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第15話 仕事を決めるならこんな風に

 さて、不要な誤解も解けたところで本題である。  暫定嫁というふんわりとした状況を脱するために、可及的速やかにメルゥはなんの職業につくべきなのか。そこの所を決めなくてはいけない。 「メルゥ。ちなみにお前さん、バッドの奴が生きてた頃は、何か仕事をしてたのか?」 「――すみません。私、まだ、子供だったので、特にこれと言って何も」 「まぁ、バッドの奴はそこそこの稼ぎ頭だったからな。ていうか、よく考えたら蓄えとかないのか? あいつ?」 「――狂化病で迷惑をかけたパーティメンバーの方に、見舞金を払いましたので。今残っているのは、兄が昔使っていた装備と借家くらいです」  その借家の方も、家賃の滞納で追い出されそうで、と、どんよりとした空気を背負って、その場にメルゥは俯いた。  なるほど、それで焦って冒険者になったはいいがという訳か――。  なんとなく事情は察することができた。  まぁ、よくある話なので、同情するつもりはない。  ここはやはり現実的な話をするべきだろう。  すなわち――。 「どうだ? これからも冒険者として、やっていく自信はあるか?」  メルゥがこれから続けることができる現実的な仕事を決める――ということ。  同情も憐憫も、その後だ。まずはそこをはっきりとさせないと話がはじまらない。 「ちなみに、冒険者をやってる立場から言わせて貰う。お前、才能ない、やめとけ」 「――そんな!!」 「となると、女工か農婦になるんだが。手先は器用なほうか?」 「――あまり」 「土作業についてはどうだ?」 「――とくに」  どっちも、ついと、俺から視線を背けて彼女は言った。  掃除・洗濯・食事と一通りできるというのに、とんだ箱入りコボルト娘だ。  バッドの奴、こんな娘を将来どうしようと思ってたんだ。  金持ちの同族の嫁にでもやるつもりだったんだろうか。  まぁ、実際こうやって押しかけられてみると、良い嫁になりそうな気はひしひしと感じるが。もうちょっと、世間を生きてく技術みたいなのを、学ばせてやっといた方がよかったのではないだろうか。  何を仕事にするにしても、こりゃ苦労するぞ。 「ちなみに、金持ちの屋敷でハウスキーパーをやるなんてのも選択肢としてない訳ではない」 「ハウスキーパー!! お洗濯・お掃除はお任せください!!」 「しかし、コボルトのメイドさんに理解のある金持がいないと話にはならん」  なかなかね、そういう所は難しい。  メイドギルドというのがこの街には存在しているのだけれど、酒場の話を聞く限り、いろいろと派遣先の趣味がどうこうと五月蝿いらしい。エルフのメイドを求めていたり、たちの悪いのだと、メイドをメイドと思ってない奴もいるとのこと。  そのあたりは、メイドギルドが雇った、怖いコワイ用心棒が懲らしめているので、オイタはほどほどにしかできないが――。  なんにしても、需要がないと、コボルトメイドは勤まらない。 「ダメですかねぇ」 「登録だけしてみりゃいいんじゃねえか。四六時中家事っていうのも、大変かもだけど」  仕事に行っても家事。  家に帰っても家事。  家事漬けの毎日を、果たしてメルゥは楽しめるのか。  案外、楽しんでいそうだな、と、思ってしまったのは――あれだけ無造作に散らかっていた俺の部屋が、たったの一晩でこざっぱりと片付いているからだ。  これはなかなか、そういう適正がないとやれないものである。  なので、あとは需要だな――なんて思っていたところに、メルゥがまた真剣な表情をこちらに向けてきた。  何か腹を括ったらしい。 「――旦那さま」 「うん」 「いろいろと考えましたが、やはりメルゥは、冒険者として、生きていきたいと思います」 「なんで? 向いてないって、さっき言っただろう。やめとけやめとけ、あんなのは、野蛮人のする仕事だ」  自分の稼業でもあるんだけれどね。  まぁけど、まともな奴がやる仕事じゃない。  普通の人間ってのは、麦を育てたり、鉄を打ったり、糸を巻いたりして生計をたてるんだ。  モンスターを屠ってギルドに卸す仕事なんて――まっとうじゃないよ。血に飢えた、獣の所業だ。 「それでもメルゥは冒険者をやりたいです」  強く、真っ直ぐな視線をこちらに向けて、メルゥは言った。  一度言い出したら、コボルト族は簡単に退かない。  金色の毛並みが揺れて、こげ茶色の鼻先がこちらを向いていた。  目の奥に、駆け出し冒険者の気概を忍ばせて、メルゥは、俺をじっと見ていた。  どうか許してくれないでしょうかと、そんな言葉が聞こえてきそうだ。  許すも何もない。  彼女がそうしたいというのなら、それは彼女の自由だ。 「もう一度言うが、才能はないぞ」 「構いません。むしろ、その方がかえって身が引き締まります」 「なるほど、良い返事だ」  ちなみに、俺も師匠に才能がないと言われて、再三弟子入りを断られてこの体だ。  はっきり言おう、才能なんてものが分かる人間なんて、この世には居ない。  用は結果論である。  今現在、彼女のスペックをして、冒険者をするのは難しいだろう。  しかし数年後、経験と知識を得た彼女が、冒険者としてどうなっているかは、誰にも想像のつかないものなのだ。そして、その時々によって、冒険者に求められるものも変遷していく。  だとすれば、何をするにしても、大切なのは強い意思だ。  その仕事を生業とする――その覚悟が大切なのだ。  それがあるなら、俺は彼女が冒険者をやると言っても、止めはしないさ。  止めはな。 「ちなみに、なんでそこまで冒険者に拘る?」  俺はそんなことを聞いてみた。  純粋に気になったのだ。  こだわりがあるようには特に思えなかった。  しぶしぶと、仕方がないので冒険者として金を稼ごうとしていた、そんな風に、これまでのやりとりからは感じていた。  それが、どうして彼女がここまで腹を据わらせて、やりたいと言わせるまでに至ったのか。  その理由を俺は聞いておきたかった。  なぜかって。 「それはもちろん――ひと時も離れず、旦那さまと一緒にいたいからです!!」  嫌な予感がしたからに決まっているじゃないか。  俺は見事にその予感が的中したことに絶望して顔を覆った。  神よ。なぜ、こんな健気な暫定嫁を、俺に遣わしたもうた。勘弁してくれ。  
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