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第19話 起源を話すならこんな風に

 イエローマッシュルームはダンジョンの入り口近くにある林の中に発生する。  いや、人為的に環境を作り上げ、というのが正しいだろうか。  しっとりとしていて、きのこの促成栽培に適した森の一角に、冒険者ギルドと提携したきのこの生産農家が、堆肥の散布と、きのこの収穫を依頼しているというのが現状だ。  なんにせよモンスターが棲んでいる森の中に現れる発生するきのこだ。  環境を整えるにしろ収穫するにしろ、冒険者頼みなのは仕方ない。  もうちょっと、冒険者ギルドが、きのこの生産農家と話を付けて、賃金を上げて貰えれば、まだ遣り甲斐もあるのだがね、と、俺は思う。  と、言っても昔の経緯――マッシュルームの起源から、敬遠する者は多そうだが。  紆余屈折はあったけれども、今、俺たちは、冒険者ギルドで借りた竹網の籠を背負いながら、群生するマッシュルーム畑を目指して歩いていた。  昨日のクエストに対するリベンジと、ひそかにメルゥが意気込んでいるのが伝わってくる。  対して、俺はといえば久々に張り合いのない収集クエストに、意気消沈していた。  まぁ、初心者がどうこうと訓を垂れた後に言うのもなんだが。  やっぱり冒険の肝はモンスター討伐だよ。  腰に剣もぶら下げずに、森に入るなんて楽しい話じゃないよな。  そう、言えば――。 「イエローマッシュルーム。美味しいですよね。私も、大好きです」  何も知らない、と言った感じに、メルゥは気軽な言葉を発する。  心なしか、昨日よりもその声は踊っているように感じるのは何故だろう。  よほどリベンジが嬉しいのか、それともイエローマッシュルームが好きなのか。  なんにしろ、この様子なら、マッシュルームの起源について、彼女は知らんだろうな。 「ちなみにメルゥ。マッシュルームの起源は知ってるか?」 「はい? 起源なんてものがあるんですか?」  ある。  これを聞くと、あのふわりとした食感とやわらかい味のマッシュルームに、途端に嫌悪感を覚える奴が多いのだが――そうかやっぱり知らないか。  からかうつもりで言った訳だが、忍び笑いが漏れそうになる。  あえてなんでもない風を装いつつ、俺はメルゥとの話を続けた。 「知らないなら、それに越したことはない」 「あ、なんですかそれ!! 旦那さま、話を振っておいてそれはないです!!」 「いやだって、暫くマッシュルーム食べれなくなるぞ」 「え? そんな恐ろしいものなんですか――?」  だよなぁ。  振ったからには、ここで中途半端に腰を折るというのは、間違ってるよな。  聞きたいか、と、念を押す。  少しばかり間があったが、メルゥは俺のその問いに首を縦に振った。  好奇心旺盛というか、勇気があるというか。  こういうところは素直に感心するよ。  しかし――。 「マッシュルームってのはもともと、人里で発見されたものなんだ」 「人里に? 森の中ではないんですか?」 「きのこにはそういういイメージがあるよな。けど、違うんだよ……で、発見された場所が問題でな」 「場所?」  ごくり、と、メルゥが喉を鳴らす。  おぉ話に食いついてきた、食いついてきたと、俺は少しばかり気分が高揚した。  モンスターを罠にかけるのも楽しいが、人をこうしてハメるのも楽しいもんだな。  いや、メルゥが純真だからこそ、できるというものか。  ついに俺の顔が平静を装うことに限界を迎えた。  きっといやらしい顔をしているのだろう。  そんな暫定旦那の鼻につく笑いを前に、もう、と、コボルト嫁が声を上げた。 「もったいつけないで教えてください旦那さま!! いったいどこに生えてたんですか!?」  もったいつけ、存分にじらして、俺はそれを口にした。 「マッシュルームはそもそも、南国の馬小屋に自然発生したものなんだ」 「馬小屋」 「そうだ?」 「どうしてですか? 特に、発生の要因になりそうなものが、そこにあるとは思えないのですけれども――」  と、言いかけて、メルゥの顔がはっと固まった。  思い当たることがあったのだろう。  そう、馬小屋には一つだけ、栄養豊富で、きのこが生えてきそうなものがある。  それを畑に撒いたりして堆肥とすることは、汚いものに触れたことのない、貴族以外なら誰でも知っていることだ。  いわんや、黙り込んで強張った顔をするメルゥに、俺は顔を近づけるとゲス顔で言った。 「マッシュルームはもともと、栄養豊富な馬の糞から生えてきたものだ」 「い、いやぁぁああああっ!!」  よほどショックだったのだろう。  がぶり、と、ワンコ娘は俺に向かって飛びついてきた。  おう、もふもふとまぁ、いい感じの毛並みをしてからに。よいぞよいぞ。 「旦那さま、それは本当なんですか!?」 「本当だよ」 「じゃぁ、私は今まで、馬の――それに生えたきのこを喜んで食べていたんですか?」 「いんや。今は原理が解明されて、他の肥料に変わってる。イエローマッシュルームは、砂糖を精製し終わった、サトウキビを粉末状にして、土地に撒いて作られる」  まぁ、少しくらいは、堆肥として本来のそれも使うけれどな。  またしてもキョトリとした視線が俺の胸の中から覗き込んできた。  見る見るうちに、その眦は吊りあがっていき。 「旦那さま!! からかったのですね!!」 「はっはっはっ!! モノを知らないお前が悪い!!」  我慢ならない、そう打ち震えるメルゥの身体。  その感覚が直につたわってくる。  いやー、このコボルト娘からかい甲斐があるわ。  コミュ障の俺でもこれだけ簡単にからかえるんだから、どんだけチョロいのかね。 「旦那さまの意地悪!!」 「おう、俺はもともとそういう性格だ。何を勘違いしてたんだ?」  涙目になるコボルト娘に下卑た笑いを浴びせながら、しばし、俺はこそばゆい暫定嫁の締め付けを楽しんだのだった。  もう少し、胸があったらこれ、最高な感じなんだろうけどねぇ。  まぁ、そこを言っちゃうと、本当のゲスになるからいわんけど。
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