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第16話 準備をするならこんな風に

 そんな訳で。  唐突に始まった第一回家族会議は、メルゥと俺の暫定的な夫婦関係、そして、彼女が今後「冒険者」として生計をたてるという意思を確認することで終了した。  外を見れば、まだ太陽は隣の家の屋根すら越えていない。  さてさて、一日の計を立てて、行動するには遅すぎる時間ではない。 「んじゃまぁ、それなら早速にでも、お仕事に行くとしますか」 「あっ!! 旦那さま、私、装備を自宅の方に――」 「いらん。あれはバッドの身体に合わせて作った特注装備だ。もったいない精神も大切だが、無理して着るようなもんでもない」 「そうなんですか?」  それに暫くは、《《そんな装備も要らないようなクエストしか受けられない》》のだ。  いやまぁ、正確には、俺が受けさせないのだが。  それはそれとして、一つ、ここはサービスで教授しておいてやろう。  冒険者の心得という奴を。  相変わらず正座したままのメルゥ。  そんな彼女の前で俺は彼女に負けじと劣らずとばかり、背筋をぐいとめいっぱいに伸ばすと、腕を組んでじろりと彼女を睨みつけた。  貫禄でているかね。  冒険者の先達としての威厳はでているかね。  でているといいのだけれども。 「まず道具からってのは、冒険者初心者の悪い癖だ。装備は冒険者の腕を補いこそすれ、本質的な力を底上げしてくれるほどのもんではないと覚えておけ」 「はい、覚えました!!」 「大切なのは業だ、勘だ、経験だ。装備なんてのは、せいぜい、それを阻害しない程度でいい。それが冒険者としてまずは心得ておくべきことだ」 「はい、心得ました!!」  よく、アホな初心者が、フルプレートメイルを着こんでクエストに挑み、途中でその重たさに根を上げて、裸になって帰ってくるなんてことがある。   また、これまたバカな初心者が、ろくすっぽに制御も出来ない大剣を背負ってクエストに挑み、移動の最中に怪我をして帰ってくるなんてことがある。  装備なんて受けるクエストに合わせて変えるのが当たり前だ。  そして、どれも十全に使いこなせてこそ、冒険者として一人前の仕事ができる。  そんなものに対するこだわりなんぞ早々に捨ててしまうに限るのだ。 「それに、どのみち今日はそんなものはいらん」 「いらない?」  どうしてでしょうか、と、不安げに首を傾げるメルゥに、俺はふふふと不適に微笑んだ。  ほんとこいつは、冒険者のことをなんも分かっていないようだ。 「あ、分かりました!!」 「なんだメルゥ、言ってみろ」 「旦那さまが私のことを守ってくださるということですね!! お優しいです旦那――ふにゃっ!!」  俺はメルゥの眉間にデコピンを食らわした。  加減は分からんが、とりあえず、酒場の連中に時々かます程度のものだ。  そこそこ痛かったのだろう。メルゥは膝を少し崩すと、うぅと涙目になって打たれたその眉の間をもふもふとした手でさすった。 「馬鹿たれ!! 他人に不必要に期待するのも冒険者初心者の悪癖だ!!」  まぁ、今日くらいはレクチャーしてやってもいいがな。  というかそのつもりだったが。  どうせ今から冒険者ギルドに行ったところで、割のいい仕事は残っていないだろう。  こいつの仕事を見守ってやろうとは思っていた――。  だが。 「甘ったれるな!! 楽観するな!! シビアに考えろ!! 独りでクエストをこなせる冒険者になる、そういう心構えを大切にしろ!!」 「うぅっ、旦那さまはお厳しいです。もっと優しくしてくれてもいいじゃないですか」 「亭主関白って奴だよ。俺は優しくない旦那さまだからな、これからもお前がちょっとでも生意気言ったら、、だからな」 「――ふみゅぅ」  なんだか寂しそうに俯くメルゥ。  そんな彼女の顔に、罪悪感がブーストされた。  テレ隠しの仕方を間違えた。  こういう時、どうするのがアレなのかね、男として、旦那として妥当なのかね。  ボッチが長過ぎて分からないの。だって俺、コミュ障だから。
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