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第17話 依頼を受けるならこんな風に

 さて。  動きやすい私服に着替えて、冒険者ギルドにやって来た俺たち。 「あれ、珍しいですねギュスターさん。そんな格好してうちに来るなんて」  さっそく顔馴染みの受付嬢が俺の姿を見つけて声をかけてきた。  ちらりとその眼が、俺の隣に立っているメルゥに向かう。  が、特にそれ以上、彼女は何もそのことについて言ってくる気配はなかった。 「言えよ!! 他にも珍しいところがあるだろう!!」 「えっ?」 「もう早朝の受け付けラッシュも終わって、驚く奴が居ないんだからさぁ!! あるだろうこう、ギュスターさんがパーティ組むなんて珍しいですね、的な何かが!!」 「奥さんと連れ添ってクエストとか、冒険者ギルド舐めてるんですか? いいですね新婚さんはお気楽で、地獄に落ちればいいのに――とかでしょうか?」  怖い。  この受付嬢さん、顔色ひとつ変えずにいまとんでもないこと言ったぞ。  言えと言ったのは俺だけれども、そんな言い方ってないんじゃないだろうか。  というか、別に新婚じゃないし。  暫定嫁と暫定旦那だし。籍は入れてないんだから、許しておくれよ。 「あの、すみません、連れ添ってクエストなんかしちゃって」 「いえいえ、良いんですよ、冗談ですから」 「冗談には俺には聞こえなかったんだが。俺、君に何かしたっけ?」 「何もされてませんけど、なんかムカついたので言ってみました」  酷い。  そういや、この受付嬢さんが、男と街で歩いてる姿とか見たことないな。  仕事一筋でそういう縁がなかったのだろうか。だとしたら、可愛そうな人だ――。 「あ、今、哀れみの視線を送りましたね? カチンと来ました」 「なんで分かるんだよ!!」 「自分もメルゥさんに押しかけられなかったら、女に見向きもされない仕事中毒者(ワーカーホリック)のくせに、よくそんな目ができましたね。今日はギュスターさんには、割の良い仕事は回しませんので、そのつもりでいてください」  うへぇ。  出たよギルド嬢の職権乱用。  この人たち、自分たちがクエストの帳簿握ってるのをいいことに、気に入らない冒険者には本気で割りのいい仕事を回さないからな。冒険者やるならば、割と本気で、彼女たちのご機嫌だけはとっておいた方が良い。  そのために、コミュ障の俺も、馴染みの受付嬢である彼女だけは、良好な関係を築こうとしていたんだが――それもこれで水泡に帰したか。  ますますと娶るんじゃなかった嫁なんて。  と、まぁ、冗談はそこまでとしておこう。  気がつけばくすりくすりと声がする。  すぐに口元を隠して受付嬢がカウンターの向こうで笑いだした。 「もう、そんな格好して、最初から重いクエスト受ける気なんてない癖に。どうして、そんな驚いた顔してるんですか、ギュスターさんてば」 「君がひどいこと言うからだろう。もう、勘弁してくれよ、心臓に悪い」 「あれ、まだ心臓あったんですか?」 「あるわい。まだまっとうに人間やっとるわい――それより、そろそろ本題に入らせてもらっても、構わないかな」  えぇ、もちろん。  そう言って受付嬢は薄くなったクエストの帳簿を、カウンターの前に広げる。  そこに載っているのは、いわゆる、割に合わない成功報酬の低レベルクエスト。  昨日、メルゥの奴が失敗した、きのこ集めなんかのクエストばかりであった。  
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