! そうでした!!」  急いで俺の前から身を引くメルゥ。  自分の浅はかさに気がついてくれたのなら何よりである。  しかし何より、人前でこそないが、暫定嫁の頭を撫でるなんて恥ずかしいことを、しなくて済んだのが助かった。正直、この辺りを出歩いている冒険者はいないと思うが、見られたらまたなんと言われるか、分かったものではないからな。 「旦那さま。けれどメルゥは、今日、頑張りましたよ」 「そうだな、それは素直に認めてやろう。えらいえらい」 「えへへ」  そう言ってはにかむコボルト娘。  そんな彼女が、これ以上苦しまなくていいようにと、麻袋を俺は受け取ると、それを腰に結わえたのだった。 「さて、それじゃこれで本日のクエストは終了だ」 「まだお昼にもなってませんね」 「まぁ、収集クエストなんてこんなもんだ――うん?」  ふと、脇の茂みに妙な気配を感じて、俺は視線を向けた。  がさり、ごそり、と、こちらに向かって、確かに何かが歩いてくる気配がする。  人の足音ではない、しかし、獣のそれともまた違う。  これはもしかしてひょっとすると、と、少しばかり口の端が吊りあがる。 「どうしたんですか旦那さま?」 「メルゥ。今日はツイてるぞ。金貨がそっちから歩いてやって来てくれた」  よりその音が発生している場所に向かって俺は意識を集中させる。  ほぼほぼ、それの位置と距離が特定できた。そして、この様子であれば、おそらく出てくるであろう茂みの方に視線を向ける。  小さな草木を掻き分けて、出てきたそいつは――。 「……ドラぁ?」  林の中からひょっこりと、その人の太腿くらいまでの背丈をした全身を、無防備に現すと、そんな間の抜けた言葉を発したのだった。  それは遠目には人の形をした植物。  裸婦像のような形に、緑の葉を髪のようになびかせて、歩くその姿は異様である。  そしてなにより――いつもなら、苦悶に満ちているその表情が愉悦に染まっていた。 「歩きマンドラゴラだ!! 捕まえるぞ、メルゥ!!」 「歩き、マンドラゴラ!?」  詳しい説明は後だ、うかうかしている暇はない。  奴が再び地面の中に潜ってしまうより前に、捕まえなくては。  一攫千金のチャンスなのだ。  これを逃す手はないぞ。
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