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第6話 事情を知るならこんな風に

「まぁ、けど、逆に良かったんじゃないですか?」 「うえっ!?」 「ほら、ギュスターさんてば、人見知りが激し過ぎて、パーティはおろか相棒、お嫁さんだってもらえるかどうか怪しかったじゃないですか。それが、一気に解決しましたよ」 「解決してないっての!!」  ギルド嬢から返ってきた言葉に、俺は一瞬耳を疑ってしまった。  よかったんじゃないですか。  何がだ。  どこにいったいよかった要素があっただろうか。  俺はコボルト娘に取り付かれて、運びたくないウッドサーバルを運んで、おまけにギルドの連中に天変地異とののしられ、あげく唯一の知り合いである彼女に白眼視されたのだぞ。  最悪だ。  人生これまで生きてきて、そこそこに嫌なことはあったように思う。  けれど、そのどれも上回って今日は最悪の日である。  できることなら、今日と言う日を朝からもう一度やり直したい。  ドラゴン狩りに出かけず、手ごろな冒険をして時間を過ごしたい。  そう例えば――イエローマッシュルームの採取とか。  うん? 「そういやお前、イエローマッシュルームの採取クエスト、どうするんだ?」 「あっ!! すっかりと忘れてました!! 今からでも間に合うでしょうか!!」 「いや、無理だろ。というか、夜になるとイエローマッシュルームはしぼんじまうから」 「そうなんですか……じゃぁ、クエスト失敗って奴ですか」 「奴ですな」  がぁん、と、青ざめた顔をして、それから下を向いたメルゥ。  ぐすんと鼻先が揺れて、それから塗れた。  まさにワン公という感じのリアクションである。分かりやすいな、ほんとこいつ。  そんな彼女にギルド嬢があははと声をかける。 「ギルドのクエストは、失敗しても罰金とかないですから。また明日、旦那さまについてもらって、しっかりとやり直してはいかがでしょうか」 「そうですね。旦那さま、よろしくお願いいたします!!」 「いや、だから、誰が旦那さまだっての。やらんぞ、俺は、そんなこと」 「けど書類仕事だけはちゃんとしておいてくれないと困りますからね。えっと、申し訳ないですけれど、冒険者名を教えていただけますか。今日受けつけた、クエスト台帳から受付票を引きますので」  そう言って、にこやかにギルド受付嬢がメルゥに言う。  手に握られたクエストの依頼受付票は、もうすっかりと薄くなっていた。  先ほど逃げていった、冒険者たちも、仕事上がりという感じだ。  おそらく、あの帳簿の中に残っているのは、泊り込みでハントをするクエストと、こいつのようにどじ踏んで、帰るのが遅くなった奴らのだけだろう。  えっと、と、少し戸惑った感じでメルゥが前に出る。 「メルゥ・ウォーレンです」 「……ウォーレン?」 「はいはい、ウォーレンさん、ウォーレンさん。あったあった。今日が始めてのクエストなんですね。その割には装備が充実しているような」 「えっと、それは、その……家にありましたので」  家にあった、というのは、つまり、彼の肉親の誰かが冒険者だということだ。  そして俺には彼女が語った、ウォーレン、という苗字に聞き覚えがあった。 「お前、聞き耳のバッド・ウォーレンの妹か?」 「あ、はい。兄のことを知っているんですか、旦那さま?」  そりゃなぁ。  聞き耳のバッド・ウォーレンと聞いて、ぴんと来ない奴は、このギルドにはいない。  もちろん、その名を聞いた途端に、ギルド受付嬢の顔つきも変わった。 「バッドさんの、肉親者ですか」 「……はい」 「残念だったな。俺も、話には聞いている。しかし、冒険者をしていれば、そういうことはよくある話だ」  別にとりたてて、彼女の身内に起こった不幸を、哀れんでやる義理はない。  旦那さま、旦那さまと、彼女は俺のことを言うが、結局、赤の他人である。  だから、彼女の兄が――聞き耳のバッド・ウォーレンと呼ばれた、この冒険者ギルド一のスカウトスキルの持ち主だったとして、それをどうこう思うことはなかった。  けれども。 「旦那さま」 「んだよ」 「腕を握っても問題ないでしょうか」 「……仕方ねえな。面倒くさい奴」  目の前で、寂しそうにしているコボルト娘に、優しくしてやるのは、男として当然のことのように思えた。  ぎゅっと、きつくならないように、優しく俺の腕に両手を絡ませるメルゥ。  どうしてもっと強く握らないのだろうか。  それくらい君は悲しい目にあっただろうにと、柄にもなく、俺は彼女に優しい感情を抱いてしまった。  ほんと、柄にもない。
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