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第21話 保険をかけるならこんな風に

 イエローマッシュルームの収集は、一時間もかからずに終了した。  竹籠いっぱいに集まったそれを見て、なんだかやり遂げた顔をするメルゥをみると、こっちの方まで妙な満足感が湧いてきた。 「大量です!! これで銀貨3枚とか、ぼったくりではないでしょうか!!」 「ここから売り物になるのは半分くらいだからな。それに生産コストがそこそこかかっているんだ。まぁ、こればっかりはしかたないさ」 「旦那さま、やはり何個か持って帰るというのは」 「却下だ。というか、お前、結構そういう貧乏くさいところあるんだな」  貧乏くさいとは失敬な、と、メルゥが怒る。  事実だと思うのだけれども、どうして、それを認めないのか。 「節約は大切です。お金というのは、あればあるだけ使ってしまうもの。それをいかにセーブしていくかが、大切なのです」 「そうか? 俺は金なんて天下の回りもの、じゃぶじゃぶ使うのが大切だと思ってるが」 「明日突然働けなくなるかもしれないんですよ!! 蓄えは大切です!!」 「いや、俺、冒険者保険入ってるから。いざとなったら、見舞金出るし」  ちなみに冒険者保険とは、冒険の途中のアクシデントで、死亡・あるいは後遺症の残るような怪我を負ってしまった時に、見舞金を受け取ることができる互助会制度だ。  毎月、一定の金額を納めることにより、最悪、後遺症により冒険ができなくなっても、生活していくことができる支払いを受けれるのだ。  ただし、問題点として、たいていの場合死んでしまうので、かけておいても意味ないじゃん、というのが冒険者の大半の意見である。  ちなみにこの運用は、冒険者ギルドが行っており、暇そうにギルドでクエストの申請待ちなどをしていると、突然勧誘員に誘われることがある。俺などはもう長いから、それはもう何度も何度も、声をかけられてたまったものではない。  そう、入りたかったから入ったのではない。  毎度毎度、勧誘の声をかけてくる勧誘員がうざったいから入っただけなのだ。  しかし、入ってみれば、そこから更に契約の更新がどうの、積み立てプランがどうのと、なお五月蝿く言うようになってきた。  できることなら、入るべきではなかったと、今でも後悔していることの一つだ。  とまぁ、そんなことを思ったところで仕方がない。 「保険ですか。兄は、特に入っていませんでしたが」 「お前さんが居るのになぁ。まぁ、死ぬとは思ってなかったんだろう。前衛職でもなかったし、コボルトは逃げ足が速いから」 「私も、入った方がいいですかね、保険」 「やめとけやめとけ、あんなもん、めんどくさいだけだぞ。自分の食い扶持も稼げない間は、無理して入るようなもんじゃない」  メルゥのような世間知らずのお嬢ちゃんなど絶好のカモだろう。  必要のないオプションプランをバンバン上乗せされて、搾り取られるに決まっている。  あいつら、ほんとえげつないくらいに、そういう営業行動してくるからな。  それにそもそも、保険の厄介になるときは、死ぬときである。  お前が死んだとして、その死を悲しんでくれる人が居るのか――そこの所を考えて、入るか入らないかは吟味しなくちゃならない。 「とりあえず、残す人も居ないのに、保険なんて入ってもしかたない。その分貯金しとけ、それか自分に投資しとけ」 「残す人、居ますよ」 「あん?」  ぎゅっと、メルゥが俺の服の袖を引いた。  少し心もとなそうに、そして、寂しそうな顔をして、彼女は俺を見ている。  兄も死に、両親も死んで、天涯孤独の身なのだろう。  なのに何をそんな強がり――。  違うか。 「許さん。お前が俺より先に死ぬなど、俺が目の黒いうちは絶対に許さん」 「関白宣言ですか、旦那さま」 「五月蝿い。こんどそういう生意気なことを言ったら、またデコピンだぞ」  暫定嫁なんだ。そんな相手に残されたって、こっちは困るんだよ。  ほんと、困る。  だから守ってやらないとな。  せめて暫定が取れるその時までは……。
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