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第11話 家族会議をするならこんな風に

 腹がいっぱいになっていると神経というのは落ち着くらしい。  温かいスープであったまり、ボリューミーなサンドウィッチで膨れた腹で家の外に出ると、俺はいつもの木の下でちと遅い瞑想――ルーティンにとりかかった。  すがすがしい気分だった。  いつもより、精神と身体の調和ができているような、心地だった。  道に人の姿がちらほらと見え出す頃、ようやくその日課を終えた俺は、急いで立ち上がると我が家へと戻った。  そう、メルゥが俺の食べ終えた食器を洗って、待っているだろう我が家に。 「家族会議ぃいいいいいい!!!!」 「――ひゃん!! なんですか旦那さま!!」 「第一回、家族会議を開催する!! そこに座りなさい、!!」 「!?」  いいから、と、俺は洗濯物をたたんでいたメルゥを、無理にその場に座らせた。  俺が部屋干ししていた、冒険で使うインナーやら靴下やらそんなものを、丁寧に彼女は折り畳んでくれていたらしい。なんてできただろうか。  しかし、今はそんなことはどうでもよいのだ。  可及的速やかに、今後のことについて――俺とのメルゥについての関係性を、はっきりとさせなくてはいけない。  そのための、家族会議である。 「あの、というのは?」 「コボルト族の律儀さには、流石にこの俺も参いりました。お前が俺のことを、旦那さまと呼びたいのならば、今後も好きにするがいい」 「あ、ありがとうございます」 「しかし!! 断じてそれは世を忍ぶ仮の姿!!」 「――旦那さま。もしかして、まだ酔ってたりします? 白湯を用意しましょうか?」  酔ってなどいない。俺はいたってまとも、今もってして平常心である。  瞑想によりしゃっきりすっきりとした頭で、俺はメルゥにとって、そして俺にとって、いったいどうするのが最善なのか、そして、今後どういう関係を築いていくべきか考えた。  その末――思い至ったのがこのである。 「メルゥ!!」 「はい、旦那さま!!」 「確かに俺は、命を助けて貰った恩を返せとお前に言った!!」 「はい!! その通りです旦那さま!!」 「金もない、モノもない、だからお前は自分の身体でそれを返すと言ったな!!」 「言いました旦那さま!!」 「男とコボルトに二言はない!! お前は俺の嫁になると言った!!」 「はい、お嫁さんです!! 旦那さま!!」 「そして俺も男だ身体で返せと言ったからには、お前を嫁にしないわけにはいかない!!」 「というか、既に嫁のつもりでした旦那さま!! 違うのでしょうか!!」  朝っぱらから大声で、なんちゅうやりとりをしているのか。  無駄に元気がいいメルゥもそうだが、俺も柄にもなく大声を張り上げている。  ご近所様からうるさいと苦情が来ても文句は言えない。  しかし、家族に関わる大切な話だ――ここは退けない、簡単には済ませられない。  きっちりと膝を突き合わせて正座して、こちらを見ているメルゥ。  口の中にしっかりと舌をしまって、真剣なまなざしでこちらを見る目は、こっちがしり込みするくらいに真っ直ぐで、かつ澱みがない。  人見知りスキルを発動して、さっとその視線から逃げたくなるのを俺は我慢した。 「違う!! お前はあくまで、俺に対する命の対価を払いきるまでだ!!」 「暫定なのですか、旦那さま!!」 「そうだ!! お前は、愛のない結婚に意味があると思うのか、メルゥ!!」 「愛なんて結婚してから育めばいいと思います旦那さま!!」 「うぅん、文化の違い!! なるほど、そこにも一理あるが!! 言わせてくれ――」  俺はこんなお互いのことをよく知らぬまま嫁を娶る気にはなれない。  そう、きっぱりと、俺はメルゥに言い切った。  彼女のその力強く、そして純粋な視線に負けないように、精一杯男らしく、威厳を込めて。  言ってる内容はとてもしょーもないことのように思ったが。  それでも、お互いの気持ちが離れているのに、結婚するなんてのは、おかしいだろう普通。  命を助けて貰ったお礼に結婚するだぁ。  そんなのは、吟遊詩人が歌って聞かせる物語の中だけの話だ。  きょとん、とした顔の後、寂しそうに俯いたのはメルゥだ。 「つまるところ、旦那さまは、私のことが嫌いなのですか?」  そんなことを聞いてくるかな、とは、思っていた。  そして、それを問われたら、俺はどういう言葉を彼女にかければよいのだろうかとも考えていた――。 「分からん!! 好きなのか、嫌いなのか、そこからしてよく分からん!!」 「はっきりしてください旦那さま!!」 「故にである!! お前のことをとりあえず、一時的に、俺のお嫁さんだとする!! お前の面倒を、暫くの間見ることを俺は約束する!!」 「では、私はどうすればよいのですか、旦那さま!!」 「全身全霊全力でもって、俺の暫定嫁としてご奉仕しろ!!」 「わかりました旦那さま!!」  その上で、結婚するかどうか、改めて判断しようじゃないか。  瞑想の末にひらめいた、これこそが、俺が最大限メルゥとの関係について、彼女にしてやれることであった。  しかし、自分で言っておいてなんだが、とは、また酷い言い方だなぁ。
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