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第12話 提案するならこんな風に

さま、一つ提案があります!!」 「なにかね、発言を許可する!!」 「――とりあえず、暫定というのを取りませんか? なんか言いづらくてかなわないです」  そうね、それは俺も思っていたよ。  暫定であるという相互理解を得られたなら、あとはどう呼び合っても問題ないだろう。  というか、暫定旦那さまという言葉の響きに結構なショックを受けた。  そういうしかないからそう言ったまでのことだが、ごめん、メルゥ、言葉が悪かった。 「では、さま。これからも、私は、旦那さまとおよびしてよろしいですか?」 「あれ、メルゥさん、ちょっと怒ってる」 「怒ってなどいません暫定旦那さま。それより、はい、ですか、イエスですか?」  おかしいなぁ。  どっちも肯定の言葉に俺には聞こえたんだけれど。  絶対怒ってるよねこれ。やだやだ、だからコミュ障が無理にコミュニケーションなんてとろうとするものじゃないんだよ。  じとりこちらを睨むメルゥに、うん、いいですよ、と、おそるおそる首を縦に振る。  すると、こほんと咳払いをして、メルゥはその場で背筋を伸ばした。 「なるほど、旦那さまの言い分もよく分かりました。命を助けられた、私は、旦那さまの言葉に従いましょう。それも妻として、嫁としての勤めでしょうから」 「あー、うん、なんかごめんね」 「旦那さまから言ったことでしょう、そんな軽々しく謝らないでください」  はい、ごめんなさい。  また恐縮して頭が下がりそうになるのを、俺は彼女の視線でなんとか思いとどまった。  クエストで会ったときにはへっぽこだったというのに、このちょっとドラゴンにも感じたことのない無意味な迫力はなんなのだろう。  うぅん、謎だ。  女性って、家庭ではやっぱり強くなるものなのだろうかね。 「ちなみに、旦那さまは私のことをどう呼んでくださるんですか?」 「え? あぁ、いやぁ――メルゥって、呼び捨てでいいんじゃない」  金色の垂れ耳が揺れて、エメラルドの瞳がこちらを睨んでいた。  あれ、気に入らなかったのだろうか、と冷や汗をかいた瞬間――それを見計らうように、ご機嫌にメルゥは笑った。  どうやら呼び方について、異存は特に彼女の方にないらしい。  乙女心って複雑だなぁ。  いや、人間の心が複雑なのか。  なんだろう、一応、俺も孤児って訳じゃないから、それなりに人とのコミュニケーションはとってきたつもりなんだけれども。どこに置いてきたんだろうね、そういうスキル。 「おほん。それで、メルゥ。重要なのはここからなんだが」 「はい、旦那さま。なんでしょうか」 「君のについて、しっかりと合意を取っておきたいんだが、どうだろう?」  それはすなわち、暫定というお互いの関係が解消される条件――そういうことだ。  もちろん、ここでべらんぼうめに安い値段を提示して、さっさと赤の他人に戻る、というのも悪くない話である。  しかし、頑固で律儀なコボルト族がここで妥協するはずもない。  そしてなにより、俺にはそんなことよりも、もっと気になることがあった。 「はい。命の値段――それの定義が曖昧では、いつまでも、暫定が取れませんからね。そこは最優先の検討事項です」 「あ、暫定取る気まんまんなんだ」 「旦那さまは、暫定のままがいいんですか? それとも――」  細かいことを言い出すと泥沼になりそうだ。  目の前の金色の毛並みをしたコボルトから発せられる、よく分からないオーラをひしひしと感じながら、俺は、さっそくその金額についての説明をすることにした。  もちろん、俺だって、暫定なんて曖昧な状態を良いとは思っていないさ。  できることならさっさと他人になりたい。  最悪でも知り合い程度に。  嫁がどうこうと嘆いたことはあるけれど、俺のような明日の命も分からない奴に嫁さんなんて、どう考えても荷の重い話なんだから。
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