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第14話 ふっかけるならこんな風に

「それについては確かに一理ある」 「はい。家事労働は一般的に重労働です。運命を共にする相手であれば、金銭的価値など鑑みるまでもありませんが――旦那さまがおっしゃるように、あくまで一時的な協力関係にあるのであれば、その辺りははっきりとさせておきたいと思います」 「うむ。ちなみにだが、メルゥ、自分で自分の日当を決めていいなら、お前はどれくらい俺に請求する?」  そうですね、と、首を撫でながら考え出すコボルト娘。  ここまでしっかりとした発言をしておきながら、そこの当たりは考えていなかったらしい。  まぁそりゃそうか。  俺も自分の家事に値段を付けろなんていわれて、ポンとその値が出せるものではない。 「どうでしょう、金貨一枚で一日生活できますから、その半分くらいでしょうか」 「ほう。そんな安くていいのか?」 「――どういうことです?」  言葉の通りの意味だ。  俺の部屋を片付け、料理を作り、汚れた服を洗濯する。  その奉仕の対価が金貨半分とはちょっと安いのではないかと、思った次第である。  そこは堂々と、金貨一つと言っても、俺は別に構わない。  いや一枚でも少ないかもしれない。二枚と言っても、俺は別に、それでも構わなかった。  と思うからには、俺にも一つ考えがあったからだ。 「金貨一枚半じゃ、割りに合わないと思うなぁ」 「割りに合わない?」 「そうそう。お前さん、俺の嫁さんとして――家事だけして生きていく気なわけ?」 「――家事だけしていては割に合わないと、そうおっしゃりたいのですか?」  そうだ。  家事だけこなして、この床の上にぶちまけている金貨と同じ枚数、金を稼ごうと思ったならば、三年ちょっとはかかってしまうだろう。  人間の人生は短い、コボルトの人生も同じくらいに短い。  貴重な三年を、そんなことで使ってしまっていいのだろうかと、俺は思う。  家事意外にもできることはあるはずだろう。  よく、考えて見ることだ。  俺はじっとメルゥの顔を見た。  冒険者になるのか、商工ギルド所属の女工になるのか、はたまた農婦をやるのか。  なんにしても、彼女はその選んだ未来の職業で、生計を立てるまでは親方について仕事を学ばなければならない。  その間、条件が悪ければ無給で仕事をすることにもなるだろう。  まだそれもいいほうだ。場合によっては、指導料を取られることもある。  冒険者なんかはまさしくその際たるパターンだろう。多くの熟練冒険者が、弟子と称して駆け出し冒険者を囲い、クエストの上前をはねるなんてことをしている。  というか、うちの師匠もそうしてたしな。  目の前に転がっているのがその証拠な訳だし。  まぁ、最後には、こりゃ取っておけと、つき返してきやがったが――ほんと、嫌な爺だったぜ。今頃どうしているんだか。  なんてことを思っているうちに、メルゥの決意は固まったらしい。 「分かりました旦那さま。では、金貨二枚で、お願いいたします」 「おう、大きく出たな」  まぁいいさ。それくらい、俺も払ってやってもいいかなと思っていたんだ。  それで手を打とうじゃないか、と、俺が笑うと――。  何故かメルゥ、視線を伏せると、目元を少しだけ赤らめさせた。 「あの、旦那さま」 「うん? どうした? いいぞ、金貨二枚。全然それくらい、払えるくらいに俺稼ぐし」 「――私、その、最初に会った時に言いましたよね?」  何の話だ。  メルゥが何を言いたいのか、いまいちよくその言葉の意図がつかめない。  俺はてっきり、今後自分の生業とする職を決めて、それを学ぶのに必要な経費を、俺の世話代にあてたのだとばかり思ったのだが。違ったのだろうか。  というか、なんだ、最初に言ったことって。 「あの、私、その、経験がありませんので」 「あぁ、冒険者になるのか。そうだな、弟子入りするにしても、稽古料金貨一枚から半はかかるから妥当なとこなんじゃないの」 「いえ、それではなくて」 「なくて?」  もじもじと、恥ずかしそうに胸の前で手を組んで、尻尾をむず痒そうに震えさせるメルゥ。  言われなくても分かる恥じらうその様子に――俺は少し嫌な予感がした。  あ、これ、また、変な勘違いをしているパターンだわ。 「あの、どれだけ旦那さまを満足させることができるか、わかりませんが、夫婦の夜のいと」 「あーっ!! 金貨一枚!! やっぱり金貨一枚でお願いします!!」  違う違う、そうじゃない、そうじゃないんだよメルゥさん。  というかそういうのは、ちゃんと暫定が取れてからにしましょう。  ねっ、そこは一応、線引きしておきましょうよ。
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