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第13話 命の値段を決めるならこんな風に

 俺は家の奥に行くと、普段はまったく使わない金庫の前に立った。  回転式のロックの番号を合わせて、ゆっくりとそれを引く。  別にたいしたものが入っているわけじゃない。  基本的に、俺はクエストの報酬をそのまま、冒険者ギルドに預けている。あそこはそういった、冒険者相手の金庫商売もしており、必要なときに必要な額を引き出すことができる。  多くの冒険者が俺のように、冒険者ギルドに金を預けている。  もちろん、死んでしまえばそのまま冒険者ギルドに金が没収され――と組織側に強い制度でもない。万が一の場合には当然、もっとも近い近親者にその金は還付される。  はて。  バッドの奴も、いくらかを冒険者ギルドに預けていたはずだ。  そういえばそれはどうなったのだろう。  いや、メルゥを養っていたことを考えれば、まとまった額をギルドに預けて居なかったのかもしれない。とりあえず、それは置いておくとするか。  そんな、訳で、金庫だからと言って、何か金目のものがあるわけでもない。  しかしまったくない訳でもない。  俺はそこから一握り大の麻袋を手に取る。  相変わらず、じゃりじゃりと、気味の悪い音がした。  この音を聞いていると、忘れたい過去を思い出して嫌なのだが、そうも言っていられない。  命の価値を語るのに、これより適したものを俺は知らない。  それは、これを集めた俺が、なにより一番知っている。  再びメルゥが待っている床の方へと移動する。  板間の上にどんとそれを置いて、中身をぶちまければ――金貨の山がそこに積みあがった。  わぁ、と、メルゥが声をあげる。 「金貨がこんなにいっぱい!!」 「おう」 「旦那さまは、お金もちなのですか!? 見たことないです!!」 「これくらい普通だろ。いいかメルゥ、これがいわゆる、俺の一年の命の価値だ」 「一年の命の価値?」  つまるところ、一年、何もしなくても食っていけるだけの金貨。  それが、この麻袋一個分という訳である。  これは俺が冒険者として独り立ちする際――嫌々ではあるが、下についた師匠から課せられた修行の一環として集めたものだ。  。  あの性悪剣士はそう言って、俺の独立を阻んだ。おそらく、俺をもっと小間使いとして、体よく使いたかったのだろう。一年と言ったが、実際には、一年半近くは暮らしていけるだけの額があった。  まぁ、そこは根性で半年で集めて、さっさと出て行ったが。  あの時のアイツの間の抜けた顔は今思い出しても傑作である。ざまみろだ。  ただ、彼が示したことは間違いない事実だ。  これくらいの蓄えをできない人間に、冒険者家業は勤まらないし、他の仕事も勤まらない。  独り立ちして生活していける。  そう言いきるための一つの指標――命の価値としてこれほど適切なものはないだろう。 「メルゥ。金貨の枚数を数えろ。これが今より、お前の命の価値だ」 「命の、価値」 「どういうやり方でもいい、これと同じだけの金貨を稼いで俺によこせ。それでお前の命の価値に対する、俺への償いは完了する」  回りくどいことを言ったが、要約するとこうだ。  お前が独り立ちできるくらいの金をためられるようになるまで、面倒は見てやる。  嫁だの旦那だの、浮ついた話はその後にしようや、と。  冒険者になるにしろ、ギルド所属の女工になるにしろ、農婦になるにしろ、ちゃんと生計を立てれないことには話にならない。  そしてそんな中途半端な状態で、彼女を外に放り出すのは俺も本意じゃない。  ここら辺りが落としどころだろう。俺はそう考えていた。 「もちろん、他人になるとなれば、俺に全額渡したらお前は素寒貧ということになる。倍くらい金を貯めてから、出て行くというそれでもいい」 「――旦那さま、一つよろしいでしょうか」 「なんだ」 「大切なことを旦那さまは忘れておいでのようです」  なんのことだ、と、俺はメルゥの方を見る。  おほんと、咳払いをするコボルト娘。  少しだけいい辛そうに、そして、申し訳なさそうな顔をして、彼女は切り出した。 「女性の家事もタダではありません。ここで旦那さまのお世話をするなら、それに見合った対価をお支払いいただきたいと思います」 「――お前、しっかりしてるなぁ」 「しっかりしている嫁はお嫌いですか?」  嫌いかはどうかは分からないが、とりあえず、乗り気になってくれたようで嬉しいよ。
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